閑話 大会の注目株
ジン君(トロイライト)視点
泊まったことのないレベルの広いホテルの部屋――――これでもジュニアスイートという、スイートルームの中では一番狭い部屋らしい。
寝室にリビングにクローゼット、ヘッドギアだけどVRスペースまであって、ホテルに「しっかり寝れる」以上のものを求めたことがない身としては、この広さの部屋はちょっと意味わかんないなと思ってしまう。
まあ、リビングがあるのでメンバーで座って相談が出来るのはいいのかもしれないけど……いやでも一泊二桁万円か……やっぱりないな。スタンダードをもう一部屋借りてベッド寄せてもらうほうがまだ現実的。
そんな部屋のリビングに座っているのは、僕とトシさんとマコトさんの三人。
詳細を詰めるのは大会後として、とりあえず許諾が出たことだけは先に伝えようと思ったら、トシさんは非常に困った顔をして、マコトさんは少し、ギョッとしていた。
「……え、マジで言ってる?」
「マジっぽいっす」
四月以降ならコラボOK、正式な話はサザンクロスへ。
まごうことなく、彼女本人から出たコラボ許諾だ。
「四月以降ってことは、えーと、新しい事務所の……」
「CRUCIS」
「それ、クルーシスが動いたら受けますよってことか」
「こっちから申請の形なんで、僕のチャンネルに来てもらうことになります」
「とりあえず第一回は武器チェンで、サシはなしで複数人コラボの形にしよう。将来的にはCRUCISの他のメンバーも混ぜて、年に何回かできるのが理想かな」
「そんなに何やるんすか?」
「いっそ勉強会形式にするとか?ジンはプロの中では若手、セリスさんはゲームに詳しくないから、EFO以外のゲーム事情や、色々なゲームのシステムの違いや、それこそ面白コンボなんかを見ていく。全体的にはFunnyじゃなくて、Interestingを目指す」
「勉強会ならオフコラボ向きか……そこがOKもらえるかだな」
定期勉強会系のコラボ……普段触らないゲームシステムの研究配信枠ってことか。
配信規約として問題なくても、EFO内で別ゲーの話をしまくるのは確かに微妙で、そうするとオフとかリアル系に近いツールを使うことになる。その話は分かるんだけど。
「……トシさん」
「うん?」
「僕、長時間生身のセリスちゃんの隣に立つのはちょっと嫌っす」
「そこに拒否権はないから」
……だよね。
「とんでもない子出てきたよねえ」
「出てきたねえ」
「はあああああぁぁぁぁぁぁ…………」
ほんっとうに、サザンクロスって顔採用。というか顔採用だと言ってくれ。捕まえた野良猫洗ったら純白の長毛種でしたなんて冗談きついだろ。
「ジン、あれよく顔作れたよね」
「褒めてください。ほんっとに褒めてください」
セリスちゃんが囲まれちゃったから救出に行く、そのまま連れ出してニンカの所に連れて行け。そう言われて人をどかした先にいたのはとんでもない美少女だった。
一瞬だけ、トシさんも息を飲んだのが分かった。口元に薄く浮かべた笑みを崩さずにいられたのは奇跡に近い。本当に褒めもらっていい。
いやー、リーダーの隣に立つのきついんじゃねーと思ってたけど、ありゃリーダーが隣に立つの大変だ。いやまああの人ならなんとでもするんだろうけど。
「まあ、完全にサザンクロスが事務所化の方針だから、流石にもう引っこ抜くのは無理だ。上も諦めてくれたしね」
「諦めたっていうか、まあ……そう、っすね」
スポンサー企業のあのアタオカクソ親父、突然首が切れたらしいからな。
何も聞くなと言われたので、聞いていない。今回の西生寺案件がトシさん名指しで来ている以上は、西生寺側とは何も問題なく解決したんだろう。
「無難に事務所として仲良くなっていこう。で――マコトの方は?」
「いやー、本人あんまりやる気がないみたいでして」
「そうかぁ……」
「どっちかって言うと彼の方が来てほしかったっすけどねえ」
「うん、まああまり安定した職種とは言えないから、やりたい仕事もあるし普通に就職しますって言われると強くは押せない」
「っすねえ」
中学から大学まで弓道部に所属、父親の趣味でアーチェリーも嗜んでいて、EFOではレンジャー、EFOの前のファーストクロニクルでも弓を使っていた生粋の弓プレイヤーの、リゲル君。純粋にEFOのレンジャーとしての強さで言うなら、場合によってはマコトさんより強いかもしれないレベルだ。
この大会でのプロからの一番の注目株は多分彼だ。弓がきちんと使えるプレイヤーは実はそれほど多くない。
「まあ、フレコもリアルメッセージも交換出来たんで、小遣い稼ぎに副業でどうとは推しておきました」
「そうだな、純粋に弓は練習を見てくれる人も少ないから、近いうちに一度臨時コーチを頼んでみよう」
「嫌がりそ~」
場違い感半端ない帰りたいオーラを全力で出していた彼を思い出して、苦笑が漏れた。




