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呪われ姫の秘密な絵巻 ~和風乙女ゲームに転生したのでこっそり推し活していたら、都の危機に巻き込まれました~  作者: 有路ちみどろ
 

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19. まつろわぬ者 2

「――はぁ、はぁ。……やっと、見つけた」


 ふらつく足取りでぜいぜいと肩で息をする。あちこちで発生している戦闘を避けながらの移動、しかも牛鬼の攻撃の余波で、たまに地面が揺れるのでとても歩きにくい。

 場違いな存在に気がついた兵士から声をかけられたりもしたが、ここまで来ると戦闘の激化により自分のことで手一杯のようで、無理やりに追い払われることはなかった。


 ここへたどり着くまでに、懸守の効果についても理解できた。どうやら、この小ぶりの筒の中には、結界術師である父の力がこれでもかというほど詰め込まれているようだ。

 対人、対妖――とにかく、悪意や敵意を寄せ付けない。もはや執念すら感じるものの、おかげで無傷で移動できた。父への感謝の気持ちは……今はまだ、うまく言葉にできそうにない。


 では、この懸守があれば絶対に安全なのかというと、そうとも言い切れない。詰め込まれた霊力が消費されるたび、重みも減ってきている。いつまで守護の効果が持つのかわからない。


 なるべく急いで確実に。サッと真日流ちゃんに近づいて、ズバッと牛鬼の弱点を伝えて、パッと帰る。……よし。脳内シミュレーションは完璧。

 視線の先で勇ましく立つ、真日流ちゃんの小さな姿を捉えて、私は息をのんだ。


「ま、まひっ……真日流、様ぁー!」


 うわぁ……ついに名前で呼んじゃった! しかも、いつもの「ちゃん」付けだとなれなれしいかなって思って、咄嗟に「様」付けにしちゃったよ! かえって不審者度が上がったかもしれない。恥ずかしー!


 危険地帯にいるにもかかわらず、オタク仕草全開で接触してくる怪しい人の言うことなんて、信じてもらえるかな。

 真日流ちゃんは自身の名前を呼ばれたことに気づいてキョロキョロしているけど、離れた後方で縮こまっている私を見つけることはできなさそう。

 たしかに恥ずかしいし、貴族の娘にあるまじき醜態だ。でも、今だけは目立たなければ意味がない!


「真日流様! ……もうこうなったら、誰でもいいから、土気の術を使ってください!」


 ようやく声の発生源を把握した数人が、私のほうを一斉に見つめる。ドクンと心臓が跳ねるも、頑張ってこらえなければならない。その中の一人、お目当ての真日流ちゃんが、戸惑いを見せながらも駆け寄ってきてくれる。

 すごい、本物の主人公だ! ありがてぇ~! ……と、拝みたくなる気持ちを飲み込んで、私は努めて険しい表情を作る。

 真日流ちゃんは私の様子を一瞥し、諭すように話しかける。


「高貴な御方とお見受けしますが……ここは危険です。すぐに退避を」

「はい。だから、ここに来たんです」


 私の率直な物言いに、面食らった真日流ちゃんが目を丸くしている。

 大型妖異の対処で大変なところに、わけのわからない不審者まで現れて、彼女もかなり疲弊しているはず。


「あの牛鬼は火を操るように見えて、その本質は水妖です。土剋水……土気の術ならば、よく通るはずです」


 無意識に声は震えてしまったけど、端的に情報を伝えたつもりだ。圧倒的信頼不足なのはどうしようもない。

 私をじっと見つめる真日流ちゃんの若葉色の瞳は、不安げに揺れていた。


「いったい、あなたは何者で――きゃっ!」


 真日流ちゃんが私のほうへと踏み込んだ瞬間、大きく視界が揺れた。このタイミングで、牛鬼による地震……!?

 動揺のせいか疲れのせいか、気を張っていた真日流ちゃんがくずおれる。たまらず私もふらついて、彼女に寄り添うように伏せた。


 こんなに戦闘が長引くなんて、絶対におかしい。原作ゲーム知識も通用しないかもしれない。今さらになって、混乱と恐怖で血の気が引いていく。


 立ち上がれず震えている私の近くに、見計らったかのように何かが寄ってくる気配がした。

 不思議と嫌な感じはしない。むしろ、爽やかな空気が通り過ぎたので、妖異ではないと思うけど……この流れで新手?


 しゃがんだまま視線だけを動かすと、そこには男性の足――和沓が見えた。


「――うむ、(セイ)の言うとおり。優秀な弟子をもって、我も鼻が高いものだ」


 ……んっ? なーんか、聞いたことのある声がする。あと、その口振り……いやいや、まさか!

 隣にいた真日流ちゃんが、力強く立ち上がる。おそらく、その人物を見て驚いているのだろう。か細い足が後ずさりしていく。


「未明よ。お前ほどの技量があればわかるであろう。珍しく、焦りで目が曇ったか?」


 おーっと、これは……マジですね? この圧のある口調、マジでそうなんですね!?

 でも、この場合はどう呼べばいいのか。……断然、馴染みがあるのは、こっちのほうだよ!?


「――師匠!!」


 勢いよく飛び上がる私と、遠くにいた未明が、ほぼ同時に叫んだ。


 大路の真ん中で、堂々と立つ長身の青年。布を垂らして顔を隠しているものの、未明が師と仰ぐ人物は一人しかいない。

 彼は未明の師匠であり、私も師匠と呼んで文を交わしていた人物――「与須殻」だ。


 鈍器で殴られたような衝撃を受けて、私の思考は停止したまま動かない。弱ったフィジカルとメンタルに、この展開はオーバーキル。口から魂が抜けそう。

 かろうじて立ってはいるけど、言葉をかけることはできず、私は師匠の後ろ姿を凝視するしかなかった。


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