「先ずはこちらをご覧下さい」
重苦しい雰囲気の室内には私の他に父の副官であったユウゾウさんと全国大会運営委員会の方々、IGPの日本支部の恐らく偉い人がいます。
「この度、神聖制約教団総主教の代理を務めさせていただきます白掟優義徒と申します」
「白掟……というと、総主教の親族の方ですか?」
「はい、白掟裁刃徒は私の父です……総主教の意を最も汲み取れるであろうということで任命されました」
ニコリと微笑んでから一礼をすれば形式的ではありますが皆さんから拍手を送られます。
着席し、そのまま手元の資料に視線を落としますが……ざっくり纏めますと例年予選は八つのブロックに地域を分けて行われます。
北海道、東北、関東、中部、関西、中国、四国、九州・沖縄からそれぞれ上位八名が本戦に出場。その六十四名を八名まで削ってから決勝トーナメントが行われます。
因みにこれは中学生以上の全国大会のルールです。小学生以下の方はもう少し規模が縮小されて予選で上位四名、そこから三十二名による決勝トーナメントに移行します。
……また、昨年度の全国大会で決勝トーナメントまで残った選手達は中学生以上の部では予選免除、小学生以下の部では準決勝まで残った選手は決勝トーナメントでシード権が与えられます。
「しかし、昨年度は小学生以下の部の決勝トーナメントにおいて発生したメタデッキの蔓延という事態……それによって発生した情報戦は【ドレッドギアス】の本質からかけ離れていました」
「その後の発端となった一人の選手へのバッシングは酷い事になりましたからね……再発の防止をしたい所ではあります」
…………まあ、再発の防止をしてもらわないと困ります。
ああでもない、こうでもないと意見を出し合っている中で口を開いていないのは約二名。私ともう一人……IGPの方がここで初めて言葉を発しました。
「会話が堂々巡りになっていますので……どうでしょう、ここは若い方に新しい意見を出してもらうというのは」
一斉に視線が私の元に集まります。意見ですか……案はありますし、発言のタイミングを計っていた所です。
しかし下手な言い回しをすれば私の評価は下がりますし、発言権も無くなるでしょうね。
私の考えを通す為にはここを乗り越えねばなりません。
「白掟代理、との事ですがいかがですか?」
「それでは発言をさせていただきます……小学生以下の部と中学生以上の部を廃止して、一つにするのです」
何名かの眉が跳ねます。
小学生以下の部と中学生以上の部を分けたのは成長による知的水準の差とカード資産という壁があるからです。
その壁を取り払うというのは大人が子供を蹂躙するという未来が簡単に見えます。
……無論、対策はあります。
「予選は例年通りに小学生以下と中学生以上で分けます。その後の本戦においてはその合計九十四名を残り十六名になるまで競わせます」
「予選を勝ち抜いたとはいえ小学生と大人達を競わせるのは酷では?本戦からは中継も行われますしそれにそもそものメタデッキの蔓延への対策は?」
「そもそもメタデッキを使って何が悪いのか……というのが私の考えです。【ドレッドギアス】はTCG、トレーディングカードゲームなのですからカードの交換等でデッキを組み替えるのは当たり前です……問題はメタデッキを作る為の相手のデッキ内容を知ったり逆に自分のデッキの内容を誤認させていく情報戦なのです」
なるほどという呟きが聞こえますが何人かは未だに訝しげにこちらを伺っています。
「なのでメタデッキを使うだけでは先に進めないようにするのです……決勝トーナメントでの対戦を全試合同時に行う事でファイトのスパンを短くして次の対戦相手が分かったとしてもメタデッキ作成及びその調整の時間を減らします。そして本戦では……先ずはこちらをご覧下さい」
そう言って立ち上がった私は"ギアスディスク"を操作します。
ユウゾウさんは私が何をしようとしているのか分かったようで短く静止の言葉を投げてきますが……もう遅いです。
デッキトップのモンスターをそのままセットして実体化させます。
