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船長は恋がしたい  作者: 28号
船長は恋がしたい
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3/17

3 メアリーちゃん17歳

「かぎ爪ってなんだよぉ。せめて義手にしろよぉ」

 ラム酒を片手にうめくカイン。彼に付き合っているのはリードと、カインの剣の師匠であるエドである。

 付き合っていると言っても、エドはボケ老人に片足を突っ込んでいるので、聞いているかは微妙だ。

 最近、ご飯を食べたことすらたまに忘れる老人に人をなぐさめるスキルはない。たぶん、ラム酒を飲みたいから側にいるだけである。

 仕方なく、呆れ顔でカインをなぐさめているのはリードだ。

「多数決で決まったんだから仕方ないでしょう」

「多数決って何だよぉ」

「みんなが、キャプテンにはこれが似合うって」

「こんな手で、どうやって女の子と手を繋ぐんだよ!」

 せめてそこは「抱く」と言って欲しいところだが、ピュアなキャプテンは言語センスもピュアなので仕方がない。

「ご自分が思っている以上に、あなたは異性にモテています。街に行けばあなたに抱かれたい女達は沢山いる」

「娼婦とかだろ。俺と寝れば箔がつくとかいわれたことある」

「いい年なんだし、そろそろそこら辺で手を打っておきましょうよ」

「初めては、好きな子としたいの! 俺は!」

「そう言ってもう35じゃないですか」

 がんっと音がして、カインが頭から机に突っ伏した。

「正直、35で童貞はどうかと思います」

「愛のない行為なんて俺は嫌だ!」

「いいじゃないですか、気持ちよければ」

 自分より15も年下の美青年の言葉に、カインは若干の殺意を覚える。

「顔が良い奴は、顔が良い奴はこれだから……」

「キャプテンだって悪いわけではないと思います。眉間の傷と人を殺せそうなキツイ眼差しは、一部のマニアには受けてるかと」

「俺はね、外見だけじゃなくて心ごと愛してくれる優しい優しい女の子と恋がしたいの。朝起きるとエプロン姿で東方の国のスープを…」

「味噌汁、と言う奴ですか」

「そうそう、それを作ってくれるような素敵女子と結婚したい!」

「味噌汁なら俺が作ってあげますから、とりあえず娼婦で手を打ちましょう」

「何でそうなるんだよ!」

「あなたが童貞だなんて、この船の名に傷がつきます」

「安心しろ、町中で俺は童貞だと叫んだことがあるが誰も信じなかった」

 まあこの顔で童貞はないなと、リードも思う。けれど、だからといって、大海賊カイン=モーガンをいつまでも童貞のままにしておく訳にもいかない。

「それに、あなたの考えるような乙女がいるとは思えません。いても、海賊に興味を持つとも思えません」

 とリードが言えば、カインが不敵に笑う。

「一人だけいる」

「まさか……」

 笑いながらカインが懐から出したのは、ピンク色の可愛い封筒に入った手紙だ。

「メアリーちゃんだ!」

 メアリーちゃん。それは1年ほど前から彼と文通をしている17歳の女性である。

 手紙越しなら怖がられることがないと気付いたカインが、文通斡旋会社のある『騎士の国』にまで乗り込んだのは、大海賊カインの武勇伝その685番として今や伝説となっている。

 騎士の国の何千という騎士をやり過ごし、「文通相手を紹介してください!」と斡旋会社に乗り込んだカインはさすがだ。もちろん乗り込んだ理由と文通関連の情報はカインが華麗に抹消したが。

 そしてそこで紹介して貰ったのがメアリーちゃんである。

 もちろんメアリーちゃんはカインが誰だか知らない。カインもメアリーちゃんの素性は知らない。

 だが文通は既に1年も続いており、その中も良好だ。

「また来たんですか」

「今回も無事、『恋のお手紙配達♪イルカさん』が届けてくれたぞ!」

 『恋のお手紙配達♪イルカさん』とは、文通斡旋業者が使う特別な配達動物だ。

 7つの海に囲まれたこの世界は陸地が少なく、多くの人々は海の上の船上都市や小島に居を構えている。

 それ故文通も遠距離が普通。そのため、文や物資を届ける運送系の会社は魔法によって調教された動物やドラゴンを使って配達を行う。

 とはいえそのネーミングセンスはどうかと、強面のキャプテンの口から零れたファンシーな名前にリードはため息を重ねる。

「得体の知れない文通相手のどこが良いんですか」

「メアリーちゃんは可愛いんだぞ! 俺への手紙にいつもハートマークとか付けてくれるんだぞ!」

 とニヤニヤしながらカインは手紙を開く。

 本当にだらしがない顔だとウンザリするリード。だが突然、カインは再び机に頭からダイブした。

「どうしました、振られましたか?」

「め、メアリーちゃんが……」

 真っ青な顔で手紙をリードに突きつけるカイン。その顔は、またもや涙に濡れていた。

「メアリーちゃんが俺に会いたいって!」

「良かったですね」

「いいわけあるか! 右手がこんな何だぞ!」

「格好いい格好いい」

 心にもない声で適当にあしらわれ、カインは頭を抱える。

「どうしよう、こんな腕じゃあ海賊だってばれちまう」

「腕があっても隠しようがないと思いますが」

 至る所に手配所が貼られている強面である、今更あがいてもどうしようもない。

「バレるのが嫌なら、会うのをやめたらどうでしょう」

「そうだよな、ここでばれたら……」

「いかん!」

 そこで、今まで会話に参加しなかったエドが突然立ち上がる!

「愛は、かぎ爪をも受け入れる! 愛しているならゆけ、そして奪え!」

「エドじいさん……」

 とカインはなにやら感慨を受けたようだが、リードは白い目で二人を見ている。

「大海賊カイン=モーガン! いまこそ! いまこそ男になるときだ!」

「お、おう!」

「もっと大きな声で! はい!」

「おおおぅ!」

「もっとだ!」

 燃え上がる二人と、二人から距離くリード。

「あほらし」

 もちろん、その言葉は恋の炎に当てられた大海賊には聞こえない。


※9/4誤字修正しました(ご指摘ありがとうございます)

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