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呪われ姫の秘密な絵巻 ~和風乙女ゲームに転生したのでこっそり推し活していたら、都の危機に巻き込まれました~  作者: 有路ちみどろ
 

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13. 夏越の大祓 2

 私はのそのそと絵巻を拾い上げて、改めて豆千世の現状を確認する。


 いつの間にか分身の術は解けており、本体である豆千世が一匹、木の枝に止まり首をかしげていた。せっかく術式が成功したのに、放置しちゃってごめんよ~!

 分身の術は解けたものの、私が目を離していたあいだも、豆千世はしっかりと真日流ちゃんを追っていた。


「ふー、豆千世が優秀で助かったぁ!」


 これで二人の捜索から再スタート、なんてことになっていたら、イベントに間に合わず暴れ狂っていたかもしれない。……そんなことしたら、八重が飛んできて説教を食らっちゃうけど。


 それから間もなくして、祭りの喧噪から離れた場所で、真日流ちゃんと曉が出会う。いつものように、豆千世は暗がりから見守る。

 私は二人の会話に静かに耳を傾けた。



「――あれ、曉さん? 今日は曉さんもいらしてたんですね」

「誰かと思えば……真日流、だったか。相変わらず、なれなれしいなお前は」


 ぶっきらぼうな口調に反して嫌な顔はしていない。人の懐に入るのがうまいのは、真日流ちゃんだからこそ成せる技か。

 真日流ちゃんは友人と別れて単独行動していることを、努めて明るい態度で曉に説明した。


「茅の輪くぐりを済ませて、形代もお納めしてきたんですけど……私の形代は何の色もつかなかったんです」


 この世界の形代は特殊な和紙でできており、穢れを移すとその穢れの質や量に応じて、形代に多種多様な色や染みが浮かび上がる。

 これは真日流ちゃんには穢れはほとんど付着していない、という特異性の表れであると同時に、形代をもってしても彼女からは穢れを取り除けない、という事実が明かされるシーンでもある。


「なんだ、曉さんも形代を持ってたんですね。まだお納めしないんですか?」

「これは……使っていないし、使う気もない。ほしいならやるよ」


 差し出されたまっさらな形代を見て、真日流ちゃんは驚き首を振った。


「だ、駄目ですよ。ちゃんと穢れを祓わないと」

「真日流。お前は形代に変化がないとわかったとき、何も思わなかったのか?」

「え……?」


 彼女の異質さに感づいている曉は、険しい表情を崩さない。真日流ちゃんに特異性があるように、曉にも特異性があるのだから。

 くしゃりと音をたてて、曉は持っていた形代を握りしめた。怪訝な表情をしている真日流ちゃんの目に、かすかに不安が宿る。


「おかしいだろう。穢れが一つもない人間なんているわけがない。見た目は普通の人間なのに、どこかイカレてるんだよ」

「どうして、そんなことを……」

「わかるんだ、俺には。俺も……同じだからな」


 曉は悲しそうに目を伏せて自嘲する。曉が形代に穢れを移すことをためらうのは、鬼の血が穢れとして形代に浮かび上がり、人目に晒されることを恐れているからだ。

 真日流ちゃんも曉の悲哀や葛藤を察したようで、彼の隣に静かにたたずむ。


 どんなに人間生活に馴染もうとしても、鬼だからと後ろ指をさされる。そんな境遇からか、曉は真日流ちゃんの能力をあえて特別視しない。それが彼なりの気遣いなのだろう。


「くうぅ……! 悲しくも共鳴する二人の横顔、いただきます!」


 二人の暗い境遇に、私は身もだえしながらも、えも言えぬ充実感かつ背徳感を味わっていた。そして、迷いなく撮影をこなした。

 それはそれ、これはこれだからね。


 絵巻に固定された儚げなスチルを眺めて、私は特大の溜息をついた。見れば見るほど胸を締めつけられる。この光景は単に物悲しいだけではなく、どうしようもなく美しい。


「まったく、最高なんだよなぁ!」


 今の私の笑い方を音で表現するなら、間違いなく「ニチャァ」である。完全なるキモオタだけど、今世では隠す必要なし。いえーい!


 ……と、手放しに喜んでばかりもいられない。私には最近になって芽生えた自意識……もとい、使命がある。だから、節度ある行動を心がけましょうね。



 真日流ちゃんと曉のイベントが終わっても、夏越の大祓はまだ続く。

 今回は撮影とは別に、確かめておきたいことがあるので、豆千世を境内から一旦は遠ざけて待機させておく。


「都の危機を見過ごすわけにもいかないし……ここまで来たら、危険を承知で挑むしかないか」


 こればかりは、師匠に怒られても止められない。私は肘掛けを枕にしてごろんと寝転がった。


 時折、目を閉じてまどろみながら、穏やかに時が過ぎるのを待つ。

 これぞまさに嵐の前の静けさ、というものか。そう考えると無意識に眠りが浅くなって、何度も目が覚めてしまった。


 やがて、境内の松明に火がともる。パチンと、薪が爆ぜる音で意識が覚醒する。

 夏の空はまだ明るいものの、夜の帳は静かに迫ってきている。


 ようやく、参拝客の数も減ってきたようだ。そろそろ次の行動に移るべく、私は大きく伸びをして気持ちを入れ替えた。


 豆千世を社殿の近く、垂れ幕に覆われた祭事の本部へと近づける。

 本来であれば関係者以外立ち入り禁止の場所なので、ここは多めに霊力を込めて、幕の隙間からこっそりと内部の様子をうかがおう。


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