「轢き潰してやりなぁ!!」/「……善処しましょう」
「【カイエン】でダイレクトアタック!!轢き潰してやりなぁ!!」
腹の底まで響くような心地よいエンジン音が轟き、相手のモンスターを飛び越えて【カイエン】が対戦相手にぶつかって行く。
派手に攻撃はしたけどがアレでも転ばせただけだ、まあ"サモンエナジー"が吸われる関係で本人は体力大分持ってかれて、そのまま疲れて寝ちまうけど。
「これでアタシの今日のノルマも終わりっと……」
"ギアスディスク"のメモリを確認すれば満タンを示していて、今日《《も》》間違いなく一番に溜めきったのはアタシだと自信を持って言える。
獄炎デッキは速攻デッキだからジュンの野郎も鬼丸も決まれば即死だけど動き出しはアタシのが早いし、タクミだって獄炎のコピーデッキ使ったとしてもアタシの方が練度は上だからやっぱりアタシの方が早い。
……ぶっちゃけると、一番初動が遅いのは白掟様だ。身バレのリスクが一番でけぇし、教会で待っていてほしいんだけど、アタシ達に任せるだけなのは申し訳ないと自分も動かれる……良い人なんだけどな、あの人。
「……白掟様、大丈夫かな」
昼にあった雨で濡れたらしく、アタシ達が教会に来た頃にはくしゃみをずっとしていたし、なんかいつもより顔が赤かったし、絶対に風邪ひいてると思うんだけど本人は大丈夫と言って聞かない……こういう時にアタシと一緒になって諌めるジュンの野郎は何も言わねぇし。
……そもそも、ここ最近京都で白掟様が負けてからあの二人の仲がおかしくなった。白掟様の方は……最近感情豊かになったけどもどこか危なっかしいし、ジュンの方は前までなら白掟様にベッタリだったのがよそよそしいし……なんかもう分かんねぇ。
「っと、白掟様あっちにいるのか」
緑色の光の柱が近くで見えた。
白掟様の天使達が本気を出す時は毎回あの光が見えるから分かりやすい……脇に停めていたバイクに跨り、そのまま少し転がしてやればあっという間に彼の所へと到着する。
「白掟様、終わりました!」
「ん?ああレイカ嬢はもう終わったのですね。流石の早さですね」
真っ白な仮面に真っ白なローブ姿の白掟様。目の前にいるのが白掟様であると確信を持っていなければ目の前にいるのが誰か分からなくなるという認識阻害効果を持った仮面の効果は同じ効果を持った仮面の使用者には効果が相殺されて無くなるらしい。
理論とかそういうのは分からないけども取り敢えず、アタシ達教団聖剣士の面々と白掟様には認識阻害効果がないという事で良いらしい。
「はい!白掟様は……まだみたいっすね」
「アハハ……やっと一人終わった所なんですよね」
倒れているのは確かこの辺りでそこそこ強いと噂のサモナーだ。白掟様のローブに少しも汚れやほつれが見えないから無傷で倒したのだろう……
「毎回一番にノルマを達成して偉いですね"レイカ"嬢は」
表情は見えないけれどもいつも通りの優しげな声色に嬉しくなたけども、それと同時に申し訳なさが湧いてくる。
「でも……それぐらいしかアタシ貢献出来てないっす。書類とか分かんないし、なんか開発とか出来るわけでも無いし、白掟様が攫われた時も全然知らなかったし……」
言ってて自分が情けなくなる……教団聖剣士に任命されたのはアタシが二番目だけど、各々の勝率で見た時の席次は四番手だ。
……アタシに出来るのはこういう時に一番早く、そして多くの相手を倒せる事だけ。それだったら人数集めてやっても同じ事が出来るし、アタシじゃなくてもいい。
アタシにしか出来ないことが……一つも無い。
「……レイカ嬢」
白掟様が私に近づいて、少し膝を曲げて目線を合わせてきた。
仮面の奥、真っ赤な瞳がアタシを見つめてくる……夜だからだろうかいつもよりも色が濃くて、心臓がギュッと掴まれるような怖気が背筋を走って……端的に言って《《恐ろしい物》》に見えた。
「人には役割と向き不向きがあります……貴女の出番はこれからです。これでも期待しているのですよ?だって貴女は教団聖剣士で一番頑張って、教団聖剣士の中で一番私のことを思って動いているのですからね」
真っ赤な瞳から目が離せない……耳に入ってくる白掟様の声が心地よくて、ぼうっとただその言葉が体の中に染みついていくだけで心が軽くなっていく気がしていた。
……アタシのことを見ていてくれている、認めてくれている、褒めてくれている、一番と言ってくれた。
それだけでアタシは単純にも浮かれてしまい、思わず目の前の白掟様に飛びつくように抱きついてしまった。
「っ〜〜〜!!!白掟様、大好き!!」
「おっと、急に飛びついては危ないですよ、レイカ嬢」
危ないと言いながらもアタシの体を受け止めてビクともしない白掟様。
優しくて強くて綺麗な白掟様、本当に好きで好きでたまらない!
