6 長い上にクサい遺言
『大海賊カイン=モーガンの華麗な脱走劇』
一面に大きく取り上げられたカインの顔を満足げに見つめつつ、リードは新聞を手に船長室に入る。
見れば、相変わらずメアリーちゃんショックから立ち直っていない船長の骸がそこにはあった。
笑みを呆れ顔に変え、リードは後ろ手にドアを閉める。
「今回もニュースになっていますよ」
カインの前に新聞を置いてはみるが、ぴくりとも動かない。
「キャプテン、そろそろ次の寄港地を決めないと」
「……」
トンと音がして、カインが側に置かれた地図に手を載せる。
指さされたのは死の海域の向こうにある、人魚の国だ。
こんな状況のカインでは、到底乗り切れる海ではない。
「自殺しに行くつもりですか」
「……」
船長室に響くカインのすすり泣きに、リードは思わず天を仰いだ。
本当に面倒くさい。とことん面倒くさい。
いっそ今ここで魚の餌にしてやりたいくらい面倒くさい。
気がつけば本気で魚の餌にしてやろうと剣を抜きかけたリード。
だがそれを、昔世話になった一人の老人の言葉が止めた。
その人はリードが海賊として生きていくのに必要な知識と技術を教えてくれた恩人だ。彼はカインの最初の副官で、どんなときでも彼を支えていた。
『良いかリード。あの男は本当に駄目な男だ、クソがツクほど駄目だ』
そう言って恩師が微笑んでいたのは、確か死に際のことだ。
『だがあの男はこの世界に必要だ。魔法と冒険に満ちた海と言われてはいるが、昔に比べりゃ世界は本当に世知がねぇ。冒険も魔法もお宝も、いまや汚ねぇ欲望の道具にされてる。
けどあいつはそう言うのをぶち壊せる世界で最後の馬鹿野郎だ。あいつは馬鹿だが、本気で宝探しが出来る最後の海賊だ。死の海域を越え、人魚と握手して、死霊達から宝をぶんどる。そう言う冒険が出来る最後の奴なんだよ。そう言う奴がいることで、みんな夢を持つことを諦めないでいられる。
だからリード、俺がいなくなった後はお前が奴を支えてやってくれ。そしてあいつの冒険を世界に広めてくれ、それが、世知がねぇ世の中を明るい方向へ動かすことになる』
話が長い上にクサすぎます。
そう突っ込んだリードに、そう言うところがカインにぴったりだと笑い、「後は頼む」と告げたのが彼の最後だった。
笑顔で頼むと言われて、「ごめんなさい無理です」とは言えない。正直言いかけたが、それよりも先に恩師はさっさと死んでしまった。
故に、リードは彼の遺言を守っている。守ってはいるが、そもそもその気もなかった上に、人にも限界はあるのだ。
確かに、恩師には世話になった。今もこうして日々を生きていけるのも、彼に鍛えられ多くのことを教えて貰ったからである。
ただひとつ、恩師にも言わなかった秘密がリードにはあった。
「正直、この世界が世知が無くなろうが、私には関係ないし」
恩師が守りたかったこの世界に、リードはまったく興味が無かった。
なぜならリードは、この世界の本当の住人ではないのだから。
「わたし?」
こう言うときだけ目ざとく顔を上げるカインに何でもないと告げて、リードは船長室を後にした。




