「貴方は悪くない」/「父ちゃん!!」
──暗い地の底に私はいた。
優義徒の中にいる者に負けた私は恐らくは死んだのだろう……ならばここは地獄なのだろうか?
だが、それにしては何かが妙だと感じた。火山の鳴動とその振動に熱はリアルで……背筋に怖気が走る。
湧き上がるマグマに照らされて浮かび上がるのは奇妙なシルエット……あれは細長い何かが飛び出てうねっているオウムガイ?
とにかく直ぐに目を逸らしたくなる存在なのに目を離せなかった。私の視線は固定されていて真っ直ぐにソレを見続けるしか出来ない。
「■■■■■■、■■■■■■■■■■■』
粘着質な音の羅列なのに意味が分かる。夢だからだろうか……それだとしても気味が悪い。
「■■■■■■■■■■■■■■■■……■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
ソレが私の頬に自身の殻から生えていた細長い物……触手を触れさせる。生臭い粘着質な液体に包まれている為にペチャリという音が鳴る。
気持ちが悪い……しかし、体の自由は全くきかず声を出す事すら不可能だ。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
細長いと言ってもその太さは人の腕程はある。それが頬を滑りながら私の唇に触れて、こじ開けようと蠢く……まさか。
「■■■■■■■■■■■■■……■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
ほんの少し開いた隙間にねじ込まれる触手。顎が外れそうな程に強制的に大きく開けられた口内を超え、喉から体内に侵入してくるソレは体の中から何かを探すようにまさぐってくる。
体内から内蔵を触られるという行為と口から突き刺さったままの触手の刺激に何度も嘔吐きそうになるがピクリとも動かせない体と触手で栓をされている状態ではそれを行えず、吐く寸前の気持ち悪さが永遠に続いていてひたすらに苦しい。
やがて、目的の物を見つけたのだろう……体内を探る触手の動きが止まった。
「■■■■■■。■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■」
触手が一度震えたかと思うと内蔵に何かが触れたような感触、そして次の瞬間には心臓に凄まじい痛みが走る。
動きを止めていた触手がうねると同時に苦痛。位置の調整か少し引き抜かれたりすると同時に苦痛。逆に押し込まれる事により苦痛。
苦痛。苦痛。苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛。
痛い、痛い痛い痛い痛い痛い。
人では耐えきれない痛みを強制的に与えられている……意識を失う事すら痛みによって行えない。
「■■■■■■、■■■■■■■■■■■……■■■■■■■」
罰、罰といったか……痛みで訳が分からなくなりそうな中でその言葉が脳内で繰り返される。
不意に痛みが消えた、終わったのだろうか?何の痛みもないという状態が素晴らしいと思えた。
少しづつ視界が暗くなる……安心した事で緊張の糸が切れた。
意識を失う寸前、またあの気味が悪い声が聞こえる。
「■■■■■■……■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
報復があると思いなさい
ーーーーー
【永劫に留める】のカードを父に触れさせてから、その呼吸はか細いながらも途切れる事は無く状態を維持していました。
名の通りに所有者の状態を現状のまま固定するという力は私には効きませんが、ただの人間である父には効果があったようです。
「ジュンくんが持ってた時も体調は悪くは無さそうでしたし、悪影響は無い筈です……無いですよね?」
死ぬつもりだった父としては化け物の手で生き長らえるのは屈辱でしょう……でも、生きていて欲しいです。
酷い事を言われました……記憶を弄り回されました……心の底から嫌われていました。
それでも、昔にはこの私にほんの少しだけ優しく振舞ってくれていた事もあります。少なくとも……優義徒の記憶の中では父の事は大好きだと刻まれています。
「優義徒なら、こう言っていたでしょうね……『許して下さい、お父さん』」
意識のない父の手を取り、私の頭にポンと乗せて少しだけ動かします……頭を撫でられているような感覚に胸の奥がじんわりと暖かくなりますが、同時に虚しさも覚えます。
「許してくれますよ、父は貴方のことが大好きなのですから……『でも私は父を殺そうとしました』……いいえ、殺そうとしたのは貴方の中の悪い存在です。貴方は悪くない」
優義徒としての言葉は今でも直ぐに出てきます……妙な確信が有りました、この体の中にはまだ優義徒の魂が残っていると。
ならば……ちょうどいい。"サモンエナジー"を集めて私がやろうとしていた事に更なる付加価値が生まれました。
「私がやり遂げるまで……どうかその日まで生き続けて下さいね、おとうさん」
ーーーーー
昼間の誘拐騒動はすげぇ後味の悪い終わり方をしたけど、一応は無事(?)に助けられたから良かったと自分に言い聞かせて俺は家に帰った……
「ただいまー」
「おう、おかえり、百火元気にしてたカー?」
久しぶりに聞く声だった、靴を脱ぎ捨ててリビングに駆け込めばオレンジ色の髪が見えた。
「父ちゃん!!」
「でかくなったナァーマエはこーんなにちっこかったのにヨォ」
そう言って父ちゃんは豆ぐらいの大きさを指で示していた……流石にそんなに小さくはねぇよ!!?
父ちゃんは世界中を飛び回る仕事をしているらしくて、色んな国の言葉が話せる。その変わり、妙なイントネーションとかがついて日本語の発音が大分おかしくなっている……まあ、慣れたら面白ぇから嫌いじゃないけどたまに聞き取りづらい。
「父ちゃん今回はどこに行ってたんだ?」
「ナンベイのハジっこのアタりさ、ほれおミヤゲあるゾー」
そう言って渡してくるのは変なデカイ木製のお面……ぶっちゃけいらねぇ。
「あ〜?コレはイヤかぁー……なら、コイツはどうだ?」
そう言って、父ちゃんが懐から出してきたのは……【ドレッドギアス】のカード!
「くれんのか!?」
「カワイイヒトリムスコへのおミヤゲだ、くれてやるヨ」
見たことの無いそのカードにはイラストが書かれていなかった……
「【永遠に燃える】……変なカード」
「ヘンって言うなよナ、それ手に入れンのタイヘンだったンだからヨォ」
痛いくらいに俺の頭を撫でてくる父ちゃん、痛いけどなんか嬉しくなってへへって笑いが出てくる。
それから、風呂はいって夕飯を食べて寝て次の日にはまた父ちゃんは姿を消していた。
『今度はもっとすごいの土産にするから期待してくれ』
そう書き残されたメモだけが父ちゃんが昨日家にいたという印に思えたのだった。




