八章 ~海 下衆の復活~
ひとしきり泳いだ後、みんなでお昼ご飯になった。……約一名、埋葬されているけど。
「折角の海なので、お弁当も魚介メインにしました」
中田君が作ってきてくれたお弁当は、エビチリとか、カキフライとか、とにかく海産物が中心だった。
「お刺身は?」
「腐るので入れませんでした」
「そんなぁ!? 魚介じゃないじゃん!」
至極真っ当の理由で内容を決めた中田君に対して、理不尽な抗議をするあやめさん。この人なら、食中毒になってもお刺身を食べる、くらいの我侭は言いそうだし……。
「この夏場に生物をお弁当に入れたりしたら、それはもう殺人行為です」
「ぶぅ~……優の石頭! 頑固! 頭でっかち!」
「何とでも言って下さい」
あやめさんに罵倒されても、まったく堪えていない中田君。それでもあやめさんの糾弾(?)は止まない。
「鬼! 悪魔! しゃもじ!」
「最後のは、杓子定規に引っ掛けた洒落ですか?」
「うん!」
本気で怒っているわけじゃないのかな……? 今一、この二人には分からないところがある。
「それじゃあ、いっただーきまーす!」
拗ねていたことはもう忘れたのか、お弁当に箸を伸ばすあやめさん。エビチリを口に運んで、幸せそうに咀嚼した。
「ん~♪ やっぱり、優の手料理は最高ぅ~♪」
私もエビチリを食べてみると、確かに、あやめさんが唸るのも頷けた。ぷりぷりの海老にとろとろのピリ辛餡が絡まって、冷たいことを無視すれば、まるで出来立てのような味だった。
「もぅ一個ぉ~……ひゃんっ!?」
更に箸を伸ばそうとしていたあやめさんが、突然変な声を上げた。
「おぉ~まぁ~えぇ~らぁ~……」
直後、地獄の底から発せられたような声が、あやめさんの後ろから聞こえてきた。振り返ると、あやめさんの胸を、誰かの手が覆っていた。察するに、声の主だろうか?
「よくも、俺を埋めやがったなぁ~!」
よく見れば、あやめさんの胸を揉んでいるのは、西崎君の両手であった。西崎君、埋まってなかったっけ……?
「やめてぇーーー!」
「知るかっ! 腹いせに、あやめのぺたんこ胸を揉んでやるっ!」
「ぺたんこ言うなぁ!」
あやめさんが必死に抵抗しているけど、西崎君は乱暴な手つきで彼女の胸を蹂躙していく。……なんだろう、あやめさんは本気で嫌がっているのに、止めるのが憚られるような気がする。サービスカットだから?
「ぐへっ……!」
と思ったのも束の間、西崎君の額に、プラスティック製のフォークが突き刺さった。
「西崎君、おいたが過ぎますよ」
突き刺したのは中田君だった。結構本気で怒っているみたい。
「優ぅ……助かったよぉ~」
あやめさんが本気で泣いている。そりゃ、いきなりあんなことをされたらそうなるだろう。揉まれたのが私じゃなくて良かった……。
「で、何で西崎君がここにいるんです? まだ埋めたままのはずでしたけど」
中田君が、棘のある言い方で西崎君に問いかける。けれど、彼は額の痛みが酷いのか、それに答える余裕もなく、のた打ち回っていた。
「……悪い。俺が掘り起こしたんだ」
だからその答えは、西崎君ではない誰かが言った。西崎君の更に後方から姿を現したのは、初めて見る男子。ロン毛で海パン姿の男の子が、ばつの悪そうな表情で、こちらに歩いてきた。
「あら、孝介さん」
中田君は、その人のことを知っているみたいだった。だけど、彼も少し驚いているみたい。
「地面に埋まっているのを見て、思わず助けちまったんだが……まさか、こんなことになるとは」
「いえいえ、それは一向に構わないのですが―――それより、聖ちゃんはもう?」
「ああ、お陰で大事無い。今は少し休ませている」
孝介さんと呼ばれた男子は、徐に中田君の隣へ腰掛ける。
「ああ、二人は初対面でしたね。この人は私の知人で、風間孝介さんです」
中田君は、私とあやめさんにその人―――風間孝介さんを紹介してくれた。
「それで、こっちは従姉のあやめで、こちらはクラスメイトの牧野桜さんです」
「なるほど、よく話してる奴らか」
よく話してるってことは、中田君は、私のことを他の人に話したりするんだろうか? ……なんて言っているのか、ちょっと気になる。
「そして、そこでのた打ち回っているのが―――幼馴染の下衆田下衆朗君です」
「下衆田下衆朗」って……酷い言いよう。それだけ、彼に対して怒っているってことなんだろうけど。
「誰が下衆田下衆朗じゃ!」
あ、西崎君が復活した。さすがに下衆呼ばわりされれば、反論せざるを得ないだろうけど……大丈夫なんだろうか? 顔から血が噴き出しているし。
「もう一度埋葬しましょうか?」
「手伝うよ」
「おいっ!」
何故か非常に息の合った中田君と風間さん。一体、どういう関係なんだろうか?




