第33話:世界の心臓、あるいは『管理外』の聖域
中ボスをハメ殺し、手に入れたのは禁忌の扉を開く『古代の鍵』。
イヴさんが歴史の重みに震える中、リ・センセンは「早く中身(宝箱)を見せろ」と鼻歌交じりです。
しかし、扉の先に広がっていたのは、黄金でも魔導書でもなく……あまりにも見慣れた、そして不気味な光景でした。
「……おい、システム。これ、本当に『ファンタジー』の世界か?」
リ・センセン、この世界の「根源的なバグ」に接触します。
※今回も3200字オーバー、設定の深淵に触れる重要回をお届けします!
石造りの階段を下りるたびに、周囲の空気は湿り気を帯びた密林のそれから、どこか無機質な、オゾン臭の漂うものへと変わっていった。
イヴが掲げる発光石の明かりが、壁に反射する。そこにあるのはもはや粗削りの石ではなく、完璧に磨き上げられた未知の金属板——いや、『装甲パネル』だった。
「……リ・センセン。ここは何なんだ? 神殿というよりは、まるで巨大な……何かの生き物の腹の中にいるような気分だ。この壁の奥から、心臓の鼓動のような音が聞こえる」
イヴの言葉は正しかった。
壁の隙間からは、規則正しく明滅する光が漏れ出し、低い重低音が足元から響いている。それは魔力の奔流というよりは、巨大なサーバーラックが発する排気音に近い。
「心臓? ははっ、イヴさん、そいつは『冷却ファン』の音だよ。……家人们(リスナーの皆さん)、見てくれよ。この雰囲気……3.0の古臭いファンタジー設定の中に、いきなり12.0の『ハイテク・ダンジョン』がブチ込まれてやがる」
リ・センセンは、ドローンカメラを天井へと向けた。
そこには、精緻な装飾の施されたシャンデリアに混じって、光ファイバーを思わせる半透明の蔦が張り巡らされている。この世界の魔法文明と、リ・センセンの知る超科学が、あまりにも歪な形で共生していた。
【1.8mのメッシ:うわあああ! なんだここ! 雰囲気が一気に『攻殻機動隊』みたいになったぞww】
【隣の王さん:森森、これマジでヤバいんじゃねえの? 運営が隠してた裏ステージだろ。スクショ、スクショ!】
【物理の張先生:……信じられん。魔力の波形が、デジタルのバイナリ・データと完全に同期している。リ・センセン、その壁のパネルを剥がせるか? 内部構造を見たい】
「無茶言うなよ先生。……さて、旦那。お宝の入り口だぜ」
廊下の突き当たり。そこには、先ほど手に入れた『古代の鍵』と寸分違わぬ幾何学模様が刻まれた、巨大な自動扉が鎮座していた。
リ・センセンが震える手で(恐怖からではなく、期待で指が震えているのだ)鍵をスロットに差し込む。
プシュゥゥゥ……。
数千年の封印を解く音は、意外なほどに軽快だった。
扉が左右にスライドし、その先に広がっていた光景に、流石のリ・センセンも言葉を失った。
そこは、広大な円形のドーム状空間だった。
中心には、直径十メートルを超える巨大な透明なシリンダーがそびえ立ち、その中には……無数の『青い光の粒子』が、まるで銀河のように渦巻いている。
そして、そのシリンダーの周囲を取り囲むように、数千、数万という数の『カプセル』が壁一面に並んでいた。
「……これ、は……。リ・センセン、この中にいるのは、人……なのか?」
イヴが震える声で指差した先。カプセルの中には、穏やかな表情で眠りにつく、様々な種族の姿があった。人間、獣人、エルフ、ドワーフ。彼らは皆、透明な液体に満たされたカプセルの中で、静かに呼吸を繰り返している。
「……いや。イヴさん、こいつらは『人間』じゃねえ。……『データ』だ」
リ・センセンの網膜に、エラーメッセージが滝のように流れ落ちる。
システムが、この場所を『管理外のストレージ』として認識し始めたのだ。
