一章 ~相談 とりあえず、盗撮は犯罪です~
月日は流れて、夏休み前日。終業式やらなんやらが終わり、僕は帰り支度をしていた。
「おーい、優。牧野ちゃんもいるかー?」
すると、先に帰ったと思っていた西崎君が戻ってきた。どこか楽しそうな様子で。
「こんにちはー」
その後ろから、あやめがひょこっと顔を出す。……なんか、嫌な予感がする。
「あやめさん?」
呼ばれて、牧野さんも彼らの元へ駆け寄ってきた。この面子で、この時期に話すことがあるとすれば、一つしか思いつかない。
「七月三十一日、ちゃんと予定を空けとけよ。特に優」
「え……?」
あ、牧野さんがきょとんとしている。まあ、いきなりそんなことを言われれば、誰でもそんな反応をするだろう。
「みんなで海に行くっていう話ですか?」
「正解」
僕の問いに答えるのはあやめ。まあ、彼女もこういうのは好きだから、乗ってくるのは目に見えていたけど。
「近くに、人気のない海水浴場があるんだよ。朝に集合して、そのまま遊んで、夜に花火打ち上げて帰ってくるって感じにするつもりだ」
はて、そんなに都合のいい場所なんてあったかな? とはいえ、普段は海の近くに行かないから、僕が知らないだけかもしれないけど。
「やっぱり、海と言えば水着だよね」
あやめが突然、そんな台詞を吐いた。……次に彼女が何を言うのか、予測できてしまった。
「だから、期待してるよ二人とも」
期待って……何故、僕の水着なんかを? とか思っても無駄。あやめは昔から僕に可愛い格好をさせたがってて、時々着せ替え人形みたいにされてしまっていた。しかも他の人格だと抵抗がないので、彼女所有のアルバムにはそのときの写真がわんさか収められている。つまり、今回もその秘蔵コレクションを増やすつもりなのだろう。
「でも、僕は泳げませんよ?」
「だったら、泳げるようにすればいいじゃないか」
西崎君はそう言うけど、それには条件があるのだ。だって、泳げるのは皆女性人格……要するに、泳ぐには女物の水着を着なくてはいけない。しかし僕は水着自体、学校指定のもの(当然男物)しか持っていないのだから、泳ぐためには新しく用意するしかない。
「……男に女性用の水着を買えって、とんだ罰ゲームですね」
羞恥プレイとか、そんな次元ではない気がする。まして、自分用なら試着する必要があるわけだし。女性用水着片手に試着室へ入る男……絵としてはかなりまずい部類だ。
「でも、優なら店員さんも不審に思わないよ」
……うん、そう返されるのは読めてました。確かに、我ながら女の子っぽい容姿だと思いますよ。制服だとあれかもしれないが、私服なら、店員さんも気に留めないだろう。
「っていうか、優が男物の水着なんて着ちゃ駄目。あれは刺激が強すぎるから」
あやめはそう言って、ポケットの中をごそごそと漁っている。何を探しているのだろうか?
「だって、こんなの生で見たら、いくら私でも卒倒しちゃうもん」
彼女が取り出したのは、一枚の写真。そこに写っていたのは、僕だった。
「……は?」
ただしそれは普段着や、制服や、私服ではなく、水着(水泳の授業中)だった。そういえば、一年の授業では一回だけ着たから、多分そのときのものだろうけど。―――何で、当時の写真が、しかもあやめの手に?
「手に入れるの、結構苦労したんだよ? そもそもあんまり出回ってないし、見つけても高くって……折角なんだから、沢山刷って、いっぱい撒いてくれればいいのに」
「―――その人は、僕の目に触れないようにと、そうしたのでは?」
言いながら、僕はその写真を引っ手繰った。
「あぁっ! 何するのっ!?」
「何するのはこっちの台詞です。まったく、なんてものを持ってんですかあなたは……」
手にとってよく見てみると、構図が酷い、というか際どい。アングルの都合で、胸の部分が腕で上手い具合に隠れているんだけど、敢えて隠しているように見えてしまう。正直、西崎君の部屋にある写真集(中学生には早すぎなの)に出てきても不思議じゃないな、我ながら。っていうか、絶対に盗撮だろう、この写真。一体誰が撮ったんだろうか?
「とにかく、これは没収です」
「そ、そんなぁ~!」
あやめが泣きながら縋ってくるけど、鬱陶しいから追い払った。とりあえず、これは帰ってから焼却処分確定。
「あ、それからこの件は厳重に抗議して、あなたの家に残っている写真も処分させますから」
「お、鬼っ! 悪魔っ!」
「何とでも言えばいいです」
第一、これは立派な肖像権の侵害だ。あやめがまだ持ってる写真は、彼女の家に言えば処分してくれるだろう。後は、これを撮影した張本人を探し出して、きっちりと絞めれば万事解決。
「うぅ、諭吉を解放して買ったのにぃ……」
そんなにしたのか……。まあ、あやめは肩を落として帰って行ったから、放っておこう。
「じゃ、じゃあ俺も帰るわ……」
西崎君はばつが悪そうにしながら、今度こそ家路に着いたっぽい。……彼も写真を持っていないか、問い詰めるのを忘れていたけど、それくらい何時でも出来るからいいかな。
「え、えっと……じゃあね」
残った牧野さんも、そそくさと教室を出て行った。顔が赤かったけど、もしかしたら見たのも知れない。いや、多分見た。まあ、気にするほどのことでもないんだけど。
というわけで、僕は真犯人を探し出した後、そいつを取っちめた上で帰宅した。結局、海へ行く話が途中だったけれど、あれで忘れてくれれば本望なので、改めて確認するようなこともなかった。




