9 自暴自棄な酔っ払い
目が覚めたカインが始めに見たのは、机に腰掛けながらラム酒を飲んでいるリードの姿だった。
ゆったりとしたシャツの下には女のふくらみ。前々から女の様だとは思ってきたが、こうしてみると女神のような麗しさだとカインは再認識する。
「キャプテン、鼻血」
視線を向けることなく指摘され、カインは慌てて側に置かれていたハンカチを鼻にねじ込む。
「……リード君、ひとつ尋ねたいのだが」
「女ですよ」
問いよりも先に来た答えに、カインは掛けられていた毛布をはね除け、あわてふためく。
混乱しすぎて動きまでワタワタし出す35歳に呆れつつ、リードはふて腐れた。
「性別を偽っていた罪で、今すぐ海に捨てます?」
「え、何で?」
何でとくるか、そこまで馬鹿なのかと呆れつつ、リードはこの船の掟が書かれた本を彼に投げる。
「カイン海賊団の掟その5、船に女を乗せてはならない」
「あ、これノリで作った奴だから」
一時期、海賊っぽい事してみようかなって思ったこともあって。
と笑うカインに、リードは逆に殺意を覚える。
「これを真に受けて3年も胸にキツイさらしを巻き続けた俺を、馬鹿だと言いたいんですね。そうなんですね」
「ち、ちがう! お、掟は本気だ! でもリードは別だ、女でもいい」
むしろいい、と言い出すカインに、リードはため息を重ねた。
「捨てられた方がよかったのに」
そのつぶやきに、カインは今更ながらにこの部屋に来た理由を思い出した。
「あの、なにかその、悩みとかあるのか?」
「主にキャプテンに」
「……俺が好きなのか」
真顔で言い切ったキャプテンの頭にラム酒の瓶を叩き付けるリード。
「ごめんなさい、もう言いません」
「そう言うアホなところに飽き飽きしたんです」
先ほどまで飲んでいた酒が効いたのか、リードの口からは愚痴が次々と零れ出す。
自分でもそんなことまで喋らなくてもと思ったが、自制するには酒をあおりすぎていた。それにたぶん、カインに胸を見られて自暴自棄になっていたのだ。
気がつけば日頃の愚痴から性別を偽る苦労、元の世界のことから親友や家族の満ち足りた生活への不満まで、しゃべりに喋りまくっていた。
時折カインを蹴ったり殴ったり髪を掴み上げたりと、割とやりたい放題をしながら。
「つまり、色々嫌になったんですよ! 特にキャプテンのお守りに!」
「じゃあその、実は大病を患っていてとかそう言うことはないんだな」
「死んでほしいってか?」
「違う、死なれたら困る!」
「でもアレですよ、ある意味宇宙人みたいなもんですよ私。超がつく部外者ですよ、その上女ですよ」
「うちゅうじんが何か分からないが、別にリードが何であろうと構わないぞ。むしろ、いなくなったら本当に困る」
真剣な顔で言い切られ、リードは少し居心地が悪そうにラム酒を煽った。
「じゃあ、キャプテンももう少しキャプテンらしくなって下さい。そうしなきゃ、今度こそ本気で船を下りますから」
「なるなる! リードのためなら何でもする!」
その言葉に、リードはラム酒の瓶から口を離し、そして花が咲くような笑顔を浮かべた。
これはやばい、本気で惚れると慌てて鼻に詰めた布を押さえたその直後、リードの口は開かれた。
「じゃあ、次の港で童貞捨ててください。相手は私が見繕うので」
「ま、まって! それだけは、それだけは!」
「どうせそんな腕じゃ、健全な恋愛なんて無理ですよ」
そう吐き捨てられ、メアリーちゃんの失恋から立ち直っていなかったカインは深く傷つく。
「と言うことで、次の港で男になって貰いますから」
激しい後悔。それも今までで一番激しい後悔に、カインはしくしくと泣き出した。




