「そこまで親しくはない筈です」/「協力してもらうぞ」
……教会の一室。元々は信徒の方が罪を告白する懺悔室であったその場所ですが使われる事が殆どなくなり、今は反省部屋という名前で他の人には聞かれたくない会話を行う部屋としてリニューアルされたその部屋に私と父は向かい合っていました。
「……わざわざ地元に戻り、カタルに口止めとは徹底しているな?」
「ええ……私の些事で日本支部長様のお心を騒がせたくなかったのです。私の自業自得で起きた事故でしたから」
「それで済むと思っているのか?」
済むと思っていなかったから隠していたのですよ……呼吸を整え、笑顔を向けました。
父は目を逸らそうとしますが……一度目をつぶったかと思うとこちらを真っ直ぐに見てきます。
「《《優義徒》》、聞きなさい」
「っ……はい」
「もう少し落ち着きなさい……遊ぶなとは言わないが、節度を持って行動しなさい。どれだけの人に心配を掛けたのか分かっているか?」
……意味は分かりますし、かなり甘い対応をして来ているのも分かります。
ですが……無意識にデッキケースに触れるとカッと体の芯が熱くなる感覚に襲われました。
それと同時に父に……裁刃徒に対して酷く腹が立ちました。
「……心配、ですか。こういう時だけ父親のような振る舞いをするなんて都合が良いですね《《日本支部長様》》」
「ユギ「名前で呼ばないで下さい、そこまで親しくはない筈です」…………」
また名前を呼んでこようとしたのを制してやれば息を飲み、黙り込む裁刃徒が酷く愉快でした。
しかし、それと同時に父にそんな表情をさせたのが申し訳ないという感情が湧き上がります。
苛ついて、自分の右腕に爪を立てればその痛みに申し訳ないという感情が薄れていきました。
「昼間もチラチラうっとおしかったですし、何か言いたい事が有るならば言って下さいよ《《日本支部長様》》?出来の悪い私は言ってもらわなければ分かりません」
「それは「それに!休暇で来たなら連絡を入れて下さいよ!ユウゾウさんからの連絡でしたよ知ったの!本当は監査じゃないのですか?!」
何かを言おうとした裁刃徒に言葉を被せてさらに追撃を加えます。
やはり、あの人は弁舌が苦手なのですね……このまま言いたい事全て言わせていただきましょう、もう処分されるかもしれないとか知ったこっちゃありません。
「何とか言ってみてはどうですか《《日本支部長様》》!そうですよね、貴方は口よりも行動で示すタイプの方だ!無礼者にはどうぞ処分を!更迭されても仕方ありませんよね!?」
「それだけは出来ない」
「はぁ……?」
強い意志を持った言葉でした。
真っ直ぐに私を見つめ返すその目は決意を持っていました。
「お前を自由にする……それだけは、してはいけない事だ」
「なんですかそれ……私を大司教の座に無理矢理推したのは私をこの教団に縛りつける為だとでも?」
裁刃徒の返答は頷きによる肯定でした。
何の為に私を縛ろうとしているのか分かりませんが、酷く不快なのは確かです。
「随分とまあ手が込んでいる事で!そんなに縛りつけて私が自由になるのがそんなに怖いのですか?《《また貴方の大切な誰かが犠牲になる》》かもしれないから?」
《《また誰かが犠牲になる》》……?
自分でも何故こんな事を言ったのかは分かりません。
ですが、自分の意思でも止まらなくなった舌はスルスルと言葉を紡いでいきます。
「アハハハ、面白い面白い面白い!私一人を抑えるのにそんなに労力掛けて、それでその身近な人達だけを守れればそれで良いなんてとても立派な正義ですねぇ?」
「優義徒……お前まさか「だから私をその名前で呼ぶなと言ってるでしょうが!!!!」
防音処理をされていなければ、間違いなく外に漏れていたであろう程の大声が響きます。
フーッフーッと荒く息を吐き、少し熱が覚めました。
「……もうすぐ夜の祈りを捧げねばなりませんのでここで失礼させていただきます」
「待て、話を……」
「まさか、神聖制約教団の《《日本支部長》》ともあろうお方が信徒達との祈りを邪魔するのですか?」
何も言えなくなった《《父》》に背を向けて、私は反省部屋から出ました。
ドアを閉める直前に何かを言われた気がしますが……聞き返してなんてあげません。
ーーーーー
壁に背を預け、ずるずると座り込む。
……出来るだけ、刺激したくなかった。感情を強く刺激すれば優義徒に施した《《記憶処理》》が揺さぶられてあの子は全てを思い出してしまう。
しかし、途中からあの子の様子がおかしくなっていた……何かに触れてからだ。
アレは…………そう、デッキケースだった気がする。
じわりと熱を持つ懐、心当たりは……ある。
「……いるのだろう【ルシファー】」
『今の私は【ルシフェリオン】だ、彼女の番』
白いローブを纏い、白い仮面を被った【ルシファー】が私の前に実体化する。
間接的に彼女を……私の妻を殺したのはコイツだ。だが、コイツのお陰で私たちは生き残れて私の妻がそれを望んだのもある……酷く、複雑な感情が渦巻いていた。
「では【ルシフェリオン】……あの子がデッキに触れてから感情の起伏が激しくなった事の原因は分かるか?」
『無論知っているとも、我が同志の【邪聖天】達に感情を増幅するように指示しているからだ』
フフンと笑いながらとんでもない事を言う【ルシフェリオン】
感情の増幅?《《私がしていた感情の抑制の逆ではないか》》。
ふざけるな、これでは今までのしてきた事が全て無駄になってしまう。
「あの子の中に居るモノを刺激してどうする?今すぐ止めさせろ」
『何故だ?アレも召喚者を構成する物の一つだ。正義を為す為には力が必要だ……安心しろ、私がコントロールしてやろう。今までも、これからも、召喚者は私が正しく導いてやる』
「コントロール?出来るわけが無い……アレは子供だ。遊びたい盛りのな……」
アレは言って聞くような子供ではない。だから、縛りつけ見張れるようにしていたのだ。
そして……アレを優義徒にする為にはその遊びたいという感情を抑える必要がある。
その為の《《感情抑制》》、その為の《《記憶処理》》、その為の《《洗脳処置》》だったのに……仕方がない。
その全てを振り切られる前に……やはり、もう一度行わなければならないか。
『……貴様、何をするつもりだ?』
「決まっている……あの子への処置を強化する。協力してもらうぞ【ルシファー】」
懐から取り出すのは一枚のカード。今も尚熱を放つソレのテキスト欄にはいつの頃からか王冠のようなマークが刻まれていた。
【偽りの神聖なる邪聖天魔ルシファー】
私の妻の切り札であり、目の前の存在の本当の本体。
仮面越しのソレの目が見開かれるのが見えたが……遅い。カードに吸い込まれていくソレを見送ってから再び懐へと仕舞った。
馴染ませるには時間がおよそ一日掛かる……アレが完全に処置を振り切るまでに間に合えば良いのだがな。
ルビが…………長い……っ!!




