這いよる混沌 1
宣言と共に誘黒神の影が不自然に伸びて大きく広がる。その影の中から立ち上がり、俺達を見下ろすのは真っ黒なナニカ。
子供が描いた黒一色の棒人間のような体は端の方が微妙に揺れ動き、手の先は何本もの触手になっている。
顔のある辺りにはぽっかりと凹んでいて、その中で真赤な光がゆらゆらと落ち着きなく動く。
カサカサという音は未だに止まない。場に出された【誘黒神】の姿を見ていると、背筋がゾクゾクとして気味の悪さに胃が持ち上がるような感覚を覚える。
「場に出た【誘黒神】は"ギアスモンスター"として扱います、また、相手からのカード効果を受け付けません。さらに、場に出た時に効果発動です。載せられていたCカウンター全てを取り除き、その数だけ互いの場、墓地からカードを選んでゲームから取り除きます」
【誘黒神】
黒 コスト:10 神・使徒・虫
A:10 B:10
このモンスターは【強壮なる使者】でのみ場に出せる。
場に出たこのモンスターは"ギアスモンスター"として扱い、相手のカードの効果を受け付けない。
このモンスターが場に出た時、または攻撃宣言時に発動出来る。このモンスターに乗せられたCカウンターを全て消費し、その数だけ互いの場、墓地からカードを選んでゲームから取り除く。
このモンスターの効果でカードを8枚以上取り除いた時に発動する。プレイヤーを一人選ぶ。そのプレイヤーはファイトに敗北する。
一ターンに一度、相手がカードを発動した時に発動出来る。その効果を無効にし、このモンスターにCカウンターを一つ乗せる。
このモンスターのBが0になった時に発動する。手札を一枚破棄して、このモンスターのBを10に戻す。
互いのターン開始時に自分の手札が0の時、このモンスターを破棄する。
このモンスターをコントロールするプレイヤーはカードをドローする事は出来ない。
このモンスターが場から離れた時、自身はファイトに敗北する。
ゆらりと【誘黒神】が動く。地面に向かって自らの触手を撃ち込むと、それが幾つも分裂して俺たちの場を蹂躙する。
「私はマイバラ嬢の墓地から【緑の繁栄】【翡翠氾濫】【豊穣の地鎮祭】【豊穣の古狸サンダユウ】【豊穣の祭神オオモリサマ】【オオモリサマの大しゃもじ】を、ミト嬢の場から【童話の蜃気楼】、墓地から【凍土の悲痛なる女王スノーホワイト】を選択してゲームから取り除きます」
「わ、わたすのカード達が……」
「くっ……(百火のデッキの方が墓地利用が多いのに、なんで百火を狙わないの……?)」
「さらに、この効果でカードを八枚以上取り除いた場合、プレイヤー一人を選択して強制敗北させます」
「「「!!?」」」
さっき、米子のターンはもう来ないって言ってたけど……やべぇ
「米子、逃げろ!!!!」
「もう遅いですよ、マイバラ嬢はここでリタイアしていただきましょう」
米子の周りを取り囲むように、地面から真っ黒な触手が生えてくる。あっという間に、壁のように一分の隙もなく並んだソレによって中に閉じ込められた米子の様子が見えなくなった。
そして、耳を覆いたくなるような悲鳴が響き渡る。
「いやああああああああ!!!??来ないで、来ないでぇぇぇぇぇ!!!!!」
「米子ぉ!!!」
普段のあのおっとりした姿から想像も出来ない程の声は尋常ではない。
駆け寄って、触手の壁を剥がそうとしてもビクともしない。水兎の方も、どこからか拾ってきた石の破片を突き立てているけども同じみたいだ。
「無駄ですよ。ただの子供に破れる程、私の触手はヤワじゃないです」
「うるせぇ!!」
何度も何度も殴っても、表面は硬いくせに妙にぶよぶよとした感触しか帰ってこない。剥がれる気配もない。
「はぁ……諦めが悪いのは美徳ではありますが、無駄ですよ」
ため息と共にパチンと指が鳴らされた。
それだけで俺たちが殴っていた触手の壁は細かい塵みたいになって消えていく。
閉じ込められていた米子は、ぐったりとした様子で地面にうつ伏せで倒れていた。
俺たちが駆け寄ろうとした瞬間に、ジャラジャラと金属同士が擦れ合う──鎖の音が鳴り、止めようと腕を伸ばしたけれども……間に合わなかった。
牢獄の奥から鎖が何本も飛び交う。器用に倒れている米子を掬い攫った鎖が、豚のようなマークが横に刻まれた牢屋の中に米子ごと引きずり込まれる。
「てめぇ、米子を返せ!!」
「"ギアスファイト"が終わったらお返ししますよ。まあ、精神の方は帰ってくるかは分かりませんが」
仮面で表情は見えないけれども、その声色だけで笑っているのが分かる。
許せない
怒りで視界の端が赤く染まる。さっきまで感じていた【誘黒神】のカードへの恐怖を、怒りが振り切った。
アイツに殴りかかろうと距離を詰めた瞬間、水兎の腕が行方を遮る。
「水兎!邪魔すんなよ!!?」
「……百火、許せないのはアタシも同じよ。でも、次はアタシのターンなの。だから、今はどいて」
酷く冷たい声だった。
水兎の顔からは表情が失せていて、でも視線は真っ直ぐに誘黒神を貫いている。
