運命を乗り越えて
「俺のターン……」
俺の墓地には不発に終わった【永遠に燃える】と幾つかのスペル、【ゴウエン】【カリン】そして【カリン】の効果で墓地に落ちた二枚目の【炎熱の猟犬】がいる。
そして、俺の場には封印されたまま放置され続けている最初に出した【炎熱の猟犬】のみ……アイツのターンになれば、【誘黒神】による攻撃が来る。【クリカラ】を出す効果は十中八九防がれるし、出せたとしても返り討ちに遭うだけだ。
だから、このターンで決めなければならない……俺の今の手札だと【誘黒神】を1回倒せるかどうかという具合だ。
ここが勝負どころだ。
「俺は、ターンカウンターを消費して封印状態の【猟犬】を解放し、さらにドロー!!」
百火 第四ターン
ライフ:10
手札:3 ターンカウンター:4
「……まだいける!俺はスペルカード【炎熱の供物】を発動!」
【炎熱の供物】
赤 コスト:2 スペル・犠牲・火
自分の場の赤のモンスター一体を破棄して発動する。
自分のデッキからカードを二枚引く。
この効果で炎熱モンスターを破棄した時、そのA分だけ自分のライフを回復する。
封印から解き放たれた【猟犬】が遠吠えをすると同時に、体に火がつく。
あっという間に灰となったその体から二枚のカードが俺に向かって飛んでくる。
「俺の場の【炎熱の猟犬】を破棄して効果発動だ!俺はカードを二枚ドローし、さらに炎熱モンスターを破棄したので【猟犬】のA:2の分だけライフを回復する!」
「ふむ……延命しつつドローですか(効果を止めるのは簡単ですが、発動コストで既に【猟犬】は落とされている……もし、ヒャッカくんの手札に【紅煉散華】が有るならば、コストを軽減させた【クリカラ】を出してからそのまま【紅煉散華】を発動……【クリカラ】の元々のコストである八点分のダメージが飛んできますが……ミト嬢が落ちたので、彼女が抱えていた《《アレ》》が私の墓地に戻ってきていますし……まあ止めて損は無いので、止めておきますか)……通しませんよ【誘黒神】の効果で無効にしてCカウンターを一つこのカードに乗せます……」
「くそ……」
俺に向かって飛んでくる二枚のカードは、手元に来る直前に初めから存在しなかったかのように消えてしまう……効果は止められたけど、これでこのターンアイツはもう妨害が出せない。
なら、後はなるようになれだ。
「俺の墓地に赤のモンスターは四体!よって、コストを4減らして誓約サモン!!恐怖を超えて、未来へ進め!勇気の竜!!【炎熱の革命竜クリカラ】ぁ!!」
俺の宣言と共に場に降り立つのは全身をびっしりと赤い鱗に覆われた四足の巨大なドラゴン──【クリカラ】
威嚇するような咆哮と共に火を噴く姿は雄々しいけども……目の前の【誘黒神】からは何の反応もない。
「【炎熱の革命竜クリカラ】……赤の英雄、例えその子でも私を倒すにはまだ届きませんよ」
「届かせてやるさ!!バトル!!いけぇ、【クリカラ】!!」
翼を広げて【クリカラ】が翔んだ。
自らが吐き出した炎を纏い、火球と化した【クリカラ】が【誘黒神】へと襲い掛かる。
俺に出来るのはその後押しだけだ。
「スペルカード【ラスト・リベリオン】!!」
【ラスト・リベリオン】
赤 コスト:4 スペル
自分のモンスターが相手モンスターとバトルする時に発動出来る。自分のライフを任意の値まで減らし、その数字分だけ攻撃しているモンスターのAとBを上昇させる。
「俺のライフを九点減らし、その減らした分だけ【クリカラ】のAとBを上昇させる!!」
百火 ライフ:10→1
俺のライフを吸い上げて、【クリカラ】がさらに燃え盛る。
棒立ちの【誘黒神】の腹部を貫通し、その体全てを炎に転換させて……【誘黒神】の全てを焼き尽くしていく。
