二章 ~夏休み 突然の来訪者~
夏休み初日、宿題もそこそこに、私はリビングのソファでゴロゴロしていた。家族はみんな出掛けているので、家には私しかいない。つまり、どんなにダラダラしていても気兼ねしなくていいのだ。
「……ん?」
と思っていたら、家の電話が鳴っていた。誰だろうか? うちには普段、殆ど電話が掛かってこないのに。まあ、言ってても仕方ないし、出るか。
「……もしもし?」
《もしもし、桜さん?》
……あれ、どこかで聞いたような声だ。
《私、あやめだよ》
「あやめさん……? っていうか、何でうちの番号知ってるの!?」
《ふふっ、どうしてだろうね?》
こ、怖い……電話越しのあやめさん、声が不気味すぎて怖いよっ! あと、個人情報の漏洩も!
《それはそれとして……今日って、暇?》
「う、うん、暇だけど」
生憎と、ゴロゴロダラダラしかすることない。そう答えると、あやめさんは嬉しそうな声で、こう言ってきた。
《じゃあ、今から水着買いに行こっ》
「み、水着……?」
何で? と思ったけど、そういえば海へ行くって話になっていたのを思い出す。なるほど納得。
「って、それはいいとしても……どうして、私と?」
《あ、一応優も連れてくるつもりだよ》
な、中田君を……? どうして……?
《だって、優には是非とも可愛い水着を着て欲しいし》
あ、そういう理由なんだ……。中田君、ちょっぴり可哀相。確かに、彼なら私よりも可愛いんだろうけど。
《というか、もう桜さんちの前まで来てるんだよね》
「え……?」
マジですか……? 何そのどっきりは?
《私、待ってるから》
そう言い残して、電話は切れた。……あやめさんって、結構強引だよね。でも、どうしようか? 家の前まで来てるのなら、無視するわけにもいかないし……。
「……行こう」
仕方がないので、私は重い腰を上げて、出掛ける用意をするのだった。
「おっはよー」
家を出ると、若干テンション高めなあやめさんが出迎えてくれた。白い半袖ワンピースと麦藁帽子を着用していて、彼女の清楚な感じがより一層引き出されている。私だとあんまり丈が合わないから、夏物のワンピはちょっと憧れる。……もういっそ、自分で作ってしまおうかな?
「早速だけど、一緒に優を迎えに行こっ」
「えっ……!」
言うが早いか、あやめさんは私の手を取って、ずんずん進もうとする。方向は多分、中田君の家だと思うけど……。
「ほらほら、早く早く」
急かされるけど、私は中田君の家がどの方向にあるのかさえも分からなくて、その上曲り角も多いから、ついていくのが大変だ。しかも歩くの早いし。
「あ、あやめさん、早いよ……」
彼女に、速度を下げるよう頼んでみるけど、夢中になってて聞いてないみたいだ。
それから私は、中田君の家に着くまで、あやめさんに翻弄され続けたのだった。
◇
「で、そんな状態に?」
あれから数分後、無事中田君の家に辿りついた私たちは、客間に上がり込んでいた。客間は玄関の隣で、上がってすぐに入れる親切設計。中田君は私たちにお茶を出しながら、私の話を聞いて、そんな風に漏らしていた。因みに、今日の彼は目が蒼い。……お花見のときといい、私生活ではこの色がデフォルトなんだろうか?
「うん、そうなの……」
私は答えながら、出されたお茶を啜る。冷たい麦茶が、夏の暑さと走りすぎで火照った体に染み渡り、とても心地よい。
「まったく、いくつになっても変わりませんね、あやめは」
あやめさんは、私の隣でぐったりとしていた。出されたお茶にも手をつけず、荒い呼吸を繰り返している。とりあえず、室内なんだから、帽子くらいは取ってもいいと思うんだけど……。
「う゛ぅ~……づかれだ~」
そりゃ、いくら涼しげな格好してても、あの炎天下で全力疾走したら普通はそうなる。っていうか、何で私はピンピンしているんだろうか……?
「大体、何でそんなに急いでいたんですか?」
「だってぇ~、優ったら、しょっちゅう家を空けるからぁ~……」
だからって、こんなになるまで走らなくても……。
「それで、水着を買いに行くんでしたよね?」
「うん……」
その問いに頷くと、彼は「そうですか」と答え、部屋を出て行こうとする。
「ちょっと待ってて下さい。今、準備してきますから」
一度振り返り、中田君はそう言って、部屋を出た。




