「風邪引いちゃいますよ」/「盛大な拍手を」
曇天の昼下がり、気圧のせいか若干気だるさを感じながら"ミラージュ"への道を歩いていると首に包帯を巻いた、明らかに雰囲気の暗いソコロワ嬢を見掛けます。
十中八九、気に病んでいるのは昨夜の事でしょうね。
声を掛けようかと思いましたがその前にヒャッカくん、ミト嬢、マイバラ嬢の三人と出くわしたようでそのまま喋り始めます。
……彼女の事は彼らに任せるのが良いのでしょうね。
踵を返し、別の場所へと向かおうとする私の前に立ち塞がるのはタクミくんのお父さんであるカタルさん……あまり外を出歩くイメージがありませんがわざわざ私の前に出てくるとはどういったご用なのですかね?
「こんにちは、カタルさん。こんな時間に外にいるなんて、病院の方は良いのですか?」
「今日は午後は休診なのでいいのですよ、少し歩きませんか?」
カタルさんは提案のように言ってきますが、視線から感じる強い敵意に肩を竦めてみせてその命令に大人しく従います。
歩いている間に会話はありません。右へ左へと曲がり道を進んでいる最中にとうとう雨が降り始めますがそれでも目的地には中々つかないようです。
「雨、降ってきましたが雨宿りしませんか?風邪ひいちゃいますよ?」
返事はありません……父から恐らくは私について知らされているでしょうからそういう態度を取ってくるのでしょうね。ユウゾウさんはまだ割り切れていないようでしたから、そこまで露骨な態度を取ってきませんが……カタルさんは情よりも理の人なので切り替えが早いです。
ようやくたどり着いたのは街外れの河川敷……雨が降ってきた為に人っ子一人見かけません。
「それで、こんな所に連れ出してきて……父に関することですか?それとも、タクミくん?」
「その両方です。裁刃徒に埋め込んだ異物を取り除き、タクミから手を引いて下さい」
「嫌です。だって父には大人しくしていて欲しいですし、タクミくんにはこれから大事なお仕事がありますから……お断りします」
ニッコリと微笑んでからそう言い切れば、カタルさんは"ギアスディスク"を腕に付けて構えます……良いですね、やっぱり話を通したいなら"ギアスファイト"をする方がずっと分かりやすいですし何より私としても素直に頷きやすい。
「アハハ、良いですよ。昨晩は消化不良でしたし、カタルさんがいっぱい遊んでくれるなら付き合ってあげます」
こちらも"ギアスディスク"を起動させると同時に"サモンエナジー"の蒐集機能のスイッチも入れます……カタルさんと遊ぶのは初めてなのでどのようなデッキで来るかとても楽しみです、口角が上がってきます。
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先程までのような作り物めいた微笑みではなく、耳元まで口が裂けそうな程の凶悪な笑みを浮かべてくるソレに嫌悪感が湧く。
本性を出してきたであろうソレを勝負のテーブルに乗せる事は出来た。このまま勝ってしまうのが一番だが……負けたとしても策はある。
幸いにも雨はまだまだ降り続ける予報だ……この勝負の間は確実に雨は続く。
「「"ギアスファイト"レディセット!!」」
ユギト【誘黒神の使徒】
VS
惹琴 カタル【ウォーターシーフトリック】
奴の"ギアスモンスター"は【神聖なる神使ルシフェリオン】……美禍が使っていた神聖なるデッキのエースだ。奴がよりにもよって美禍のデッキを受け継いで使っているという事実には腸が煮えくり返りそうで、どこまでも殺意が冷たく研ぎ澄まされていく感覚がある。
私の"ギアスモンスター"は相棒にして水奇術一座の座長兼花形スターの【水奇術の座長アルセーヌ】、手持ち無沙汰にステッキを弄んでいますが視線は鋭く相手陣営を見続けている。
「「スタートアップ!!」」
「先行は私です、ドローの前に手札の【水奇術の新人】の効果を発動する」
【水奇術の新人】
青・黒 コスト:1 人間・奇術団
A:0 B:2
自分のターンのドローフェイズ時に手札のこのモンスターを破棄して発動出来る。
このターンのドローをスキップする事でデッキから【水奇術の円形劇場】をデッキから発動する。
この効果を使用したターン、自分はカウンターブーストを行えない。
カタル 第一ターン
ライフ:10
手札:5 ターンカウンター:1
黒子姿の子供が場に現れ、ぎこちなく一礼を行うとスポットライトがどこからか子供を照らしてその足元が崩れそのまま奈落へと落ちていく。
そしてその代わりに辺りの景色は一変していく。
私のいる場所を中心に広がるのは円形の舞台、奇術に使うであろう大道具が天井から吊り下げられその間を水奇術のメンバー達が忙しく走り回っている。そして360度全てをぐるりと客席に囲まれ、その内の一つに奴は腰掛けてどこか期待しているように目を輝かせていた。
