表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪われ姫の秘密な絵巻 ~和風乙女ゲームに転生したのでこっそり推し活していたら、都の危機に巻き込まれました~  作者: 有路ちみどろ
 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/33

26. 武芸大会 1

 原作ゲームとは異なる展開や、無視できない違和感。それ自体は、これまでも何度か体験している。

 そんな中でも「天命を操る」という突拍子もない設定には、特に大きな衝撃を受けた。


 先日から続く地湧きの多発――妖異の活性化は、その影響があるのではと勘ぐってしまう。

 とにかく件数が多いらしく、陰陽寮の官人や天照学府の生徒までもが対処に追われ、いまだに都を走り回っている姿をよく見かけるのだと、八重が教えてくれた。


「……といっても、私にはどうすることもできないのがなー」


 たしかに、思うところはある。あるにはあるけど、いつも堂々めぐりで答えは出ない。こうして悩んでいるうちにも、無情に時間は過ぎていく。


「こんな状況でも、『武芸大会』は例年どおりに進めるみたいだし……行くしかないか」


 私がそわそわと動き出したことから、自分の出番が近いと察したようだ。豆千世が急かすように周りを飛び回る。

 おやつをたくさんあげたわけでもないのに、いつにも増して生き生きしているなぁ。


「――それじゃあ、よろしくね」


 檜扇の先端から高く澄んだ青空へ、豆千世が意気揚々と飛び立つ。その長い尾羽を目で追っていると、冷たく乾いた風が一帯を通り抜けた。私は身震いをして、体を縮こませながら室内に戻った。


 豆千世が向かっているのは、都の外れにある大きな演習場。学府でも授業や試験の際に利用する、国立の運動場のような場所だ。敷地内には雑木林や川が作られ、人間の手によって生態系が保たれている。


 今日はそこで、貴族たちが狩りの腕前を披露する「武芸大会」が開催される。

 獲物は動物に似せた式神たち。見た目は鳥や鹿といった動物そのものでありながら、競技用として複雑な動きをするように作られている特別仕様な式神だ。なんでも、この日のために専門の製作チームまで組まれているんだとか。


「……あ、そうだ。もし師匠が来たら、絵巻と筆を返してもらわないと!」


 原作ゲームでの武芸大会は、気まぐれな与須殻がひょっこり顔を見せるイベントでもあった。接触できる場面が限られる相手なので、早いところ一式を返却してもらいたい。ほんと、頼むから。


 神出鬼没な師匠に対して、いつもの三人は勢ぞろい。東雲は狩りの参加者として、未明と暁は周辺の警備、肝心の真日流ちゃんは救護係としての任を与えられている。皆して実力者なこともあり、なかなかのハードスケジュールだ。見ているだけの私が心配になるほどに。



 しばらくすると、会場となる大きな演習場が絵巻に映し出された。狩り場となる敷地の中心部にはドーム状の結界が張られ、若い貴族の娘や幼い子供たち――観客が境目に立ち並び、取り囲んでいる。


 安全と警戒のため、豆千世は結界の内側の狩り場には進入させず、観客のいる外側を臨機応変に移動させることにした。相変わらず撮影はできないので、ここでも隠密機能は強めでいこう。


 どうやら、すでに開始の合図が出ているようで、狩りの参加者らしき人物が結界の中に見える。


 参加者は男性が多いかと思いきや、女性の武人や術者の姿もあった。動きやすさよりも見栄えを重視したのであろう、華美な衣装を纏った者がいるのも、いかにも貴族らしくて面白い。

 勇ましく弓を担いで獲物を探す武人や、小さな人型の式神を肩に乗せて歩く術者など、会場の端で見ているだけでもさまざまなタイプの参加者が確認できる。


「――見つけた!」


 あてもなく豆千世を移動させていると、ようやく見知った後ろ姿を捉えた。簡素な巫女装束の真日流ちゃんと、そこから少し離れた場所で警備をしている曉だ。


 救護係とはいえ声が掛からなければ暇なので、手持ちぶさたな真日流ちゃんは一人で周辺を巡回しているようだ。弓を背負った曉は結界の境目に立ち、いたって真面目に大会参加者と観客の双方を監視している。


 武芸大会では攻略キャラたちが格好よく狩りの腕前を披露したり、真日流ちゃんを守ったりして胸をときめかせる展開が続くんだけど……今の私は、ときめきよりもざわめきを感じる。


 原作ゲームではどんなイベントがあったっけ。私が首をひねって考え込んでいたところ、突然「フォーン」という不思議な高音がした。驚いて絵巻に目を向けると、遠くで東雲が走りながら叫んでいた。

 先ほどの怪音は、彼が放った鏑矢(かぶらや)によるものらしい。豆千世の位置的に、東雲の言葉までは聞き取れない。


「式神じゃない! 妖異だ!」


 東雲の声が届いた参加者の一人が、上空を指さして声を張り上げた。

 空を悠々と飛んでいる一つの影。目を凝らすと、それは鶴を黒く染めたような鳥だった。この妖異を追ってきた参加者たちが、次々と矢を放ち式神を差し向けるも、簡単に弾かれたり回避されたりしている。


