「(おじさん……)」/「私は貴方ですよ」
記憶等の処理設備は教会の地下にある……優義徒がどこにいるとしても夜には帰ってくるだろうからとカタルとは別れて街を歩いていた所に昨日出会った少年少女たちを見かける。
「あっ!アンタ確かユギトの父ちゃんだろ!」
「そうだが……」
「レジーナどこに連れ去ったんだよアンタら!!」
何やら怒っているようだが……レジーナという子が分からんし全く心当たりがない。
「……一から十まで説明をしてくれ、さっぱり分からん」
……少年の言葉を纏めると
・友人のレジーナという子が昨日約束したのに約束の場所に来なかった
・迷子かと思って探しに行くと彼女の被っていた帽子と手帳が落ちていた
・手帳にはメモが挟まっていて、中を見たらユギトの物じゃないかと思った
「……という訳か」
「アンタらが連れ去ったんだろ……!」
「そんな事はしていない……少なくとも、私はしていない」
私はという言葉に強い疑いを持ったまま見つめる少年と……青髪をリボンで纏めている少女。優義徒……お前、何をしたんだこの子達に。
そんな微妙な空気の中、黙ったままだった糸目の少しふくよかな少女がおずおずと声を上げる。
「あの……もしかしたら、ユギトさんも攫われたって事は無いっぺか?」
「攫われたって……なんでだよ?」
「だって手帳落としたら普通気づくっぺ……落としたのに拾えない何かがあったんじゃないっぺ?」
「レジーナ攫ってそれどころじゃ無かったのかもしれねぇじゃん」
優義徒が攫われそうな心当たりならば有る。
あの子の存在その物に価値があるから、不埒な者がそれに気づいてしまえば短絡的に攫うかもしれない。
「おじさん、変な顔してるけどユギトさんが攫われる心当たりあるんじゃないの……?」
「(おじさん……)……あると言えば、あるが……お前たちに話す必要は無い」
リボンの少女にそう告げて、足早に立ち去る……連れ去られたのだとすれば子供を巻き込む訳にはいかない。
人通りの少ない道へ入り、懐に入れていた《《あの》》カードを取り出す。
「【ルシファー】あの子はどこだ?」
カードが熱くなり、どこかに引っ張られるような感覚を感じる……優義徒は恐らくはデッキを持ったままだったのだろう。
【ルシフェリオン】のカードも入っている筈だ。ならば、本体であるコレが最も身を預けていたそのカードの場所を探知出来ない事は無い。
「…………また、ここに来るとはな」
住宅街の外れの雑木林……その近くまで来た段階でおおよその見当はついた。
一歩足を踏み入れただけで感じる敵意、もとい悪意。
雑木林の中は結界により異界と化していた。万が一にも優義徒の中のアレが出てくるのを恐れているのだろう。一帯が火の海に包まれているここは酷く乾燥していて、肺の底から熱い空気に満たされている気がする。
一斉に襲いかかってくるのは恐らくは恐怖連合の手の者達、数は大体三十人程か。
"ギアスディスク"を起動して、その全てと同時に"ギアスファイト"を行う……バトルロイヤルモード、自分以外の全てが敵という【ドレッドギアス】のファイトルールの一つだが実質は一対三十だ。
「へっ、飛んで火に入るなんとやらだな!!」「じいさん迷子かー?」「送ってやるよ、地獄にだけどなぁ!ギャハハハ!!」
「品の無い言葉だ……そこに並べ、全て等しく焼き尽くしてやる」
多人数の相手は得意だ……数は多ければ多い程、楽になる。
ーーーーー
──暗い暗い寂しいけれど、どこか暖かく落ち着く空間で私は眠っていました。
目が覚めて辺りを見渡してもなんにも見当たらなくて……何となく、歩き始めました。
どこまで行っても真っ暗闇……退屈で退屈で、変わらないその景色に歩き続けるのも飽きてきました。
ふと後ろを振り返れば、暗闇の中に浮いている物がありました。
バイクの模型……叩き壊しました。
氷の結晶……踏み潰しました。
鬼のお面……叩き壊しました。
大きなしゃもじ……踏み潰しました。
蛇のおもちゃ……叩き壊しました。
黒い結晶……踏み潰しました。
沢山の物を壊すのが楽しくて、そのまま遊んでいたら残ったのは白いキレイな羽だけでした。
握り潰してやろうと手を伸ばしますが……それを止める声が聞こえました。
『ダメですよ、それは私のお母さんが遺してくれたモノです。それに貴方が壊してきたモノも全部私の大切なモノです……』
もう一度振り返れば、そこには……《《私》》がいました。
外出する時の格好……メガネを掛けて野暮ったいパーカーを着た姿の私が立っていました。
「貴方は誰ですか?」
『私はユギト……貴方こそ誰ですか?』
「私も優義徒ですよ……見て分かりませんか?」
『分からないですよ……自分の姿をよく見てください』
妙な事を言う、仮称:もう一人の私。
どう見ても、私は私です……真っ黒な触手を束ねた手足に頭部には鼻と口が無くて真っ赤な二つの瞳だけが埋め込まれている。
どこからどう見ても私の姿です。変な所はどこにもありません。
キョトンと目の前のもう一人の私を見つめますが、困ったような顔をされてしまいました。
『思い出して■■■■■■。貴方は私じゃないでしょう?』
「よく聞こえませんでしたが……私は貴方ですよ、ユギト」
苛ついて手を伸ばし、もう一人の私を掴みます。
苦しげに呻く声に溜飲が下がる思いです……ほら、認めてくださいよ。
「私は貴方です……そう言えば良いのですよ」
『いや、です……っ、私は…私だけっなんです……!』
強情なユギトを更に強く握れば、奇妙な音を立てて姿を消しました。
残ったのは私だけ……そう、私だけなのです。
「これで私はただ一人……私こそが白掟優義徒です」
真っ黒な世界はいつの間にかヒビが入っていて……腕を伸ばして私は外へと出ていきました。




