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呪われ姫の秘密な絵巻 ~和風乙女ゲームに転生したのでこっそり推し活していたら、都の危機に巻き込まれました~  作者: 有路ちみどろ
 

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12. 夏越の大祓 1

 日に日に気温が上がり、夏の訪れを肌で感じるようになってきた。


 誰かに見せるわけでもないのに、服装を崩しすぎると八重に小言を言われつつ直されてしまうので、あまりゆるい格好はできない。

 それでも、重いうえに暑い装いには慣れそうにないし、前世の記憶があるせいか、なるべく自分一人で身支度は整えられるようにしておきたい。八重に嫌な顔をされても、私はできるだけ薄くて軽い装いを心がけた。


「はたして、引きこもりに『格式』は必要なものか……」


 私は肘掛けにもたれながら、赤い切袴からのぞいた素足をパタパタと動かした。そして、広げた絵巻物を静かに眺める。


 今日は半年分の穢れを祓う「夏越の大祓」。

 都にある神社のうち、今回の目的地は最も大きな神社で、茅の輪が設置されたり形代流しが行われたりする。ここでは庶民も気兼ねなく参加できるので、神事といっても厳かな雰囲気はない。いたって和やかな催しに見える。


「想像以上に人がいるなぁ……。まずは、真日流ちゃん探しからスタートしようっと」


 イベントの起点となるのは、やっぱり真日流ちゃん。ある程度、彼女の行動は予測できるけれど、早いところ見つけ出して追いかけたほうが間違いないだろう。

 境内からやや離れた場所で、望遠モードで張り込んでいた豆千世を、喧噪が聞こえてくる位置まで移動させる。


 今回の真日流ちゃんは、学府で知り合った友人――自身と同じく庶民上がりの「亜佐ちゃん」と一緒に神社へ来ているはず。

 二人は一緒に境内を見て回る。しかし、その途中で亜佐ちゃんに急用ができてしまい、早々に真日流ちゃんとは別れることになる。


 なお、この亜佐ちゃんの急用が、家族が妖異に遭遇して軽い怪我を負ったという、きな臭い話だったことが発覚するのは、もう少し先のお話……。


「とっくにお昼は過ぎているし、そろそろ二人が会うタイミングね」


 夏越の大祓で会える攻略キャラは複数いる。とはいえ、私の読みと勘が正しければ、真日流ちゃんは同じく一人で境内をうろついていた曉と偶然にも――いいえ、引き合うように出会う!


 今日の曉は少ない給金をもらって、境内の警備や設営の手伝いをしている。

 その休憩時間中、手持ち無沙汰になった曉が、人の少ない場所を求めてあちこち歩いて暇をつぶしていたところ、真日流ちゃんとばったり……というワケ。


「――私ってば、真日流ちゃんを見つけ出す天才かな?」


 真日流ちゃんが人混みから抜け出す天才という可能性も高いけど、私には彼女の姿が光って見えた。亜佐ちゃんと別れたすぐあとなのか、結い上げた髪を不安げに揺らし、辺りの様子をうかがっている。

 私は急いで豆千世に真日流ちゃんを追うように指示を出し、たかぶる感情を落ち着かせるために深呼吸を繰り返した。


「ふぅー。まだ気を抜いちゃ駄目、なんだけど……」


 深呼吸をしても脳内の興奮は収まらず、どうしても口角が緩んでしまう。こればかりはオタクの性分ってことで、しかたないよね!


 よし、ここは流れに乗って、新しい技を試してみようかな!

 私はうきうきで腕を突き上げて、自分を鼓舞した。


 苦心して組み上げた術式――「式神分身の術」を実行する。現状、私が従える式神は豆千世だけなので、あれやこれやと複数の命令を出すことはできない。そこで捻り出した案が、豆千世を分身させることだった。

 霊力の消費ペースは早いし、式神操作の精度も落ちるけど、単純に豆千世カメラの台数が増えるのだから、ここで使わない手はない。


「いでよ! 豆千世エイ、ビイ、シイ!」


 私は雑に付けた名前を雑に呼んで、分身の術を起動させた。大きさはそのままに、豆千世が三体に分かれる。各々、存在証明をするかのように、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。

 名付けセンスが微妙だという自覚はあるけど、無事に成功しているので気にしない。うまい具合に絵巻の映像も三分割されており、私は満足げに頷いた。


「これで、それぞれを別の場所に配置して、と……うん?」


 地図を確認しながら位置を指示していこうと筆を持った瞬間、ふわりと淡い光が視界の端に映り込んだ。


「え、このタイミングでなに……って、師匠!?」


 文机に置かれた木霊の文、その文字が宙に浮かんでいる。そこには、驚くべき言葉が並んでいた。


〈式神を分裂させるとは……なるほど、考えたな。しかし、今のそなたには過ぎた力だ。神聖な場では、特に霊力が研ぎ澄まされる。あまり目立つような真似はするでないぞ。〉


 これは警告……というより、説教? 私、師匠から説教されてる!?


「どどど、どういうこと!? まさか師匠……見てます?」


 私は持っていた絵巻を放り投げて、勢いよく簀子縁に飛び出した。生ぬるい風が髪を撫で、踏み込んだ床からミシリと軋んだ音がしたことで、ようやく我に返る。

 そうだ! 私ってば、師匠の容姿を知らないから、識別できないんだった~!


「ぎいいぃーーー!!」


 悔しさと恥ずかしさで悲鳴を上げながら、とんぼ返りで自室に戻った。

 きっとまた家人たちに「姫様の奇行が……」とささやかれてしまう……。


「はぁ、はぁ……師匠が見ているのは神社のほうだわ」


 乱れた呼吸を整え、冷静になって考えれば、自然と状況は見えてくる。

 師匠――あるいは、師匠の式神が境内にいる。ただ、それだけ。大丈夫、平気、問題ない!


「いやでも、私の監視って……する意味ある?」


 もしかして、私って要注意人物なのかしら。前世で言う、盗撮とかストーカーとか……そういう犯罪性を疑われた?

 様々な出来事が頭の中を巡っては消える。結局、師匠の人物像がわからない以上、考えても答えは出ない。


 自分で言うのもアレだけど、私が変な箱入り娘だということくらい、師匠も了承していたと思っていたのになぁ。速攻で警告が飛んできてしまったからには、これ以上はどうしようもないか……。


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