見たことが無い様子だった……でも、水兎も怒っているという事は理解できた。
「…………分かった、俺の友達でもあり、お前の友達でもあるもんな米子は」
「ええ、翠子さんはアタシ達の大好きな友達……そんな彼女をあんな目に合わせて、大人しくしていられないわ」
静かにデッキトップに手をかけ、水兎が誘黒神を前に構える。
「翠子さんの次のターンプレイヤー……アタシのターンから再開でいいわよね?」
「ええ、構いませんよ。場のカードと墓地のカードはコントロールしているプレイヤーがいなくなったので消失しますが、まあほぼ空っぽでしたし構いませんね」
「上等よ。アタシのターン、ドロー」
水兎 第三ターン
ライフ:10
手札:9 ターンカウンター:4
「…………(【誘黒神】は"ギアスモンスター"扱いでカード効果を受け付けない、つまりはアタシの青のカードによるバウンスは効かない。だから、アイツのライフを削るには直接【誘黒神】を攻撃してどかせるか、バーン効果によるダメージを与えるしかない……向こうのステータスは10/10、キツイわね)」
「青のカードでは除去も一苦労ですね
、なにせ相手プレイヤーからのカード効果を受け付けませんからね」
「(また、ヒントを与えるみたいな言葉を言ってる……バカにしてるの?)バウンスが効かなくても、殴り倒せばいいのよ!!アーティファクト【氷雪妖精の遊び場】を発動!さらに【氷雪の大妖精ティターニア】をサモン!!」
牢獄の中をいっぱいに埋め尽くすように雪山が生まれる。その雪山から氷の結晶が一つだけ零れ落ちる。
氷の結晶が膨れ上がると、それは雪のような白い肌を持った氷色の髪の女妖精──水兎の相棒のモンスター【ティターニア】に変身する。
「【ティターニア】の効果でカードを二枚ドロー!そして墓地から【氷雪の妖精】を回収するわ!さらに【氷雪妖精の遊び場】の効果でコストを1減らして【氷雪の妖精】をサモン!一枚ドロー!」
「良いカードは引けましたか?」
「《《とっくに引けてるわよ》》!!ユニオンカード【死すべき定め】を【ティターニア】にユナイト!!」
【死すべき定め】
青 コスト:2 ユニオン・妖精
このユニオンは青の妖精モンスターにユナイト出来る。
このカードをユニオンしたモンスターのAは自分の手札の枚数だけ上がり、相手プレイヤーにダメージを与えられなくなる。
【ティターニア】モンスターにユニオンされている場合、以下の効果を追加する。
・一ターンに一度、手札を任意の枚数捨てて発動する。捨てた枚数と相手モンスターのコストが等しくなるように相手の場のモンスターを選択し、そのコントロールを得る。
【ティターニア】の周りに幾つもの光の玉が浮かび上がる。その一つ一つを慈しむように撫でている様子はまさに子供を見守る母親の目だ。
「【死すべき定め】の効果で【ティターニア】のAはアタシの手札の枚数分上がる!アタシの手札は8、よって【ティターニア】のAは11よ!!(もう一つの効果は今は死んでいるけれど……優先すべきはあの"ギアスモンスター"の排除!)バトルよ!!【ティターニア】で【誘黒神】を攻撃!!!」
【ティターニア】が雪の結晶のような飾りが先端に付いた杖を振る。それにより巻き起こる吹雪は今までとは比べ物にならない程の規模になっていた。
氷の刃が混ざった吹雪が【誘黒神】の全身を切り刻み、凍りつかせる。そして……真っ白に染まり砕け散った。
「確かに、そのAならば【誘黒神】のBを削りきれますね……そして朗報です。【誘黒神】には場を離れた時、私はファイトに負けるというデメリット効果があります」
「なら、これで倒して終わりよ!!」
「いいえ、終わりません。【誘黒神】の第二の効果です。このモンスターのBが0になった時、手札を一枚破棄してBを10に戻します」
真っ白だった破片がまた黒く染まる。
【ティターニア】が目を見開き、再び凍りつかせようと杖を振るおうとするも間に合わない。
全身を黒い破片に覆い尽くされ、そのまま溶けるように消える。
「嘘でしょ……これで効果も受け付けないなら殆ど無敵じゃない……!?」
「手札が0の時には戦闘破壊されますよ、ほら残りは二枚です……ほら後三回、バトルで破壊したら良いのですよ」
両手を広げ、そう簡単そうに言うアイツに心底腹が立つ……A:10、B:10の化け物モンスターを三回もバトルで倒さなきゃいけない……でも、あのカードなら【誘黒神】を倒せる!
カード紹介
【誘黒神】
第六の神、恐怖を司る三柱の一つにして理解出来ない存在への恐怖であり、その正体は無数の寄生虫の群れ。
ステータスはもちろんのこと、手札を消費することでダメージによる破棄の擬似的な無効化、一ターンに一度のあらゆるカードに対する無効効果、サモン時及び攻撃時にCカウンターを消費しての盤面、墓地荒らしからの特殊勝利とやりたい放題の神様。
手札=可能性が無ければ、自ら消えてそのまま負けるというある意味での潔さもあるが……遊びたい盛りの子供が素直に負けを認めるものだろうか?




