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呪われ姫の秘密な絵巻 ~和風乙女ゲームに転生したのでこっそり推し活していたら、都の危機に巻き込まれました~  作者: 有路ちみどろ
 

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18. まつろわぬ者 1

 ドタドタと品のない足取りで渡殿を移動していると、すぐさま八重が飛んできた。夜も更けてきた頃だというのに、仕事熱心なことだ。……いや、私のせいだけどさ。


「何事ですか、靜子様!?」


 八重の必死な呼びかけにも足を止めず、私はひたすら正門を目指す。屋敷の構造についての情報を、薄ぼんやりとした記憶の彼方から呼び起こし、答え合わせをするように歩みを進めていく。

 すれ違う家人たちからは、もれなく二度見される。実は、私は八重以外の家人とはほとんど面識がない。きっと、彼らも驚いたことだろう。夜分遅くにうるさくして、ごめんなさいねー!


「八重、草履を持ってきて!」


 不安そうに後ろをついて歩く八重に対して、私は顔を向けずに声を張り上げた。

 八重は困惑している様子だったが、私が本気であることを感じ取ったのだろう。瞬時に態度を改め、近くにいた家人に耳打ちすると、身を翻して走り去った。


  私はどうにか一発で中門にたどり着くことができた。日頃の運動不足が祟ってか、ずっと心臓が高鳴っていて苦しい。これから市中に出るというのに、こんな調子では……って、弱気になるな!

 前向きな心とは裏腹に、足がすくむ。私が屋敷を飛び出したことを知れば、父は悲しむかもしれない。過保護と言われようとも、愛娘である私を想うがゆえの行為ということは、重々わかっている。


 廊下で立ち尽くし思い悩んでいると、後方から八重の声が聞こえた。急いできたのか、少し息が上がっている。


「靜子様、草履をお持ちしました。……それと、これも」


 見知らぬ家人の視線も気になっていたところで、八重が私の足の大きさに合う草履を用意してくれる。

 八重は本当に……できる女房だ。私が家を出ようとするだなんて、彼女にとっても衝撃的な出来事のはずなのに。


 感動に浸っている私をよそに、八重は「失礼します」と言って私の袿に手をかけ、頭巾のように頭を覆っている部分を後ろに下ろした。

 八重は素早く私の首元に何かを引っかけた。それが何か確認しようとうつむくと同時に、さっと頭に袿が被せられる。


「それは、霊力を込めた『懸守』です。……どうかご無事で、一刻も早いお帰りを」


 懸守とは、小さな筒に紐がついた、首から下げるお守りだ。慣れない草履を履いて立ち上がると、ゆらゆらとそれは揺れた。

 妙に融通が利く上に、用意周到なんだけど……いつから準備していたんだろう。思わず振り返りそうになる私の背を、活を入れるかのごとく八重が片手で軽く突き飛ばした。


「なっ……!」


 なんで、と口から出るより先に、理解が追いついた。懸守から感じるかすかな霊力。古めかしく、わずらわしい……とても馴染みのある気配。

 ――あぁ、わかった。これは、父による守護の術式だ。


 おそらく、こんな日が来ることを、ずっと前から予想していたんだ。父も、八重も。

 私は手にした絵巻と筆をぎゅっと胸に引き寄せて、大路へと駆け出した。



 数年ぶりに飛び出した屋敷の外は、想像以上にひっそりとしていた。飾り付けの鬼灯石のおかげで道は明るいものの、星祭りとは思えないほどの異様な静けさと緊迫した雰囲気だ。時折、近くを通り過ぎる人々は、大きな荷物を伴って足早に去っていった。

 ほとんどの住民は、避難したか自宅に閉じこもっているのだろう。貴族が住まうような屋敷であれば、魔除けの一つや二つ、防衛機能として備えているものだけど、今回に限ってはそれも通用するかどうか。