 近くにいた観客たちは慌てふためき、一斉に逃げ出した。丁度よく現場に居合わせた真日流ちゃんは、観客たちの避難誘導をしている。

 もちろん、こんな状況の中でも豆千世にはここに留まって観察を続けてもらう。


「ここも結界の中なのに……またなの?」


 もはや結界があろうとなかろうと、妖異が湧き出して混乱を巻き起こす。おそらく、大会参加者の中に例のテロ組織に与している者がいたのだろう。


 またしても、原作ゲームのとおりには展開しないのか。不安と恐れを振り払おうと筆を動かし、豆千世の視点を動かした。上空の妖異に向かって、弓を引き絞る曉の姿をズームで捉える。


 私の中では曉といえば金砕棒というイメージがあったので驚いた。というか、彼が弓矢を使っている場面は初めて見た。

 曉は周囲の騒音にも気を取られず、落ち着いた様子で狙いを定めている。人嫌いな彼は、多彩な武芸を身につけていても、人前で披露することがなかったのだろう。


 動き続ける標的を射る。それが離れ業であることぐらい私にもわかる。しかも、一撃にかなりの霊力を込めなければ弾かれるときた。

 そんな高度な技術を持っている人など、霊力が自慢な貴族の中でも滅多にお目にかかれない。……しかし、今日だけは特別。この武芸大会の運営には、身分を問わず優秀な人材が投入されているのだから。


 曉もその中の一人だ。彼ならば間違いなく、空飛ぶ妖異をも撃ち落としてくれる。危機的状況において唯一、安心して見ていられる存在だ。


 曉は迷いのない動作で矢を放った。空気を切り裂いて、力強く飛んでいく一本の矢は、うっすらと炎を纏って揺らめいていた。

 信じられないとばかりに、地上ではどよめきが聞こえる。見る人が見れば、曉が人外であると悟ったかもしれない。


「やった! 命中した!」


 空を飛ぶ炎の矢は、見事に妖異に命中する。私も見入ってしまい、つい声を上げて飛び跳ねてしまった。

 あえて殺傷力の低い矢を使用したとはいえ、その衝撃は計り知れない。体に矢が突き刺さった妖異は、炎に包まれてぐずぐずと形が崩れていく。


「――あれ? ちゃんと当たったのに、様子がおかしい?」


 焼け落ちた妖異か焦げた矢が落下してくるかと思いきや、妖異だったものの名残――黒い靄はいまだに残り続けている。それは自身を射た矢を抱え込んで、怪しく宙に浮かんでいる。


 なんと奇妙な光景か。参加者たちが不安そうに顔を見合わせ言葉を交わしていると、空中の黒い靄が不気味に収縮しはじめた。黒い靄は黒い矢へと変化していく。


「な……何が起こってるの!?」


 そう叫んだのは私だけではないはずだ。地上で固唾をのんでいた人々は異変を目の当たりにして、わっと動き出した。どう見てもアレは危険なものだ。皆が同じことを思ったのだろう。

 より濃い黒に染まっていく矢が、風もないのにくるくると動き出した。


 曉や東雲といった数少ない猛者は武器を構えているものの、参加者や観客であるほとんどの貴族はちりぢりになっていた。

 結界から少し距離のある場所に視線を向けると、逃げる際に転んでしまったのか、べそをかいている子供を介助している真日流ちゃんの姿があった。


 たとえ相手が誰であっても、彼女はためらわずに浄化の力を施す。それはほとんど無意識に近い行為だったのかもしれない。しかし、その様子を見ていた私の脳内では、妄想のピースが噛み合っていくような……嫌な感覚があった。


 先日、耳にした台詞が鮮やかに蘇る。「例の『目障りな力を持つ女』に対して、特に敵意が向くように調整」?

 彼らにとっての「目障り」とは、任務遂行の障害となるもの……と、いうことは。


「真日流ちゃんが、狙われている……?」


 思わず身の毛がよだつ。胸が苦しい。

 空中に留まる黒い矢を確認しようと豆千世に指示を出す、その直前。パリンと、玻璃が割れるような甲高く鋭い音が耳を打つ。

 黒い矢が勢いよく一方向へと吹っ飛んで、結界を内側から突き破ったのだ。


「……嫌。そんなこと、ありえない!」


 もしや意思を持って動いているのか。そんなふうに思ってしまうくらい、真日流ちゃんに目がけて一直線に飛んでいく。虚を突かれた人々は、防御体勢も取らずに唖然としている。


 小さく曉の叫び声が聞こえた。「真日流」と名前を呼んだのかもしれない。その声と真日流ちゃんの元に矢が到達するのは、ほとんど同時に思えた。


 結界を突き破った音によって、黒い矢の接近に気づいた真日流ちゃんは、咄嗟に子供を突き飛ばした。そして、険しい表情で刀印を結んで防御を試みるも……その途中でばったりと仰向けに倒れた。


 華奢な肩に矢が刺さり、白い小袖に赤い花がにじんでいく。それを視認した瞬間、私は目をそらした。


 それから先の光景は、コマ送りのように途切れ途切れにしか頭に入ってこなかった。


 誰かの悲鳴と憤慨している大声。真日流ちゃんへと駆け寄る救護係、恐怖で立ち尽くす大会参加者、親を探して泣いている子供。現場では混乱の嵐が吹き荒れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