第32話:センチネルの終焉、あるいは『判定』の極北
目の前に立ち塞がるのは、数千年の時を超えて起動した古代の番人『センチネル』。
その鋼鉄の巨体は、いかなる魔法も物理攻撃も受け付けない絶望の壁……のはずでした。
「イヴさん、正面から戦うのは時間の無駄だ。……こいつ、実は『重心判定』がガバガバなんだよ」
リ・センセン、戦いの常識を捨て、システムエラーの押し売りを開始します。
リスナーの皆さん、これは戦闘ではありません。……『デバッグ』の時間です。
※今回も3100字オーバー、理不尽なまでの速通(RTA)回をお届けします!
「——侵入者……排除。プロトコル・ソラリス……起動」
重厚な機械音が広間に響き渡り、センチネルの全身に刻まれた青い魔導ラインが、眩いばかりの光を放ち始めた。全長五メートル。その手には、触れるもの全てを分子レベルで分解しそうな巨大な光の剣が握られている。
「来るぞ、リ・センセン! 奴の魔力出力が跳ね上がった。これは……王都の最高位魔導師すら凌駕する一撃だ。下がれ、ここは私が——」
イヴが重剣を構え、俺の前に割り込もうとする。その背中は、戦士としての覚悟に満ちていた。だが、俺は彼女の肩をひょいと掴んで、背後へと引き戻した。
「イヴさん、だから言ったろ。……こいつは『暴力』じゃねえ。……『システムエラー』の押し付けなんだよ」
リ・センセンは、ドローンカメラをセンチネルの足元へと向けた。
彼の網膜には、12.0正式服で培われた『解析アイ(アナライズ・モード)』が、現実の光景に無数のデバッグ情報を重ね合わせて表示している。
【1.8mのメッシ:おいおい、リ・センセン、まさかあのデカブツを一人でやる気か?】
【物理の張先生:待て、センチネルの右足の関節部……魔力流動に僅かな『ラグ』がある。リ・センセン、お前はそこを狙っているのか?】
【隣の王さん:いや、センセンのことだ。もっと性格の悪いこと考えてるはずだぜww】
「——一分以内に終わらせる。家人们(リスナーの皆さん)、瞬き禁止だぜ」
リ・センセンが右手の紋章を空に向けて指を鳴らした瞬間、遺跡の天井から伸ばしておいた『導電性の蔦』が一斉に放電を始めた。だが、それは直接センチネルを攻撃するためではない。
「システム。センチネルの『空間認識モジュール』へ、偽装パケットを連続投入。……座標情報を X=NaN, Y=Inf に強制書き換え」
「グギィィィッ!? 警告……座標エラー……。ターゲット……喪失……?」
センチネルの動きが、一瞬でぎこちなくなった。
この世界の住人には見えないが、センチネルの内部AIにとって、今やリ・センセンは「存在しない座標」に立っていることになっている。ターゲットを失った巨体は、ただ闇雲に光の剣を振り回し、広間の壁を削り取るだけだ。
「な……!? 何をしたんだ? 奴の攻撃が、まるで見当違いな方向を向いているぞ!」
イヴが驚愕の声を上げる。彼女の目には、リ・センセンが何らかの強力な幻術を使ったように見えているのだろう。だが、現実はもっと冷徹だ。
「幻術じゃねえ、ただの『座標ハック』だ。……さて、次はこいつだ。……システム、足元の石畳の『摩擦係数』を 0 に設定変更。……『氷の蔦』、展開」
リ・センセンが地面を蹴ると、センチネルの足元から一瞬にして透き通るような氷の蔦が広がり、地面を鏡のような滑らかな面に作り替えた。
五メートル、数トンの鋼鉄の巨体。それが摩擦ゼロの地面に立たされた時、何が起きるか。
「ズザザザザッ!!!」
「ガッ……ギギィィッ!?」
センチネルは、まるで氷の上で滑った素人のように、無様に手足をバタつかせ始めた。
重心が高いその体格は、一度バランスを崩せば、自重そのものが凶器となる。
「——仕上げだ。イヴさん、奴の『首の付け根』……そこにある青いコアが剥き出しになった瞬間、全力の一撃を叩き込め! そこだけは物理的なダメージが通る『当たり判定』の塊だ!」
リ・センセンの指示と同時に、彼は『世界樹の雫』の残りの魔力を全て注ぎ込み、センチネルの背後から巨大な『鉄樹のハンマー』を形成した。
「——これでも喰らえ! 正式服流・物理デバッグだ!!」
ドォォォォォォン!!!
