10 麗しの蜜蜂亭
麗しの蜜蜂亭。
リードがカインに連れてやってきたのは、砂の海を越えた先、巨大なオアシスを有する『商人の国』にある、囲い娼婦を持つ怪しげな宿だった。
「さあ、どれが良いですか」
宿の入り口に貼られた大量の娼婦の写真の前で、リードがさっさと決めろとカインをせかす。
どれと言われても、正直どれも嫌だった。
美人揃いである。文句ないほどの美人揃いである。
けれどカインは選べない。選ぶとしたらそれは隣にいる副官を選びたいところだが、それを言ったら今度こそリードは船を下りてしまうだろう。
自分がどれほどリードに最低な男と思われているかは知っている。今更好きだと言っても絶対に無理だ。
「どれが、良いと思う?」
苦し紛れに出てきた言葉はそれで、リードには更に呆れられた。
「……じゃあ、適当に3人くらい連れてきて」
亭主にそう言うと、リードは渋るカインを引きずって2階にある客間に向かう。
「リードも、いくのか?」
「どうせ私が帰ったら逃げるつもりでしょう」
図星であるので声が出ない。
「あ、ご心配なく。2部屋とってありますので」
「でも君女の子でしょう」
「大丈夫です、指でイカせられますから」
何が大丈夫なんだ。っていうか、そんな技をどこで身につけたんだと問いただしたいが、気がつけば客間についてしまった。
部屋には既に豪華な食事が並べられている。
「可愛い子が何人か接待しに来ますから、良い子がいたら声をかけてください。あ、何だったら全員でも大丈夫です」
お金はありますから言い切る副官に、カインは部屋の隅で膝を抱える。
覚悟を決めるしかないのは分かっている。ここで下手を打てば今度こそリードを失う。
「やれる、俺はやれる…。入れるだけだ、穴に入れるだけだ」
「キャプテン、最低な独り言が零れてます」
「今集中してるから黙ってて」
ブツブツ独り言を言い続けるカインに不安を覚えながら、リードは置いてある食事に目を向けた。
高い金を出しただけあり、砂の海の新鮮な魚をメインにした料理はどれも美味そうだった。
でもやっぱり刺身には白米と醤油が欲しいなと庶民臭いことを思いながら、リードは料理に手を付ける。
そのとき、部屋の扉が開き3人の美女が姿を現した。
美しさは勿論、身につける布の少なさに、さすがのカインも言葉を失っている。
女達は慣れた物で、カインを料理の前まで引っ張ってくると、無駄に大きな胸を揺らしながら早速彼を陥落させようと晩酌を始めた。
初めからカインへの接待を優先するよう伝えていたので、リードの方は見向きもしない。
そんな計らいをしなくても、女達はカインにまとわりついただろうが。なにせ相手は大海賊カインである。
「本当に男らしい。胸もたくましくて素敵だわ」
そう言ってシャツに手を入れられ、カインが必死に悲鳴を隠す。
本人は戦々恐々だが、やはり彼も男。嫌ではないのは見ていて分かる。
「意外と面白くない」
もう少し馬鹿な真似をするかと思っていたのに、時間がたつに連れて女達とも普通に話し出したカインにリードは思わずこぼした。
別に自分は必要なかったじゃないかとふて腐れ、リードは酒をあおった。




