「拗ねてません」
気を失ったソコロワ嬢を確認した私は、彼女の"ギアスディスク"にセットされたままのカード【撥条式黄金百手魔像モンザエモン】に手を伸ばしますが、静電気のような痛みに手を弾かれます。
さらに金色の光が集束したかと思うとそれは黄金色の棺桶となり、その扉が中から蹴り開けられました。
「自分から出てくるとは思いませんでしたよ【モンザエモン】」
『てめぇに触られるよりはマシだボケェ』
ガラの悪い対応をしてくるのは目つきの悪いご老人……【モンザエモン】が指を鳴らすと同時にバラバラに砕けていた撥条モンスター達が逆再生されていくように形を元に戻していきます。
最後に再生したモンスターの手元に私の腹部に刺さっていた剣が戻ります……無論、刺さっていた物が抜けるのですからごぽりと血が溢れてしまいますが、手をかざして軽く一撫ですれば初めから怪我など無かったように衣服ごと元通りになります。
『ケッ、見てくれは人間だが中身は完全にこっち側じゃねぇかよ……兄ちゃんよぉ、どうせ千日手になんのは見えてんだからここらで手打ちにしねぇか?』
「千日手?このまま続ければ私が押し勝つと思うのですが……私に譲歩しろとでも?」
影の先端をゆらりと持ち上げてみせて、彼の頬を撫であげれば雑に手で払い退けられてしまいます。
『だから触んじゃねぇよ、ド変態カマ野郎が』
「酷いこと言いますね……私、傷ついちゃいました」
『嘘吐くんじゃねぇよ、てめぇみたいな存在に傷つくような心ある訳ねぇだろうが。得体の知れない存在への恐怖がてめぇの本質なんだからよぉ』
真正面からその得体の知れない存在を睨みつけて来る方が私としては得体がしれませんね。
……真面目に考えるとしましょう。時間を掛ければ間違いなく私は【モンザエモン】を戦闘不能に持ち込めます。ですが、時間を掛けた場合に第一に考えられるのは警官の増援が来ること……IGPの人が混ざっていた場合、その人もモンスターを実体化出来てしまえば間違いなく私は対応し切れずに捕縛されるでしょうね。
第二に……【モンザエモン】が本気を出してきた場合、今は観音像を呼び出していないからこそ私も強気に行けますが……彼の方もリスク無しには呼び出せないようですが、追い込み過ぎれば間違いなく呼び出して来ることでしょう。
「……良いでしょう、ここは退きましょう。貴方がたとは良い関係を築きたいですからね」
『お断りだこの野郎』
「つれませんね……ああ、帰る前に一つ質問よろしいですか?」
眉を片方だけ吊り上げられるも、早く言えと言わんばかりに鋭い視線を向けられます。
「…………ソコロワ嬢の事、何故認めていないのです?」
『決まってんだろ、ガキは嫌いなんだよ』
そう言い残して姿を消す【モンザエモン】
残された私は顎に手をやり、思考を巡らせていましたがやがて遠くから聞こえてくるパトカーのサイレンの音に急いでその場を立ち去るのでした。
──結局、アレから粘りましたが"ギアスファイト"を行う事は出来ずに"サモンエナジー"を集める事をこの日は断念せざるを得ませんでした。
私室へと戻った私が服の襟元を緩めると同時に背後に気配を感じます。
「久しぶりですね【ルシフェリオン】」
『ようやく傷が癒えたからな、寂しかったか?』
いつも通りの白装束に仮面を被った怪しげな姿の【ルシフェリオン】が私の元へ近づきます。
あと数歩で触れ合えそうな距離まで近づいた辺りで静止の為に私は手を前へと出しました。
「寂しくはないですよ、もう良い大人ですからね私は」
『他の者たちに聞いたが、私の姿を見かけない時にずっと私を呼び続けていたらしいではないか、愛いやつめ』
脳内で【ザドキエル】を筆頭に神聖なるモンスター達が視線を逸らしたイメージが浮かびました……貴方たち、あの時見ていたのなら出て来てくださいよ。
ゴホンと咳払いをして誤魔化しつつ、私も視線を逸らします。
「あの時は状況が状況でしたので……というか貴方あの姿は何だったのです、六英雄カードだったのも知らなかったのですが?」
『聞かれなかったからな』
シレッと言う彼に、少しイラッときたので言葉尻を強くします。
「聞かれなかったとはいえそういう大事な事は普通話しませんか?ああ、そうですか……父の元に貴方いましたからね、私より父の方が居心地良かったのですねー?そうなんですよねー?」
『拗ねるな拗ねるな……アレはあの男が無理矢理やってきたのが悪い!【メタトロン】もいたし……兎に角相性が悪かったんだ』
「拗ねてません」
そっぽを向いたままベッドに飛び込んで布団を被ります。
……別に拗ねているわけではありません。本当です。
『私が悪かった、機嫌を直せ召喚者……寝るのか?それなら子守唄でも歌ってやろうか?』
「結構です」
『なら……そうだ、昔話をしてやろう。私の栄光についての大長編だぞ!』
「本気で怒りますよ」
『…………まあ聞け、召喚者よ。本当に悪かったと思っている。うっすらとだがお前を傷つけたのは覚えている……すまなかった』
神妙な面持ちで、背を向けたままの私に【ルシフェリオン】が語り続けます。
雰囲気が違うので私は何も言わずに今のところは聞く姿勢です。
『あの男の考えは間違っている……お前の個性を潰してしまうのは愚かしい事だ。その力を他者を傷つける為ではなく守る為に使う……それが力ある者の正しい振る舞いだ』
耳心地の良い声がするすると入ってきます。
布団越しにでは有りますが私の頭に手を乗せてきてそのまま彼は撫でてきます。頭を撫でられるのは、あまり経験した事は無いのですが……嫌いではないですね。
『力を正しく振るう、それは正義の行いだ。心配するな、どう振るったらいいか分からなくなっても私が導いてやろう……私は至高の天使。最も優れた存在なのだから……私たちで救世主となろうではないか召喚者』
神聖制約教団の教義に真っ向から喧嘩を売るような発言をしますが、それを聞いているのは私だけです……そして、私は【ルシフェリオン】の共犯ですからその発言に怒る事はありません。
とろりとろりと睡魔が歩み寄ってくる気配を感じます……意識が遠のく中で、私が眠ったと思い油断した【ルシフェリオン】の独り言が聞こえてきます。
『だから……美禍の子よ、お前は私に全てを委ねろ』
…………やっぱり、貴方もそうなのですね【ルシフェリオン】
私自身を理解していない……いや、理解しようとしていない。
父は化け物である私を、【ルシフェリオン】は母の子である私しか見ていない…………でも、構いません。私はそれを逆手に取って動くだけですから。
心地よい温もりに包まれる中、それとは真逆の冷めた感情の気持ち悪さに笑みを浮かべて私は眠りにつきました。




