表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪われ姫の秘密な絵巻 ~和風乙女ゲームに転生したのでこっそり推し活していたら、都の危機に巻き込まれました~  作者: 有路ちみどろ
 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/33

29. 武芸大会 4

 さてと。ようやく気分が上向いてきたところで、今後の活動のためにも、師匠と情報のすり合わせをしておこう。

 私は少し浮き立った調子で師匠に話しかける。


「すでに師匠は、都で暗躍する貴族や術師たち――大禍刻にまつわる謀略を把握しているのですよね。であれば、未然に計画を防ぐことも可能ではありませんか?」

「うむ、そうしたいのは山々なんだがなぁ。我が追っているのは、その貴族たちをそそのかして、凡庸な術者に分不相応な技を授けた存在……世界の深奥に潜む、真なる悪意よ」


 え、えぇー……いきなり話のスケールが大きくなったね? 私の守備範囲は原作ゲーム本編までなんだけど……都の危機でも手一杯なのに、さすがに世界の危機まではカバーできる気がしない。


 この流れはいろいろと想定外。私は動揺のあまり前のめりになって、最も気になっていた質問を語気を強めて投げかける。


「ということは、来たる大禍刻……師匠のご助力は得られないのですか?」

「そうだ。大禍刻の対処は靜に任せる。我よりもそなたが適任だ。比類なき転写魂術を引っ提げて、例の記録対象たちに声をかけるがよい」

「えええぇ!?」


 ここに来て、明確に距離を置かれてしまった。「師匠なら助けてくれるかも」という、私の甘い考えを見抜かれていたのかもしれない。

 前回の勢力を超えるであろう大禍刻を、師匠の手助けなしで戦えるだろうか。しばらく返事に迷っていると、師匠は苦笑しておどけてみせた。


「なぁに、心配せずとも万事うまくいく。姿は見えずとも、我もそなたとともに戦っているのだから」


 神出鬼没な大陰陽師が、わざわざ私を探し出して言葉を交わし、しかもこうして励ましてくれるなんて。それがどんなに貴重なことか。私は「はい」と震える声で、こみ上げる弱気を振り払った。

 そうだ。師匠は私を信頼してくれているのだ。私だってその期待に応えたいし、真日流ちゃんたちのことも助けたい。


 私は世界を改変しようだなんて思わない。でも、異常な悪意を見過ごせるほど、世界に対して無関心ではない。



「豆千世よ。いざというときは、お前が靜を守ってやるのだぞ」


 そう言って、師匠は豆千世を強めに撫でた。その拍子に絵巻の映像がガクガクと左右に揺れて、豆千世が「チュリチュリ」と苦しそうに鳴いた。どうやら、豆千世のスピーカー機能は終了したらしい。


「では、この絵巻と筆は返却せねばな……」


 師匠が手際よく絵巻と筆を布の包みの中へと戻し、それを持ち上げた瞬間、「ご主人!」という威勢のいい声と羽音が聞こえてきた。主の言動を目ざとく察知した博参が、焦った様子で飛んでくる。

 博参は師匠から素早く包みを奪い取ると、鳥類らしからぬ不気味な笑みを作った。今のはかなり粗暴な言動に見えたのに、実弥間の小言はないようだ。


「この包みをお姫様の屋敷に返すんだよな? なら、俺が行くからご主人はここで休んでてくれ。……大丈夫、この豆千世とやらを追えば、たどり着けるだろうよ」


 博参の唐突な提案に、豆千世は震え上がった。師匠は一瞬だけ目を丸くするも、「そこまで言うのなら、頼むとするか」とあっさり承認した。


 小型で軽量が売りの豆千世には、実のところ「自分より重い物を運ぶ」ということは困難だった。その点ではありがたい申し出であるものの、当の豆千世にとっては恐怖で気が気でない、といった様子だ。


「博参は怖くなーい……怖くなーいよー?」


 そわそわと落ち着かない豆千世をなだめようとして、下手な猫なで声で話しかける。

 案の定、特に効果はなかった。ごめんて。


 私の帰還命令に従って、豆千世がいつもより荒っぽく羽をバタつかせて飛び上がると、少し時間を置いてから包みを掴んだ博参も飛び立った。


 豆千世は一心不乱に飛んでいるので、後方につけている博参の姿は絵巻では視認できない。帰還命令を出したあとは、絵巻から視線を外して一息ついていることが多いんだけど……今回は目を離さないでおこう。


 二羽は順調に屋敷に近づいてくる。……そういえば、厳重すぎる私の部屋に、よその式神が侵入できるのかな? そのとき、博参も私と同じことに気づいたようで、「キィー」という甲高い鳴き声が屋敷の上空で響いた。


「――そぉら! 受け取れ、豆千世!」


 ついに振り返った豆千世に向かって、布の包みが襲い来る。博参が掴んでいた包みを放り投げたのだ。

 豆千世は小さな両脚でどうにか包みを掴んで必死に羽ばたくも、徐々に高度が落ちていく。


 私は絵巻を放って庭へと飛び出し、空を見上げる。……見えた! あの小さな包みが、豆千世だ!

 頭上で豆千世がフラフラするたびに、庭で両手を突き出している私もフラフラする。お願いだから、無事に着地して~!


 私の願いが天に通じたのか、豆千世が頑張ったおかげか、やっとのことで墜落しかけていた豆千世を捕まえた。安堵のあまり長い溜息をついて、私は包みごと豆千世を抱きしめた。


「豆千世も絵巻も、無事に戻ってきてくれてよかった……!」


 博参は怖くないし、いい性格をしていると思うけど……ちょっとガサツだよねぇ!


 内心で悪態をついて、はたと気づいた。私は咄嗟に裸足のまま庭に出ていたのだ。足の裏、ズタズタになったかも。あと、この状況を八重に見つかったらマズい。

 今さらになって慎重に足元を確認しながら、私はすごすごと自室に引き返すのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