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悪役貴族、剣を捨てて法と金で無双する~破滅予定なので、契約魔法で勇者を差し押さえ、ブラック領地をホワイト企業に再生します~  作者: 他力本願寺


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第5話 ダンジョン運営改革。「モンスター討伐」? いえ、「資源回収」です。

冒険者ギルド。

 それは、魔物を狩り、一攫千金を夢見る荒くれ者たちが集う場所。

 ……と言えば聞こえはいいが、私の目の前に広がっているのは、ただの「非効率の掃き溜め」だった。


「うぐっ……誰か、癒やし手を……」

「金がねぇなら退きな! ここは慈善事業じゃねぇんだよ!」

「ちくしょう、昨日は三人死んだらしいぞ……」


 昼間から酒の臭いと、血と汗の臭いが充満している。

 怪我をした新人が床で呻き、ベテランはそれを見て見ぬふりで賭け事に興じている。

 受付には長蛇の列ができ、依頼の処理は滞り、情報は共有されず、誰もが「自分だけが儲かればいい」という顔をしている。


「……酷いな。想像以上だ」


 私はハンカチで口元を覆った。

 隣に控えるルーカスも、眉をひそめている。彼は昨日までこの光景を当たり前だと思っていたはずだが、清潔な服と満たされた腹、そして「規律」を知った今となっては、違和感を覚えているようだ。


「ここが私の領地の主要な稼ぎダンジョンを管理する現場か。……ドブ川の方がまだ流れがいいぞ」


 私はスタスタと歩き出した。

 目指すはカウンターの奥。ギルドマスターの席だ。


「おい、アンタ! 勝手に入ってくんじゃ……あ? 領主様?」


 強面の職員が止めようとして、私の顔を見て凍りついた。

 私は彼を無視し、奥の執務机で酒瓶を抱えている大男――ギルドマスターのガインを見下ろした。


「ガイン。仕事の時間に飲酒とは、いい身分だな」


「あぁん? ……けっ、なんだアインホルン家の若造か」


 ガインは面倒くさそうに酒瓶を置いた。

 元S級冒険者。腕っぷしだけでこの地位に上り詰めた、典型的脳筋だ。

 彼は私のことを「親の七光りの無能」と舐めている。これまではそうだったから仕方ないが。


「何の用だ。上納金なら来週払うって言っただろうが」

「金の回収ではない。視察だ」


 私は羊皮紙の束を机に叩きつけた。

 セバスチャンが集めた、過去一年間のギルドの記録だ。


「死亡率3割。怪我による引退率5割。稼働している冒険者は寝る間も惜しんで潜り続け、逆に戦利品の納入量は減り続けている。……ガイン、君はこの数字を見て何とも思わないのか?」