離れた俺の所にまでその熱気は届き、ポタリと汗が頬を伝った。
「…………」
アイツは何もリアクションを取らない……仮面を被っているから、どんな表情をしているのかすら分からないけれども……ピクリとも動かないのは少し妙だ。
【誘黒神】のB回復効果は自動発動だから、アイツの手札は"ギアスディスク"に一枚吸い込まれ、残り一枚となっている。
そして【クリカラ】はその全てを炎に変えてしまったからもう、俺の場には存在しない。
ほんの小さな燃え残り、そこから黒い粒子のような物が増殖して【誘黒神】は元通りに復活してしまった。
「(【炎熱の供物】が決まってたら【クリカラ】が残ってたのに……何か、何か無いのか)」
手札は残り一枚で、現状では使えないカードだ。
悪あがきのように、墓地を確認していた俺は"ギアスディスク"の墓地の効果発動可能欄が光っていることに気づく。
「(これ……さっきまで使えなかったのに……【クリカラ】が墓地に落ちたからか?)」
墓地効果が発動可能になっているのは【永遠に燃える】のカード……殆ど読めなかったあの後半のテキストで唯一読めたのは8と4の数字だ。
8…………【クリカラ】のコストが8だから、コレがキーなのか?
もう、他に何も残っていない。どんな効果が発動するか分からないけども……何もしないで後悔するよりずっといい。
「俺は……墓地の【永遠に燃える】の効果を発動するぜ!!」
「………っ!?なんです!!?」
【永遠に燃える】の発動と同時に俺の場に【クリカラ】と【ゴウエン】が現れて、赤い炎に包まれる。
二つの炎は空に向かって飛び上がると、空中でぶつかって一つの青い炎へと変化する。
そして、俺の"ギアスディスク"には一枚のカードが置かれていた。前に一度だけ手に入れたけれども、いつの間にか姿を消したカード……ソレに刻まれた名前、そして効果を衝動のままに口に出す。
「コスト:8以上の赤のモンスターとコスト:4以下の赤のモンスターでDRを行う!!そして、コイツのサモン条件は【クリカラ】モンスターと【ゴウエン】モンスター!!コスト:8の【炎熱の革命竜クリカラ】とコスト:2の【未来の大英雄ゴウエン】をゲームから取り除き……条件達成!!」
「デュアルレゾナンス……!あはは!!なんだ、やっぱりキミは世界に愛されているやはり主人公はキミでしたか!!」
アイツの喜ぶ声をかき消すように、これ以上聞かないようにより大きな声を張り上げる。
「共鳴し、進化しろ【クリカラ】【ゴウエン】!!」
蒼炎を切り裂くのは【ゴウエン】が愛用している片刃の大剣、それを片手でやすやすと振るうのは【クリカラ】の翼や牙を象った深紅の鎧を纏った女武者。
その名は……
「【断罪の業炎龍騎クリカラ=カルラ】!!!!」
【断罪の業炎龍騎クリカラ=カルラ】
赤 コスト:8 英雄・炎・レゾナンス
A:4 B:1
【クリカラ】モンスターと【ゴウエン】モンスターを使用したDRでのみ場に出せる。
このモンスターがモンスターを攻撃する時に発動出来る。そのモンスターを破壊し、このモンスターのAを1増やす。
相手モンスターがこのモンスターの効果によって破壊されなかった時に発動する。このモンスターはこのターン中、ダメージを受けずもう一度攻撃出来る。
ターン終了時に発動出来る。このモンスターを破棄し、全てのプレイヤーはこのモンスターのA分のダメージを受ける。
カルラ……いや、【クリカラ】は大剣を地面に突き刺したかと思うと、一足飛びで俺の目の前に立つ。
『ヒャッカ、我をよくぞ蘇らせた……偉いぞ。褒美にお前を婿に取ってもいいが……まあ、まだ子供のお前にはココまでにしておこうか』