近くに誰もいないからと仮面を外し、うりうりと頬擦りをするアタシに苦笑しながらも頭を撫でてくれる。それだけでも天にも登るような気持ちで幸せに満ちている。
「……頑張り屋さんなレイカ嬢にこのカードをあげましょう」
私の体を優しく引き剥がして、白掟様は一枚のカードを懐から取りだした。
「【煉獄炎の総長カイエン】……!!」
「そう、貴女のエースの強化体です。これは貴女への期待と今までよく頑張ってきた事へのご褒美です」
恐る恐る触れればピリッと静電気みたいな痛みが走ったけども、それ以上に今はこの手の中にあるカードの力に心を奪われていた。
「レイカ嬢、これからも私の為に働いてくれますね」
「はい!!!」
ーーーーー
蕩けた顔で私の言葉に応えるレイカ嬢にほんの少しだけ罪悪感が湧きました。
甘い言葉で思考力を奪い、私への心酔……恋心にも似たそれを【アスモデウス】による色欲の増幅で暴走させてしまえば、警戒心の欠片もない少女はあっという間に堕ちていきます。
張り切った様子でバイクで夜の街を駆け抜け始めた彼女の背を見送ると同時に溜め息が漏れてしまいます。
「はぁ……上手くいくと良いのですが」
「……何が、ですか」
意識の外から急に話しかけられた事に驚いて振り向けば、路地からのっそりとオニマルくんが出てきます。
「おやおや……そんな所に隠れてどうしましたか?」
「……駆魔に、変な事を……していましたよね」
……バッチリ目撃されていましたか。
物静かな彼らしくない、敵意を孕んだ視線に困ったように口元に手をやっていれば近づきながらオニマルくんが言葉を続けます。
「皇導さんも……変だし、おかしな事ばかりが…起きている。大司教も……なんだか、らしくない……です」
「私らしいとは何ですか?」
らしくないという言葉に思わず、食い気味に返してしまいます……これこそ今までの私らしくない発言ですね。
でも……仕方ないじゃないですか。
「…………前は、こんな事をしなかったし…命令もしなかった。あなたは……何故、変わられたのですか」
「変わっていませんよ、私は変わってなんていません。必要な事をしているだけです私は」
「……駆魔に変な事をした事も、ですか?」
「無論です」
そう言った瞬間に私の顔面の横を拳が通り抜けました。
背後から破砕音が響き、見なくともコンクリートの壁に穴が空いたことが分かります……暴力を嫌う彼が当てるつもりは無かったとはいえ拳を振るうとは思いませんでしたよ。
「ふざけないで下さい……」
「ふざけていませんよ、私はいつでも真面目に良き行いをしています」
仮面を取り、真正面からオニマルくんに向き直ります。
「オニマルくん」
「……俺を、言いくるめるつもり…ですか」
「よく分かってるではありませんか」
ニッコリと微笑んでみせ、オニマルくんの手を私の首へと持っていきます。
「大きい手ですね、私の首なんて片手でへし折れちゃいそうです」
「…………」
「ふふふ……オニマルくんと初めて会った時、貴方は私に対して暴力を振るうようにと強要されていましたよね」
──そう、彼と初めて会った時に私は……まあ、所謂カツアゲをされていました。
オニマルくんの自称《《おともだち》》達に連れ込まれ、路地裏で金品の要求をされていました。
断れば殴ると言い、そのおともだちの言われるがままに私を殴ろうとする彼の目に躊躇いと諦めの色が浮かんでいたので彼に声を掛けたのです。
『本当は暴力を振るいたくないのではないですか?』
動揺したオニマルくんにそれでも暴力を振るわせようとするおともだち達を文字通り一蹴したのはレイカ嬢でした。
あっという間に叩きのめされたおともだち達はオニマルくんを置いて逃げ出し、残された彼にも襲いかかろうとするレイカ嬢を押し留めて手を差し出したのです。
『悩みがあるのならば聴きましょう……さあ、こちらへ』
──あの時は言われるがままに振るっていた暴力を自分の意思で振るったという事には驚きました。それ程までに彼の感情が揺れ動いたという事なのでしょうか?
「私はあの頃から変わっていません……」
「……変わっています。だって「前までならば、他人を傷つけたり騙そうとしたりしなかった……ですか?」…………そうです」
「必要ならば何だってしますよ、私は」
彼がその気になればそのまま首を絞め落とす事も出来る状況……圧倒的に彼が有利な状況だからこそ、私の言葉は効力を発揮する。
「良き行いをする為です……その為の必要な事柄なのですよ。オニマルくん、代償無しには何かを成し遂げる事は出来ないのですよ」
「……成し遂げる、必要が…あるのですか?」
「必要があるから動いているのですよ。世界をあるべき形に変える為です……分かってくれますね、オニマルくん」
もう一度笑ってみせれば、渋々といった様子で手を下ろすオニマルくん。
迷いの見える目ですが、今はこれで良いです。
「……大司教、これからは…俺がやりますから………だから、他の三人には…酷い事、させないで下さい」
『お願いします』と言ってくるオニマルくんはやはりとても優しい子です。
そんな彼の期待に応えてやりたいですが…………到底無理なお願いなのです。
「……善処しましょう」
そう嘘を吐く私に対してどこかホッとした様子のオニマルくん。
ちくりと心が痛みます……全て終わったら、報われるようにしますから今は許して下さい。




