這いよる混沌 2
「さて、ターンを進めて下さいミト嬢」
「……【氷雪の妖精】で【誘黒神】を攻撃して、ターン終了よ」
小さな青い妖精が真っ黒な棒人間に抱きつくも、あっという間に全身を黒に染められて消えていく。
水兎の瞬間最大火力だったユニオンカードをユナイトした【ティターニア】の攻撃でもアイツの【誘黒神】を倒しきれなかった。
……でも、まだ勝ちの目はある。アイツ自身が言っていた。
『相手プレイヤーからの効果は受け付けない』
なら、アイツ自身に除去させてしまえば良い。
「俺のターン、ドロー!!」
百火 第三ターン
ライフ:10
手札:3 ターンカウンター:4
燃えそうな程に熱を帯びたカード、触れているだけで火傷しそうなソレを"ギアスディスク"に叩きつけた。
「アーティファクト【永遠に燃える】を発動!!!」
【永遠に燃える】
赤 コスト:4 アーティファクト・日輪・瑞神
このアーティファクトが存在する限り、各プレイヤーは自分のターンカウンター以下のコストのモンスターしか場に出せなくなる。コストの合計が自分のターンカウンター以上の場合、ターンカウンター以下となるように各プレイヤーが自分の場のモンスターを選んで破棄しなければならない。
場に存在するこのカードを破棄する事で発動する。次の自分のターンの初めまで自分が受けるダメージを0にする。
墓地にこのアーティファクトが存在する時に、ファイト中一度だけ発動出来る。
■■■■■■8■■■■■■■■■■×■■■4■■■■■■■■■■を行う。
ポツンと空中に浮かぶのは拳大の火の玉。
「コイツが場にある限り「各プレイヤーは自分のターンカウンター以上のコストのモンスターを場に出せず、存在していたのならば自らの手で破棄しなければならない、ですね」っ……知ってたのかよ」
「ジュンくんから情報は聞いていましたし、"ギアスディスク"のログを確認すれば効果は分かりますからね……(最も、後半の効果は不明でしたが)」
「だったら分かるよな、コイツの効果で破棄するモンスターを選ぶのはお前だから【誘黒神】の耐性はすり抜けるぜ!」
「確かに【誘黒神】の耐性はすり抜けますから、このままでは私は負けてしまいますね……発動すればの話ですが。【誘黒神】の第三の効果発動です」
火の玉が膨らもうと一瞬だけ縮む。そのまま、本来ならば爆発的に大きくなるはずなのに……そのまま消えていった。
「なっ……!?」
「一ターンに一度、相手が発動したカードの効果を無効にしてCカウンターを一つこのカードに乗せます……ふふふ、一手遅かったですね」
「なんで……そんな効果があるならアタシのユニオンカード止められたじゃない……!?」
「だって、ここぞのタイミングで見せた方が映えるでしょう?」
「……性格悪いぜ、お前」
俺の反応に気を良くしたのか、アイツはくすくすと笑い声を上げる。
……どうする?このまま延命の為にモンスターを出してもジリ貧だ。今の手札じゃあ、あのモンスターに勝てない。
「ほら、次の手を出して下さいよ。キミは私のお友達なのですよ。まだ手札はあります。ライフだってある。早く、次の手を見せて下さいよ!」
両手を広げ、仮面の隙間から見えるアイツの目はキラキラと状況に似つかわしくない光を宿している。
心の底から楽しんでいるその様子はまるで……主人公を見る子供の目だ。
でも、今の俺には打つ手が無い。
「……ターン終了だ」
「……………………え、なんで?」
間が空き、そしてようやく絞り出された言葉によると俺の行動は完全に予想外だったらしい。
困惑と落胆に、傍から見てもアイツは混乱していた。
口元に手を当てて何かを呟いているアイツの様子は見たことが無いものだった。
「…………ああ、聞き間違いですね!そうだそうだ、ヒャッカくんならまだ何かしてくる筈です……ねぇ、そうでしょう?」
「聞き間違いじゃねぇよ……俺にはもう打つ手が無い。ターン終了だ」
「そんな筈ないです!!!」
肩で息をし、アイツは左手で自分の胸元を抑えながらこっちにその真赤な視線をぶつける。
「キミは勝てる筈なんです、だってキミは私が選んだ主人公なのだから!!」
「主人公……?俺の事をお前が勝手に決めんなよ!!!俺が主人公だって言うならお前はなんなんだよ!!?」
「決まっているでしょう!!主人公という正義に倒される為に生まれた邪神ですよ!!!この戦いの為に、私はこの舞台を作り上げたのに!なんで、なんでそんな簡単に諦めるのですか!!」
一瞬、頭が真っ白になる。
アイツは……つまりは、俺に倒される為だけにこの状況に持ってきたのか?