【クリカラ】の顔が俺の顔に近づく。思わず目をつぶった俺の額に柔らかい感触があって、それから血と灰が混ざった匂いが香った。多分……おでこにキスされたのだと思う。頬が熱を持つのを感じた。
『ククク、可愛いなぁお前は……よしよし、あの子供をどうしたい?この場でならば、完全に滅してやれるぞ?』
「俺は……」
【クリカラ】の効果に目を落とす……【誘黒神】の耐性を逆手に取れば、アイツを倒しきることは出来る。けれど……それは、アイツの言う通りになるから、嫌だ。
『…………分かった、お前が望むならば我はお前の剣となって望みを叶えてやる。お前を傷つける事はやりたくはないが……お前の心を護る為ならば、今回は目を瞑ろう。だから、やってやろうぜヒャッカ』
にっかりと【ゴウエン】によく似た笑い方をしてから【クリカラ】は戦場に向かう……痛い思いをさせるのは申し訳ないけど、でも……俺はこのわがままを通したい。
「バトルだ!!【クリカラ=カルラ】で【誘黒神】を攻撃!!!」
「自爆特攻……いや、違いますか」
「【クリカラ=カルラ】の効果発動!このモンスターとバトルする相手モンスターを破壊してAを1増やす!この効果で相手モンスターを破壊できなかった時、このターン中にコイツはダメージを受けずにもう一度攻撃が出来る!!」
『死を逃れる者よ……今こそ、断罪の時だ!!!』
【クリカラ】が大剣を振るう度に、青い炎がその軌跡を描く。
【誘黒神】の体を構成している黒い粒子……無数の黒い小さな虫達が炎に焼かれては集まって、また【誘黒神】になり、また焼かれるという無限ループ……でも、それには明確な限界があった。
「………"ギアスファイト"でなければ、【誘黒神】はその子には負けません。再生と死の無限ループ、彼女が動けなくなるまで再生し続けるのは容易いです」
「でもこれは"ギアスファイト"だ。【誘黒神】の復活にはお前の手札っていう限界がある」
【誘黒神】に致命傷が叩き込まれる。アイツの最後の手札が消えて、黒い棒人間が何事も無かったかのように立ち上がり……また【クリカラ】の一撃で体の半分以上が消し飛んだ。
「これで三回目の攻撃だぜ……次で【誘黒神】は完全に倒されて、お前の負けになるな」
「そうですね……ふふふ、やっぱりこうなりました!邪神は主人公に負ける運命なのですよ!!!」
自分が負けるというのに、楽しそうに笑うアイツ。
「そんな運命、覆してやるよ!!俺はこれでターン終了だ!!!」
その笑い声が止まった。
「何を、何を考えているのです!?わざと負けるつもりですか!!?」
「負けねぇし、勝たねぇよ!!【断罪の業炎龍騎クリカラ=カルラ】の最後の効果だ!ターン終了時にコイツを破棄して、全てのプレイヤーはそのA分のダメージを受ける!!!」
『そういうわけだ、我のヒャッカはお前如きの矮小な遊びに囚われんよ』
【クリカラ】が空に浮かぶ。
全身に力を込め、青い太陽みたいに輝き始めたその肉体が炸裂すると同時に業火が解き放たれた。
三回攻撃をした事により【クリカラ】のAは7になっている……アイツのライフと俺のライフを削りきる数字だ。
誘黒神 ライフ:7→0
百火 ライフ:1→-6
カード紹介
【断罪の業炎龍騎クリカラ=カルラ】
分かたれた肉体と魂が合一し、復活を遂げた赤の英雄の真の姿。
相手モンスターにアタックする時に発動する破棄効果とそれを防がれた際の再度の攻撃及び自己強化によって、特定の状況でなければ相手モンスターまたはプレイヤーに大ダメージを与える。
連続攻撃付与効果との相性は抜群で、相手プレイヤーを倒しきれなかったとしてもターン終了時の自爆効果で確実に仕留めに掛かる。