「はっ、それがどうした」


 ガインは鼻で笑った。


「冒険者は『自己責任』だ。死ぬ奴が弱い、運が悪い、それだけのことだろ。俺たちは生き残った強い奴から素材を買い取ればいいんだよ」


 自己責任。

 弱肉強食。

 いかにもファンタジー世界の住人が好みそうな理屈だ。


「……野蛮だな」


 私は冷たく吐き捨てた。


「君の言う『自己責任』とやらは、おさの怠慢を隠すための言い訳に過ぎない」

「あんだと!?」

「冒険者が死ねば、その育成にかかった時間と金が消える。怪我で引退すれば、貴重な働き手が失われる。彼らは消耗品ではない。領地の『財産』だ」


 私はルーカスに目配せをした。

 警備隊の制服を着たルーカスが一歩前に出る。


「なっ、ルーカスか? お前、その恰好は……」

「アインホルン家警備隊、ルーカスだ。……ギルド長、俺も今は領主様の意見に賛成だ。昨日の飯も食えなかった俺が言うのもなんだが、ここは無駄が多すぎる」


 元・有望株の言葉に、ガインが顔をしかめる。

 私は畳み掛けた。


「ガイン。君との委託契約を見直させてもらう。今日からダンジョンの運営方針を根底から変える」

「はあ? 現場を知らねぇ貴族様が何を……」

「黙って聞け。導入するのは二つ。『交代番』と『安全の決まり』だ」


 私は新しい羊皮紙を広げた。


「まず、冒険者の常時滞在を禁止する。一日の探索時間は八時間まで。朝・昼・晩の三つの番に分け、必ず十分な休息を取らせる」

「はあ!? 馬鹿か! 長く潜ったほうが稼げるに決まってんだろ!」

「疲れて判断力が鈍れば、事故が起きるだけだ。万全な状態で短時間集中した方が、結果的に収穫量は増える」


 これは前世の工場勤務データでも証明されている。

 長時間労働は美徳ではない。ただの生産性低下の要因だ。


「次に、ダンジョン内を区画分けする。浅い層は新人用、中層は中堅用。そして各階層に『回収係』と『救護係』を常駐させる」

「そんな人員、どこにいるんだ!」

「君たちが『使えない』と切り捨てた、怪我で引退した元冒険者たちだよ。彼らをギルド職員として再雇用する」


 私は窓の外、路地裏で物乞いをしている片足の男を指差した。

 戦えなくても、荷運びや地図作り、後輩への指導はできる。彼らに定給を与え、サポート役に回らせるのだ。


「戦う者は戦いに専念する。運搬や剥ぎ取りは専門部隊がやる。分業だ。……これなら、新人の死亡率は劇的に下がる」


「そ、そんな甘いことしてたら、強い冒険者が育たねぇぞ!」


「育つ前に死なれたら意味がないと言っているんだ」


 私はガインを睨み据えた。


「いいか。今日からここは『狩り場』ではない。『作業場』だ。モンスターは敵ではない。『素材』だ。我々の仕事は、命を賭けることじゃない。安全かつ効率的に、素材を回収することだ」


 ガインは反論しようと口を開きかけ、しかし言葉に詰まった。

 私の提示した計画書には、予想される実入り(取り分)が記されていたからだ。

 死亡による損失が減り、回転率が上がれば、ギルドの手数料収入は現在の三倍になる。

 

「……三倍、だと?」

「最低でもな。……どうだ、ガイン。君も懐が潤うなら文句はないだろう?」


 金欲の強い男だ。論理よりも、目の前の金貨の方が説得力がある。

 ガインは脂汗をかきながら、言葉を失っている。

 私は懐から、あらかじめ用意していた『運営委託契約書(改定版)』を取り出した。


「では、契約の更新だ。署名と拇印を」


「……くっ」


 ガインは歯噛みしながら、朱肉に親指を沈め、羊皮紙に押し付けた。

 ――契約は成立した。


 ◇


 改革は即座に実行された。

 もちろん、最初は反発があった。「自由にやらせろ」と叫ぶ冒険者もいた。

 だが、一週間もすれば、空気は一変した。


「おい、今日の収獲見たか? いつもの倍だぞ!」

「荷物持ちがいねぇだけで、こんなに楽なのか……」

「交代の時間だぞー。無理すんな、明日の枠も確保してあるからな」


 ダンジョンの入り口では、管理された予定表に従ってパーティが出入りしている。

 疲労困憊で死にかけの者はいない。怪我をしても、常駐している救護係が即座に応急処置を施すため、重症化する前に復帰できる。


 私はその様子を、ギルドの二階から眺めていた。


「……うまくいっているようですね」


 セバスチャンが感心したように呟く。


「当然だ。人間は、ルールと安心があって初めて、本当の働き(真価)を発揮できる」


 その時、一人の若い冒険者が、受付で報酬を受け取っているのが見えた。

 まだ10代半ばの、駆け出しの少年だ。

 以前なら、彼は安い薬草代と宿代で稼ぎが消え、ジリ貧のまま死んでいたかもしれない。

 だが今、彼の手には銀貨が数枚残っていた。


「やった……! これで妹に薬が買える……!」


 少年は硬貨を握りしめ、ボロボロと泣きながら、ギルドの出口へ走っていった。

 恐らく、病気の家族がいるのだろう。

 彼が死ねば、その家族も路頭に迷うところだった。

 だが、私の作った「安全の決まり」が、彼を生かし、その家族をも救ったのだ。


(……ふん)


 私は鼻を鳴らして、窓から離れた。

 別に、人助けをしたつもりはない。

 彼が生きて稼ぎ続けてくれた方が、領地の税収が増える。将来的に彼が成長すれば、より多くの利益をもたらす。

 ただの、長期的な投資回収に過ぎない。


「行くぞ、セバスチャン、ルーカス。次は『運びの仕組み』だ。回収した魔石を金に変えるルートを整備する」


「は、はい!」


 私の背中で、ルーカスが尊敬の眼差しを向けているのを感じる。

 悪役貴族の領地改革。

 次なるターゲットは、ダンジョンのゴミ――スライムの「処分方法」だ。

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