「愛想を尽かされたのではないですか?」
「──バトルです、【ミカエリス】でプレイヤーに攻撃」
「うわああああ!!!!」
草木も眠る丑三つ時、そんな時間に出歩いていた人に辻ファイトを仕掛けて危なげなく勝利しました。
"サモンエナジー"を集める事は実の所継続して行われていました。
しかし、私の正体バレもといバラしてからは辻ファイトをする事を止めていたので蒐集速度はガタ落ちしていました。
……これまではまあ、のんびりと集めたら良かったので速度が落ちていても良かったのですが私がやろうとしている事を考えたらそうも言ってられなくなりました。
レイカ嬢、オニマルくん、ジュンくんだけでは足りませんので私も認識阻害効果のついた仮面を着用して暗躍しています。
本日五人目の犠牲者に黙祷を捧げつつ、"ギアスディスク"を確認しますがノルマには程遠いですね……ファイトの数をこなせば良いのですが、デッキ的には中々そうもいかないのが辛い所です。
「さて、次の相手を探しますか……」
「そこまでであります不審者!!」
…………動くの早すぎませんかねIGP。
案の定、振り返ればソコロワ嬢の他にも警官の人達が素早く私の周りを取り囲んできます。
「不審者とはまた……ストレートな呼び方ですね」
「この数日の内の辻ファイトの被害者二十五人、その証言は全て仮面を付けた白装束の人物、即ちお前を指していたであります!大人しくお縄につくであります!!!」
「ねぇ、少しはお喋りしませんか?」
と言いながらも辺りを観察しますが……警官の包囲は一部の隙もなく、普通の人間では脱出は不可能に思えます。
ゆっくりと"ギアスディスク"を装着された右腕を持ち上げれば一斉に拳銃を向けられます。
「お喋りしてくれないならどうでしょう"ギアスファイト"でもしませんか?」
「辻サモナーの誘いに乗るわけないであります!」
にベもなく拒否されてしまいましたが……そうですか、サモナーなのに"ギアスファイト"を拒否すると……
「つまらないことをしないで下さいよ」
「っ!確保ぉ!!」
じりじりと包囲網を狭めていた警官達に一瞥をくれてやり、私はほんの少しだけ腕を動かしました。
月が雲に隠れた刹那、私の影が幾重にも裂けてそのまま平面から立体へと変わります。
その異様な光景に、小心者の警官が発砲したのを皮切りに何発もの銃弾が撃ち込まれますが……影が鞭のようにしなりながら全てを受け止めるとそのまま真っ平らにひしゃげた金属の塊が何個も地面に落ちていきます。
「化け物……っ!」
「知っています」
恐れと怯えの混ざった、恐怖に支配された人の表情は昔は好きだったものです。
今は……好きではありません。
乱雑に左腕を横に軽く動かせば、影は一本に束ねられて木の幹のように太くなります。それがそのまま警官達を薙ぎ払っていくのは……少し、爽快感がありますね。
仮面の下で口の端を歪ませていれば、嫌な予感がして影を前面に盾のように展開させます。
次の瞬間には警官達が撃った物よりも激しい銃撃が私を襲います。恐らくは、実体化されてモンスターによるもの。
それが出来るのは……ソコロワ嬢でしょうね。
「【壱式】部隊、そのまま斉射継続!【エイプリル弐式】、てぇっ!!」
衝撃と爆発音が影越しにビリビリと響きます。破れる気配が無い事に舌打ちをしながらも射撃を継続しているのは正しい判断です。
実の所、この影もまた私自身であるのでダメージ自体は通り続けています。体力が途方もなく多く、そして痛みがない事で誤魔化しているだけですが……削られ続けるのはよろしくない展開です。
私の動きを射撃で制限しながら、時折砲撃で削りつつ本体は安全地帯から指示出し。教科書に乗せたいくらいのお手本通りの制圧戦……本当につまらない子です。
「私はつまらないものは好きじゃないですよ……物も、人も」
「っ!【マーチ弐式】!!」
盾を避けるように大回りしながら私の懐に飛び込む二体の人形兵士。ソレらが持つ剣が私の体を貫きながら交差します。
完全に殺す気ですね……まあこの程度では死にませんが。
引き抜こうとする人形達の首をそれぞれ両手で掴み、力を込めれば呆気なく握り潰されてだらりと力の抜けた木製の頭部と胴体がそれぞれ地面に転がります。
……いい加減に豆鉄砲もうっとおしい。
足元を強く踏みつければ、銃弾の雨が止まります。そのまま視界を遮っていた影の盾を解除すれば、人形兵士達は残らず影で針串刺しにされていて完全に破壊されているのが見て取れます。
残るソコロワ嬢ですが、無理に短時間にモンスターを連続で出した弊害でしょうか……荒い息を吐いて疲れ切っている模様。
「もう終わりですか?」
「まだであります!!【モンザエモン】!!!」
キッと睨みつけながらディスクに叩きつけられるカード……宣言した通りなら厄介な事この上ないのですが、いつまで経っても実体化しません。
その隙に手足を影で縛り、そのまま仰向けになるように地面へと寝かしてやりました。
「ぐっ!?なんで、出てこないでありますか!!?」
「愛想を尽かされたのではないですか?」
私の言葉にソコロワ嬢の肩が跳ねます。
「そんなわけが……」
「サモナーだったら挑まれた"ギアスファイト"を断りませんよ……でも、貴方は断った」
踵を鳴らし、ゆっくりと近づいた私はソコロワ嬢の顎を掴んで視線を合わせます。
彼女の碧眼と私の赤の瞳がぶつかります。
「モンスターの実体化の条件、モンスターとの信頼関係が失われるのも頷けますよ……貴方、元々そのカードに認められていなかったのでは?」
「違う!!私は……小官は実力で勝ち取ったんだ!!」
顎にやっていた手を振り払われ、その拍子に噛みつかれてしまいました。
じわりと血が滲む手に仮面を少しずらしてから舌を這わせれば、鉄錆の味が広がり笑みが零れます。
「このド変態!!お前なんかに負けてたまるか……!!」
「口調、乱れてますよ……まあいいですが」
今度は顎ではなく、首を掴んでやり仮面が無ければそのまま口付けをしてしまいそうな程に顔を近づけ、目を見ます。
「貴方は負けてるんですよ、"ギアスファイト"から逃げた時点で……弱いだけなら良いのに、そこにつまらないのも加わったら貴方の価値なんて無いに等しい」
ギチリと指が彼女の頸動脈を締め付けます。脳に回る血流が一気に少なくなった事により、急速に彼女の意識が遠のいていってるのが見て取れます。
完全に意識が落ちる前に、耳元で囁いてやりました。
「次はもっと私を楽しませて下さいよ、弱くて脆いお嬢さん」