ハンマーがセンチネルの膝裏を強打し、巨体が完全にバランスを失って前のめりに倒れ込む。
その瞬間、装甲の隙間から、眩い光を放つ魔導コアが露出した。
「——はぁぁぁぁ!!!」
イヴが地を蹴った。
リ・センセンが作り出した『ハメ』の隙を、彼女は一瞬たりとも逃さなかった。
毒の重剣が、紫色の光を帯びてセンチネルのコアへと深々と突き刺さる。
バリバリバリッ!!!
「機能停止……プロトコル……終了……。ソラリスの……光……よ……」
センチネルの巨体から光が失われ、巨大な鉄の塊がただの物言わぬ残骸へと変わった。
戦闘開始から、わずか五十八秒。
神話の番人は、リ・センセンの「非道な攻略法」によって、その威厳を一度も見せることなくスクラップにされたのだ。
【隣の王さん:うわあああ! 秒殺!! センチネルがただの粗大ゴミにww】
【課金王:ハハハ! 摩擦係数ゼロとか、完全に『仕様の穴』を突いてるな。最高だリ・センセン、この調子で最深部まで突っ走れ!】
【1.8mのメッシ:イヴさんの最後の一撃、かっこよかったけど……なんかセンセンのせいでズルした気分にならないのかなw】
「……リ・センセン。貴様という奴は、本当に……戦士の誇りというものを、どこに捨ててきたんだ?」
イヴが剣を引き抜き、息を弾ませながら、呆れ果てたようにリ・センセンを見た。その瞳には、畏怖を通り越して「この男に常識を求めてはいけない」という悟りすら宿っていた。
「誇り? そんなもん、レイド報酬のレアアイテムに比べりゃ一円の価値もねえよ。……ほら、見てろ。中ボスのドロップ品だぜ」
センチネルの残骸が粒子となって消えていく中、その場に二つのアイテムが残された。
一つは、古代の魔力技術が詰まった『センチネルの装甲板』。
そしてもう一つは、不気味な赤い光を放つ、歯車のような形状をした『古代の鍵』。
リ・センセンがその鍵を手に取った瞬間、システムウィンドウに赤い警告文字が並んだ。
【警告:未定義のエリアへのアクセスキーを検出】
【目的地:ソラリス・メインフレーム —— 『世界の心臓』】
「……へぇ。中ボスのくせに、随分とヤバそうなもんを落とすじゃねえか。……おい、家人们。どうやらこの遺跡、ただの宝物庫じゃねえみたいだぜ」
リ・センセンの口角が、再び不敵に吊り上がる。
地下遺構のさらに奥、まだ誰も足を踏み入れたことのない『聖域』の扉が、今まさに開こうとしていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
第32話、中ボス速通完了です!
リ・センセン、もはや戦っているというよりは「ゲームのバランスを壊しに来たデバッグ神」ですね(笑)。
座標ハックに摩擦ゼロの地面……これには古代の防衛兵器もお手上げでした。
そして手に入れた『古代の鍵』。
その先にあるのは、世界の真実に迫る『メインフレーム』。
イヴさん、そろそろ常識を捨てないと、この先ついていけませんよ!
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4月18日の50話到達に向けて、このまま「廃人速度」で更新中!
次の第33話は、ついに遺跡の核心へ。
そこでリ・センセンが見つけたのは、異世界の歴史を根底から覆す『バグ』でした。
お楽しみに!
それでは、第33話でお会いしましょう!




