4 今こそ男になるとき
会いたい。
その一言が書かれた手紙をもらってから2週間後、カインは騎士の国の裏港に来ていた。
騎士の手の届かない、国外れ。断崖絶壁に挟まれた細い運河の奥にあるその裏港は、海賊御用達の隠れ港である。
メアリーちゃんと会うことになっていたのは、裏港と市街地の間にある古い教会だった。
「いきなり教会とか、ちょっと狙いすぎかな」
スーツに着替えながらだらしなく笑うカインを、リードは至極どうでも良さそうな顔で無視する。
「でも、町娘がこんな夜中に教会まで来るのでしょうか」
「愛があるからな」
「実は、何かの罠だったりして」
カインのネクタイを直していたリードの頭に、鈍い衝撃が落ちる。
痛みで顔を上げると、そこにあるのはカインの拳骨だ。
「惚れた女は信じる。それが男ってもんだ」
「女に惚れられたことはないくせに」
「関係ない!」
そう言うと、カインはかぎ爪の毒を抜いた。
「まあ、こうすればハンガー変わりですって言えるだろう」
「無理があると思います。それにいざというとき…」
「リード」
年下の副官をたしなめつつ、カインは微笑む。
「いざと言うことはない。それにもしあったとしても、お前がいりゃあ大丈夫だろ?」
「あなたの事なんて助けませんよ」
「しってるよ」
じゃあ後はよろしく、とカインは船室を出て行く。
甲板に出れば、そこには整列した船員達の姿。
荒くれ者で顔も体臭も酷い奴らばかりだが、キャプテンへの信頼はみな熱い。
「今度こそ、可愛い女の子連れてきてくださいよ!」
気の良い部下達に励まされ、カインは景気づけに腰の剣を高く放る。
「今日の俺は素敵なジェントルだ。そいつを頼むぜ」
丸腰なんて男らしい!
さすがキャプテン!
部下達の歓声をせに、キャプテンカインは恋の一歩を踏み出した。