何度目かの寒気が背筋を走る。
「いつから……俺の事を主人公に決めてたんだ」
「そんなの決まってますよ、出会った時からです。一目見たときから決めていました。キミはこの世界の主人公なのだと……だから、諦めないで下さい。キミは必ず勝ちます」
諦めるなと言っている本人がこの状況を作り上げているのは笑えない……何よりも、出会った時から……その時からずっとアイツは俺の事をそんな目で見ていた……そんなの
「気持ち悪い……」
思わず考えていた言葉が口に出る。
ハッと気づいて口を抑えるけども……手遅れだ。もう言ってしまったのだから。
「……友達に酷いこと言いますね。まあ、もう良いです。キミはもう私の主人公じゃない……諦めたのなら、友達でも無いです。ターンを終了したのならばそのまま私がターンをもらいますね」
落ち着いたのかなんなのか、肩を落とした様子でアイツは淡々と言葉を吐く。
楽しくなさそうに、渋々とプレイを始めた。
「私のターン……約定カードである【強壮なる使者】は【誘黒神】に転じましたので約定アビリティは消えます。ドローフェイズ、カードをドローせずにカウンターブーストです」
誘黒神 第四ターン
ライフ:7
手札:2 ターンカウンター:8
「…………はぁ、アタックフェイズ。【誘黒神】でヒャッカくんを攻撃です」
黒の棒人間が俺に向かって触手を振り下ろす。
速度は早くはない……けど、俺が逃げるよりも早く確実に……俺は潰される。
諦めて、せめて衝撃に備えようと強く目を瞑った瞬間に、冷気が走る。
「カウンタースペル!【妖精の目眩し】発動!!!」
【妖精の目眩し】
青・緑 コスト:1 スペル・妖精
相手モンスターが攻撃した時に発動出来る。
相手プレイヤーは攻撃したモンスターが最初に選んだのとは異なる正しい攻撃対象を攻撃対象に選ばなければならない。
自分の墓地に妖精モンスターが四体以上いる場合、相手の場のモンスター一体を相手のデッキに戻す。
いつまで経っても来ない衝撃に閉じていた目を開くと、破棄された妖精達と【ティターニア】、【スノーホワイト】が振り下ろされようとしている触手に吹雪を浴びせかけてその動きを逸らそうとしていた。
あまりにも強烈なその吹雪の余波で【サタン】が吹き飛ばされていく。
「アタシの墓地に妖精モンスターが四体以上いるから、【サタン】はデッキに戻させてもらうわ。そして、相手プレイヤーは別の正しい攻撃対象に攻撃をしなければならない……ヒャッカはやらせないわ」
「正気ですか?この場に他にモンスターはいません……狙われるのは貴女なのですよミト嬢。勝負を諦めた彼を貴女が何故、その身を捧げてまで守ろうとするのですか」
「百火は確かに直ぐに調子に乗る癖に、怖がりで諦め癖のある軟弱者よ……でも、やる時はやる奴よ」
酷い言葉を言う水兎はこっちを見て、ニッコリと笑いかけてくる。
怖いだろうに、そんな様子おくびにも出さない水兎がすごくかっこよく見えた。
「最後に勝つのはアタシたちよ、だから……アイツの言う事なんて全部無視して、ぶっ飛ばしちゃってよ馬鹿百火!!」
水兎 ライフ:10→0
轟音と共に俺に振り下ろされる筈だった触手が水兎を押し潰す。
奇跡的に直撃はしなかったけども、衝撃に倒れた水兎はそのまま牢獄の奥から三度飛んできた鎖に絡め取られて、蛇の模様の刻まれた牢屋に入れられてしまった。
「水兎…………馬鹿は余計だっての」
まだ諦めが全身にまとわりついて俺の体を重くしている……でも、それ以上の力がその重くなった体を突き動かしていた。
「少々予定は狂いましたがまあ良いです……どうせ、二人とも倒すつもりでしたからね。ターン終了です……さあ、正真正銘最後のターンですよヒャッカくん」
カード紹介
【永遠に燃える】
赤の神の瑞神、異界の太陽。
大型モンスターが場に出ることの抑制効果と出した時に相手が大量に展開していた場合にそれを減らすことが出来るという返しの一枚。
自分が展開する前にはこのアーティファクトの効果で自主的に破棄することが出来る。
隠された効果により一発逆転も狙える為、主人公が使うのに相応しいカードとなっている。