現れたのはキョトンとした顔の【ザドキエル】……知らない人達に見られている事に気づいたのか私の後ろにすぐさま隠れてしまいます。
「なっ!?」
「モンスターが"ギアスファイト"中でも無いのに出てきた……だと」
良い反応をしてくれるのは運営委員会の方々……IGPの方はやはり実体化については知っていたようで特に反応はしませんね。
「最近になって神聖制約教団内で開発されたシステムです。このモンスターの実体化にはサモナーとモンスターの信頼関係が必須でして、この【ザドキエル】は私が長年連れ立っているモンスターなので実体化してくれましたが……」
懐からカードパックを取り出して開封。その一番最初のカードである骨の塊みたいなモンスターをそのままディスクにセットしますが、その子は実体化しません。
「このように手に入れて間もないカードや使用した事の無いカード、殆ど使われないカードは実体化しません。本戦はこうして実体化したモンスターと協力するのが必須な内容にするのです」
「……その実体化したモンスターの危険性は無いのか?」
「少なくとも、召喚したサモナーに対してはありません。この子達はサモナーに忠実で善良な存在です。それにこうして実体化させたモンスターは力がある程度制限されていてAが5以下では人間に怪我をさせる事は不可能に近いです」
……正確には、"ギアスディスク"に蓄積出来る量の"サモンエナジー"で実体化させた普通のモンスターでは怪我をさせられません。
特別なカード達、例えば【ルシフェリオン】や【クリカラ】等のモンスターならば殺傷能力はあるでしょう。ですが、それは今は伏せておきます。
「自身の愛用したモンスター達でなければ実体化出来ませんのでメタデッキの安易な使用を制限出来ますし、モンスターとの協力ならば子供と大人の能力差を縮められます」
「だがモンスターが実体化するとなると本戦にはかなり広大な土地が必要になるのではないですか?」
運営委員会の方の言葉に何人かが頷きます……確かに、今から土地を抑えるのは現実的ではありません。
「ご心配には及びません……土地は私たち神聖制約教団で用意しましょう」
しかし、何事にも裏技があります。
浮かべている笑みを深めて宣言すれば、誰も異を唱えることもなく初回の話し合いはお開きとなりました。
──解散後にユウゾウさんに話し掛けられて足を止めました。
「はい、どうされましたか?」
「『どうされましたか』ではない……何を考えているんだお前は」
眉間に皺を寄せて、詰め寄るユウゾウさんはかなり不機嫌そうです。
私が他の大司教九名からの推薦で総主教代理となる事が決まった報告をした時よりも深いですね。
「決まっています、総主教の代わりとしてこの全国大会を成功させる事だけを考えています」
「……モンスターの実体化技術はまだ完全にコントロールし切れていないのだぞ。まだ表に出すには早すぎる」
「技術を進歩させるには試行回数を多くする事も必要だと思いませんか?それに特定の人は既に知っていますよこの技術……早めに私たちが出す事でその方々に対してイニシアチブが取れると思いませんか?」
「しかし」
「もう話してしまいましたのでしかしは無しでお願いしますね、キクリさん」
「本当にお前は………土地の方は手を貸してやらんからな。当てはあるんだろうな?」
手を貸さないと言いながらもこう聞いてくるということは、手を貸さなければダメな時は貸してくれるつもりなのでしょう。
ですが、今回はその手は必要ではありません。
「ええ、大丈夫です。何も実体化出来るのはモンスターだけではないという事ですよ」
私の言葉に察しがついたのかユウゾウさんは頬をひくつかせています。
「お前、流石にそれは……」
「土地ではなく、"サモンエナジー"を集めるのを手伝っていただけますかキクリさん」
笑顔で見つめ続ければ、諦めたように両手を上に挙げます。
優義徒の記憶の中でもユウゾウさんは優しい人でした……ええ、優義徒は大好きでしたよ貴方のこと。
既にレイカ嬢には動いてもらっています…………辻サモナー業務再開です。