 生暖かい夜風に乗って、土の匂いと何かが焦げた匂いが運ばれてくる。そうだ、彼らは今も戦っている。私も急がないと。

 私は絵巻を広げて視線を落とす。絵巻の端にある地図には、豆千世の居場所である点が残されている。微動だにしないそれは、唯一の目印だった。


「今、行くからね……!」


 立ち止まっている時間すら、今は惜しい。

 豆千世から送られてくる映像で何度も目にした家並みを、無心で走り出す。


 ……が、しかし。非常に残念ながら、調子が良かったのは最初だけだった。案の定、数分後には息が切れてきた。胸が、肺が重く痛い。屋敷を出たときの威勢が、みるみるしぼんでいく。

 一応、外出用の格好をしているとはいえ、激しい運動には適さない。たぶん、雅な貴族は走って移動したりしない。


 そもそも、屋敷の外を一人で走るなんて、靜子として生まれて初めてのことだもの。筋金入りの引きこもりに、体力なんてあるわけないでしょう!

 私は内心で愚痴りながら塀に手をついて、浅い呼吸を繰り返す。外の世界、ツラすぎ。早くも挫けそう。フィジカルだけでなく、メンタルもそれほど強くなかったという事実が発覚。


 塀に寄りかかり溜息をつくと、ハヤブサが「キィキィ」と鳴きながら、暗い空を悠々と飛んでいった。状況から鑑みるに、誰かの式神に違いない。

 では、私の式神はどうなっているのかというと……絵巻の地図上、小さな点が弱々しく光っている。これは元となる形代がそこにあるというだけで、形代が消失すれば光点も消えてしまうだろう。


 大丈夫、ちゃんと目的地には近づいてきている。どうにか、この角を曲がれば神社前の大路に……って、あれ?


「マズい……道が封鎖されてる」


 一般人が立ち入らないよう、警備の兵士らしき年若い男性が二人、どこか落ち着かない様子で立っていた。見れば、規制線のようなものも張られている。

 当然と言えば当然だけど、さすがに規制を突破する対策までは考えていなかった……!


 私が道の曲がり角からひょっこりと顔を出していると、あっという間に兵士に見つかってしまった。「そこの御仁!」とピンポイントで指摘されて、すみやかな退避を促される。

 ただし、その言動は少しぎこちない印象を受ける。彼らもまた一般人と同じで、天蓋の中で大規模な戦闘が発生したこと自体に、驚きと戸惑いがあるのだろう。


 迂回路があるわけでもないし、隠れて侵入も無理……となると、ここはもう泣き落としか、強行突破?

 お金をちらつかせて交渉、という裏道もあったかもしれないけれど、私には手持ちがない。というか、絵巻と筆しか持ってないよ!


 私はしょんぼりと肩を落とし、制止を無視して兵士のほうへと歩いて行く。

 こんな状況下で妙に身なりのいい女が一人でうろついているだなんて、彼らにとっても予想外だったようだ。不審な動きをする私を警戒して、武器を持つ手に力を込めている。


「……あの。どうしても、この先に行きたいんです。なんとか、通してはもらえませんか」


 見知らぬ人物に話しかけるなんて、いつぶりだろう。緊張で体が震えて、声がうわずった。

 私の渾身の申し出を聞いた兵士の二人は、「はぁ?」と素っ頓狂な声を上げて怪訝な表情になる。……うん、言いたいことはわかるよ。わかるけど、その反応は傷つくわぁ。


 少しだけムッとしつつも、瞬時に思考を巡らせる。せっかくだし、この隙を突いてやりますか。

 規制線こと紙垂がついた縄をくぐろうと、私は体勢を低くした。――そのときだった。


 突然、懸守が淡く光ったかと思うと、後方から「うわっ」という野太い声と、鈍い衝撃音がした。

 何事かと驚いて振り返ると、さっきまで立ちふさがっていたはずの兵士が重なって倒れていた。


「ええぇ!? ご、ごめんなさーい!」


 どうやら、兵士の一人が私の肩を掴もうとしたところ、弾き飛ばされてもう一人の兵士に衝突した……のかな?

 こちらへ腕が伸びてきたのは気配でわかったけれど、私の体に何かが触れた感覚はなかった。


 ほんの一瞬の間に何が? ……と、ゆっくり考えている暇はなさそうだ。ひとまず、ここを突破してしまおう。

 彼らに非はないどころか、むしろ正しい対応だったのに……申し訳ない。湧き起こる罪悪感を振り切るように、私は小走りで関門から遠ざかった。


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