「知ってますよこれ、サーカスでしょう!?見た事無かったのですごく楽しみです!」
「違います」
微妙に的はずれな回答が飛んできたがまあいい……咳払いをしてから、自分の中のスイッチを切り替える為に掛けていた眼鏡を外して懐へと仕舞う。
そして、大きく両手を広げて始まりを高らかに宣言した。
「レディース&ジェントルメン!!今日この場所に一時の夢をお見せしましょう!我らが水奇術の本拠地たる【水奇術の円形劇場】にお越しいただき、ありがとうございます!展開に一役かってくれた【新人】に盛大なる拍手を!!」
私の言葉に素直に従い、拍手をする奴と【ルシフェリオン】の姿に舞台の下からひょっこり頭を出した【新人】は照れたようで、また奈落に戻っていく。
そして、私が指を鳴らすと吊り下げられていた大道具の一つが舞台にゆっくりと下ろされていく。
「さあ、第一演目の開始です!手始めに行われるのは脱出マジック!!」
【水奇術の円形劇場】
青・黒 コスト:2 アーティファクト・奇術団
このアーティファクトが存在する限り、自分の場の水奇術モンスターが手札に戻る度にカードを一枚ドロー出来る。
一ターンに一度、手札を一枚破棄して発動出来る。
デッキ、墓地から水奇術と名のつくこのカード名以外のアーティファクトを一枚発動出来る。
この効果を使用したターン、自分はモンスターをサモン出来ない。
手札を一枚破棄する事で仕込みはOK、そして場に出てくるのは人一人が入れる程度の長方形の箱、中にはもちろん今は誰も入ってはいない。
不思議そうに見ている奴の反応に目を細め、プレイを進める。
「【円形劇場】の効果で発動されるのは【水奇術演目ESCAPE】!!種も仕掛けもございません……これでターン終了です、さあこれから一体何がどうなってしまうのか!」
「私のターン、ドローフェイズをスキップしてカウンターブーストです」
ユギト 第一ターン
ライフ:10
手札:5 ターンカウンター:2
「【浄罪の白鴉】をサモンします」
場に現れたのは純白のカラス……次の瞬間にはそのカラスは私の発動したマジックボックスの中に閉じ込められる。
「ここで【ESCAPE】の効果が発動!!相手の場にモンスターがサモンされた時、そのモンスターを手札に戻して私の墓地から水奇術モンスター一体を場に出します」
【水奇術演目ESCAPE】
青・黒 コスト:1 アーティファクト・奇術
相手の場にモンスターがサモンされた時に発動出来る。
このアーティファクトを破棄し、相手の場のサモンされたモンスター一体を手札に戻す。
その後、自分の墓地から水奇術モンスター一体を場に出す。
この効果で場に出た水奇術モンスターはターン終了時に手札に戻る。
閉じ込められた事に腹を立てているのか箱の中で何かがぶつかるような音やカラスの鳴き声が響く。
「さあ、世紀の脱出ショーの開幕です!果たして、中の者は無事に脱出出来るのでしょうか!!」
指を鳴らすとマジックボックスの周りに何本も長剣が出現する。それらが切っ先を向けたと思った、次の瞬間には全てが箱へと突き刺さってしまう。
やがて箱の中は静かになり、奴は驚いたようで目を見開いて固まっている。
「さあ、中は一体どうなっているのか……オープン!!」
合図と共に開けられた中身は空。スポットライトが辺りを照らし、舞台裏でドラムロールが叩かれる中……一点に光が集中する。
真っ白なカラスを抱えたタキシード姿の女性がスポットライトを浴びながら一礼をすると奴の元まで歩いていき、白いカラスを手渡す。
その後、私の場に帰ってきた女性はカードを一枚私へと差し出した。
「【水奇術の手品師セリーヌ】の効果発動!」
【水奇術の手品師セリーヌ】
青・黒 コスト:3 人間・奇術団
A:2 B:2
このモンスターが場に出た時、デッキ外から【水奇術の真骨頂】を手札に加える。
「【水奇術の真骨頂】をデッキ外から手札に加えます……これにて、第一演目は終了です演者たちに拍手を!」
「……バウンスはキツイですが、中々見応えがありますねこれは。私はこれでターン終了です」
パチパチと拍手が響き、それに一礼で答えた【セリーヌ】が手札に戻ると同時にデッキが光り、カードが一枚手札に加わる……出だしは順調だが、神聖なるデッキは次のターンからが本番だ。
新たに加わった二枚のカードを見つめ、私はデッキに手を掛けた。
テーマ紹介
【水奇術】
五種のアーティファクトによる相手への妨害がメインのコントロールデッキ。【水奇術の真骨頂】はキーカードの一枚であり、これにより水奇術モンスターたちは真の姿を見せる。
弱点はAの低さ。




