「……あ?」
建物の中はなんていうかすごく埃っぽかった。たくさんあるボロボロの長椅子は木製なのもあって中が腐ってたりで壊れてるし、雑草も生えてたりですごくボロいっていう印象だった。
「ここにホントにいるのか……?」
「崩れそうだっぺ……探すにしても早くしないといけないっぺな」
扉を一つ一つ開けていき、何回目かでやっと廊下を見つけた俺たちはそこを進んでいった。窓から炎が見えてるから夕方みたいな色合いに染まる廊下は比較的明るい。
そしてしばらく真っ直ぐ進んでいたら地下に向かう階段を見つけたけども……やっぱ、こういうのって地下にいるもんだよな?
「よし、行くぜ米子……なんか変なの見つけたらすぐ言ってくれよな」
「分かったっぺな……百火くんも危ねぇと思ったら一緒に戻ろうっぺ」
「おう!」
そう返事をするとデッキケースが熱くなる……お前らに心配掛けねぇようにするから見守っててくれよな!
ポンポンとデッキケースを触ってから、俺たちは地下に降りていった。
──地下は光るようなものなんて無いのに、真っ暗闇ってわけじゃなくて薄暗い程度の暗さだった。
「壁がちょっと光ってる……?」
「不思議だっぺなぁ……」
お陰で懐中電灯とか持って来てなかったけど、なんとか進めそうだった。
まっすぐ続く道を進んだ先にあった部屋に入った瞬間、まず目に入ったのは部屋の真ん中に吊り下げられてる鎖。その下にはバラバラになったその鎖の破片とひっしゃげた鉄の棒が散乱している……
「百火くん、あそこ誰か倒れてるっぺ!」
「うおっ!?ほんとだ!!」
米子が指差した先には白い服を着たオッサンが倒れていた。
一瞬、死んでるかと思ったけども近づいてみればちゃんと呼吸をしていて、起こそうと肩を何度か揺さぶれば呻き声を上げながら目を覚ました。
「う……」
「オッサン、大丈夫か!?」
起きた直後はぼんやりしてたけど、気がついたオッサンは起き上がろうとして腰の辺りを抑えてすごく痛がっていた……今思ったけど、このオッサンも誘拐されたのか?
「オッサン無理すんなよ……アンタも誘拐されたのか?」
「うう……"アレ"が………化け物が……」
「化け物……?っておいオッサン!?」
頭を抱えてまた気を失った知らないオッサン……化け物ってなんなんだよ、【ドレッドギアス】のモンスターの事か……?
オッサンの方も気になるけど、その化け物の行方も気になる。レジーナは見つかったけど、ユギトとその父ちゃんは見つかってねぇし……やっぱり進むっきゃないぜ。
「米子、このオッサンの事見ててくれ。俺は先に行くから」
「百火くんそれは危ねぇっぺよ……この人連れて一度戻った方が良いっぺ」
「確かに危ねぇけどさ……俺は大丈夫だからさ!化け物見たら直ぐに逃げるし!!」
困った顔の米子にそう行って俺は部屋のもう一つの扉の方へ走り出す。米子……ごめん。
扉の向こうはやっぱり廊下だったけども、途中に扉を見つける。熱風が吹き出てるから多分、外に繋がっている……何となくこっちにいると思って、その扉の先の階段を登り始めた。
階段を登って直ぐにある廊下、その真ん中に見慣れた服装の人物が蹲っていた。
「ユギト!!」
近づこうとした時におかしな事に気づいた。ユギトの影が……その形がおかしかった。
辛うじて人の形はしているけども手足が異常に細長く、頭部辺りから髪にしては奇妙な動きをする束が何本も蠢いていた。
ゆっくりとユギトが体を起こす。
こっちを見て来るけども視線がうろうろしていて、しかも服の腕の辺りに赤い何かが染みているように見えた。
「……怪我、してるのか?」
返事は……無い。
立ち上がろうとして、でも足が上手く動かないのかその場にまたべチャリと崩れ落ちて。また顔を上げたその目は怯えたように揺れているのに口元はいつもみたいに笑っていた。
すごく、気味が悪かった……その表情のチグハグさが。一歩、思わず後ずさったら《《ソレ》》がこちらに腕を伸ばしながら這いずってくる。
「"ヒ゛ャ゛■……カ゛、く゛■……」
似ていたけども声がすごくかすれていて、人じゃない生き物が無理やりに人の声を出そうとしているように思えた。さっきのオッサンの化け物という言葉を思い出す……もしかしてユギトに化けてるのか?
また一歩後ずさるとソレもまた少しこちらに這い寄ってきて、口元の笑みが深くなった。
「こ゛し゛が゛、ぬ゛け゛て゛……ゲッホゴホゴホ!」
……あ?
