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悪役貴族、剣を捨てて法と金で無双する~破滅予定なので、契約魔法で勇者を差し押さえ、ブラック領地をホワイト企業に再生します~  作者: 他力本願寺


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12/27

第12話 収支報告と慰労の宴。うちの領だけ「産出額」が異常です。

国庫院の監査官ベルンハルトとの「取り決め」から数日後。

 アインホルン領の領主館・大広間は、かつてない熱気に包まれていた。


 今日は、年に一度の「収支報告と慰労の宴」の日だ。

 集まっているのは、領内の有力者や商人たちだけではない。

 ダンジョンで働く元・冒険者たち、隣領から鞍替えした元・騎士たち、そして抽選で選ばれた一般の領民たちも招かれている。


 テーブルには、領内で採れた新鮮な野菜、肉、そして隣領から買い上げた麦で作ったパンや菓子が、山のように積まれている。

 酒も料理も振る舞い放題。

 かつての「貧乏領地」を知る者にとっては、夢のような光景だった。


「静粛に」


 壇上に立ったセバスチャンの声が響く。

 ざわめきが波が引くように収まり、全員の視線が私――アルバート・フォン・アインホルンに集まった。


 私はゆっくりとグラスを掲げた。


「諸君。まずは、この一年間の労働に感謝する。……今日は無礼講だと言いたいところだが、その前に一つだけ、君たちに見せたいものがある」


 私は指を鳴らした。

 背後の壁に、巨大な紙が張り出される。

 そこには、何本もの「棒の図」が描かれていた。


「これは、王国における『領地ごとの総産出』の比較図だ」


 会場からどよめきが起きた。

 無理もない。

 図には十数本の棒が並んでいるが、そのほとんどはどんぐりの背比べだ。

 だが、一番右端にある「アインホルン領」の棒だけが、紙の天井を突き破らんばかりに突出していたからだ。


「……見ての通りだ。我が領の産出額は、王都を除く地方領地の中で、群を抜いて一位を記録した」


「い、一位……!? あのボークス領や、港町よりもですか!?」

「桁が違うぞ……! なんだこの数字は!」


 商人たちが目を丸くして叫ぶ。

 私は悪役らしく、口の端を吊り上げた。


「理由は単純だ。非効率なダンジョンを『生産場』に変え、無駄な戦を『領地買い取り』で終わらせ、国への上納を『談判』で適正化した。……そして何より」


 私は会場を見渡した。


「君たちという『働き手』に、正当な対価を支払ったからだ」


 私の経営哲学はシンプルだ。

 金は、貯め込むものではなく回すもの。

 領民に十分な給金を与えれば、彼らは市場で物を買う。商人が潤い、上納が増え、さらに領地へ金を回せる。

 この「金貨の好循環」こそが、この異常な図の正体だ。


「アインホルン領は、今日をもって『貧困』からの脱却を宣言する。来期はさらなる普請を行う。道路を直し、学び舎を作り、施療院を建てる。……ついてきてくれるか?」


 一瞬の静寂。

 直後、大広間が揺れるほどの歓声が爆発した。


「おおおおおおっ!!」

「一生ついていきます! 領主様ぁぁぁ!」

「アインホルン様、万歳! 万歳!!」


 男たちは拳を突き上げ、女たちは涙を拭っている。

 かつて私を「悪徳貴族」と罵っていた彼らが、今は心からの敬意と熱狂を向けている。


(……悪くない)


 私は歓声のシャワーを浴びながら、黒茶を含んだ。

 これこそが、私が求めた「論理的勝利」の果実だ。

 剣で奪った領土は反乱を生むが、金と法で富ませた領民は最強の支持基盤になる。


 ふと、会場の隅に目を向けると、一人の青年が壁に寄りかかっていた。

 元・勇者のルーカスだ。

 彼は真新しい警備隊長の制服を着崩し、皿に山盛りの肉料理を抱えている。


「……よう、隊長殿。精が出るな」


 私が近づくと、ルーカスは苦笑して肩をすくめた。


「よしてくれよ、雇い主。……しかし、すげぇ騒ぎだな。あんた、本当に貴族か? 貴族はみんな悪党だと思ってたよ」


「失礼な。私はいつだって、自分の利益しか考えていない冷徹な男だよ」


「へっ。……自分の利益のために、領民全員を腹一杯にする悪党なんて、聞いたことがねぇよ」


 ルーカスは肉を口に放り込み、噛み締めるように言った。


「……俺は、ずっと腹が減ってた。勇者と呼ばれても、宿代に困り、装備の借金に追われ、泥水をすするような毎日だった。……それが『冒険』だと思ってた」


 彼の脳裏には、かつての過酷な日々が浮かんでいるのだろう。

 「世界を救え」という美名の下で強いられる、無償の奉仕と自己犠牲の日々が。


「でも、ここに来て初めて分かったんだ。……腹が満たされて、暖かいベッドで寝て、働いた分だけ認められる。それが、こんなにすげぇことだったなんてな」


 ルーカスは私の目を見て、ニカっと笑った。


「悪くねぇよ、ここでの暮らしは。……恩を返し終わるまでは、俺の剣はあんたのために使ってやる」


「奇遇だな。私も、君という優秀な働き手を手放すつもりはないよ」


 私は彼のグラスに、自分のグラスを軽く当てた。

 チン、と澄んだ音が響く。

 それは、主従の契約以上に強固な、「信頼」という名の新たな契約が結ばれた音だった。


 大広間では、音楽隊の演奏が始まり、人々が踊り出している。

 ボークス領から来た元・敵兵たちも、アインホルンの領民と肩を組んで笑い合っている。

 誰もが満たされ、明日への希望に満ちている。


 領地再生、完了。

 勇者更生、完了。

 私の「第1章」は、これ以上ない大団円で幕を閉じた。


「……さて」


 私はグラスを飲み干し、窓の外、遠く王都の方角を見つめた。

 領内の足場は固まった。

 だが、私の「勢い」を良く思わない連中は、まだ山ほどいる。

 特に、古い権益の塊である「大商会」や、腐敗した「教会」。彼らが指をくわえて見ているはずがない。


「セバスチャン。次の戦いの準備だ」

「はい、旦那様。……次は、どなたを『法』で裁きましょうか?」


 セバスチャンが恭しく頭を下げる。

 私は不敵に笑い、新たな羊皮紙――次の標的のリストを広げた。


「商い敵たちに教えてやろう。……本当の『商い合戦』というものをな」


 悪役貴族の戦いは終わらない。

 むしろ、ここからが本番だ。

 私は夜空に輝く月を見上げ、次なる獲物に狙いを定めた。

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