「システム、全リソースをこのシリンダーの解析に回せ。……こいつの名前を教えろ」
【システム:解析中……。該当データを確認。……名称:『世界樹の苗床』】
【説明:1.0〜11.0のアップデートにより削除された、旧バージョンの『住人』たちのバックアップ領域です】
「……バックアップだと?」
リ・センセンは、乾いた笑いを漏らした。
つまり、この世界の人々が『神』と崇めていた存在は、ただの『運営』であり、彼らが歴史だと信じていたものは、ただの『アップデート履歴』に過ぎない。
そして、目の前に眠る数万の人々は、新バージョンには不要だと判断され、消去される代わりにこの地下深くに『保存』された、デジタルな残骸。
【隣の王さん:おいおいおいおい!! 設定が重すぎて吐きそうだぞ!!】
【1.8mのメッシ:ってことは、今外にいる連中も、次のアプデで消される予備軍ってことかよ!?】
【物理の張先生:……衝撃的だ。リ・センセン、そのアーカイブの中に、我々の世界の『物理法則』に近いデータは存在するか?】
「……リ・センセン? 貴様、さっきから何を……何を言っているんだ。消去? アップデート? わけがわからん。……ここは、死者の魂が還る場所ではないのか?」
イヴがリ・センセンの腕を掴んだ。その手は、冷たく震えていた。
彼女はこの世界を愛している。仲間を守るために戦い、騎士としての誇りを胸に生きてきた。その人生の全てが、ただの『書き換え可能なデータ』だと突きつけられたのだ。
リ・センセンは、彼女の手を優しく、しかし力強く振り払った。
「イヴさん。……悪いが、俺は考古学者でも聖職者でもねえ。……俺はただの『正式服の廃人』だ」
彼はシリンダーの足元にあるコンソールへと歩み寄り、そのパネルを乱暴に叩いた。
「運営がどんな設定を組んでようが、俺の知ったこっちゃねえよ。……だが、俺の目の前にあるこの膨大な『リソース』……こいつを指をくわえて見てるほど、俺は聞き分けの良いプレイヤーじゃねえんだよ!」
リ・センセンがコンソールに右手をかざすと、彼の紋章が、シリンダーの中の銀河を飲み込まんばかりの黒い輝きを放ち始めた。
「——システム。管理者権限の脆弱性を利用して、アーカイブの一部を『強制ダウンロード』しろ。……ターゲットは、『過去の英雄たちのスキル・データ』。……この世界の常識を、俺が全部『上書き(パッチ)』してやる」
「——警告。不正アクセスを検知。防衛システム『ゼロ・イレーザー』、起動まで残り六十秒」
地下空間に、心臓を突き刺すような警報音が鳴り響く。
リ・センセンの不敵な笑みが、青白い光の中に浮かび上がった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
第33話、物語の根幹に迫る超重要回でした!
この世界は、アップデートによって管理される「巨大なゲーム」だった。
そしてリ・センセンが見つけたのは、捨てられた旧データの墓場。
普通ならここで絶望する場面ですが、我らがリ・センセンは「全部自分の強化資材にしてやる」と笑い飛ばしました。
まさに廃人、まさに外道(笑)。
しかし、起動してしまった防衛システム『ゼロ・イレーザー』。
リ・センセンは、世界の消しゴムから生き残ることができるのか!?
【作者からのお願い】
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皆さんのポイントが、リ・センセンの「不正ダウンロード」の速度を上げます!
現在、4月18日の50話到達に向けて、文字通り脳から煙を出しながら連載中!
第34話は、制限時間一分間の「データ強奪戦」。
異世界の歴史を、リ・センセンが自分の『武器』に変える瞬間をお見逃しなく!
それでは、第34話でお会いしましょう!