「ン゛ン゛ン゛……あ゛ー、あ゛ー……枯゛れ゛っ゛枯゛れ゛で゛す゛ね゛声゛」
恐る恐るもう一度近づくとホッとしたような表情になる……多分ユギト。
「……もしかして、腰抜けて声枯れてるだけなのか?」
コクコクと何度も頷くユギトに緊張とかなんかもう色々な物が抜けてった気がする……多分、あの影も何かの見間違いだったんだろ。火が変な風に動いてそう見えてたのかもしれないし。
取り敢えず、肩を貸して米子の所まで戻る事にする。
何があったのか完全に腰を抜かしてるみたいで正直、立たせるまで結構重かった。
「お前がレジーナを誘拐したんじゃないよな?」
「違゛い゛ま゛す゛よ゛」
「……無理に喋んなくていいから、頷いたりとかで返事してくれよ」
頷いたユギトに歩調を合わせながら俺たちはゆっくりと歩き始める。
米子の所に戻るまでの道中は意思の疎通はしづらかったけどもある程度は何が起きたのかは聞けた。
・レジーナが連れ去られたのに巻き込まれたのじゃなくて、自分が連れ去られたのにレジーナが巻き込まれた
・少し痛めつけられたけど何とか逃げ出せた
・化け物は見ていない
という事らしい。
怪我については心配しなくていいと笑ってるんだけど……『血が出てんのに何言ってんだろコイツ』って思ってたら顔に出てたみたいで困ったように笑ってやがる。
「とにかくさ、心配だったから俺らここまで来たんだよ。水兎も米子も……後さ、ユギトの父ちゃんも来てたんだぜ……途中で攫われたけど」
「嘘゛で゛っ!!?ゲボゴホゴホ……」
父ちゃんが来てるって言う言葉が信じられないのかなにか言おうとして咳き込むユギトの背中を撫でてやれば、呼吸が落ち着いて来たのかやっぱり疑っているような視線を向けてくる。
「嘘じゃないぜ?そもそも、ここに捕まってるって気づいたのあのオッサ……ユギトの父ちゃんだったし」
「…………」
何か考えているのか俯くユギト……なんか仲が良いって感じじゃなかったしなコイツらの親子関係。
「俺はお前らの親子関係よく知らねぇけどさ、ちゃんと話し合った方がいいんじゃねぇか?前に見た時はぎくしゃくしてたけど……こうやって助けに来るって事はお前の事大事なんだろ?」
そんな事を言ってたら米子のいる部屋まで戻って来たけど……なんかうるさい?
「コイツであります!!小官に変な薬吸わせたの!!現行犯逮捕ー!!!」
「…………ソレはもう神聖制約教団から破門されている。当教団とは既に何の関係もない……もう何の関係もない」
合流した水兎に米子と正気に戻ったレジーナ、そしてユギトの父ちゃんが気絶したオッサンを囲んでいた。
「水兎!!」
「百火!とユギトさん、無事だったのね!」
「俺は大丈夫だけど……コイツの方は喉枯れて腰抜けてるっぽいんだよ」
「何があったのよそれ……」
「取り敢えず、無事に見つかって良かったっぺな」
申し訳なさそうに苦笑いを浮かべていたユギトは父ちゃんの存在に気づくと気まずそうに目を逸らす。
ユギトの父ちゃんは俺たちに気づいたみたいで直ぐにこちらに向かってきた……途中で気絶してるオッサンの手を体重を掛けて踏んで行ったのは多分、わざとだろうな。
「……優義徒」
「…………」
返事は無い、というか出来ないだろうな。すごい声枯れてたし。
いつまでも何も言わないユギトに、ユギトの父ちゃんは腕を掴んで自分の方へと引っ張った。もちろん、上手く足を動かせないユギトは転びそうになるけど何とか耐えていた。
「オッサン!そいつさっきまで腰抜けてたし、なんなら血が出るくらい痛めつけられてたんだぞ!そんな無理やり引っ張んなよ!」
「……《《コレ》》が殴られたりした程度で弱るわけが無い」
まるで物みたいに言う姿にカチンと来た。
「なんだよその言い方!ユギトの事心配だったんならもうちょっと言い方あるだろ!!」
「心配だと?……するわけが無い。私には《《コレ》》を連れ戻す義務がある、ただそれだけだ」
淡々と言う言葉が理解出来なかった……だって、そんなのまるで義務じゃなかったら来なかったみたいじゃないか。
その言葉に、自分の胸元に触れていたユギトが掴まれていた腕を振り払った。
その拍子にプツリと髪を結んでいたヒモが切れたのか表情を隠すみたいに髪が降りてきて俺の方からは見えないけども……多分、怒ってるよな。
唯一正面からその表情を見ているであろう、ユギトの父ちゃんの眉間のしわが深くなっていた。
「……帰るぞ」
返事はやっぱり無い……けども、その後を無言でついて行く姿に俺たちは何も言えなくなっていた。




