閑話 夜の泣き言
夜梟視点
「終わった……」
いつもの自宅と違う真新しくてピカピカのホテル。いつもと違うVRマシン。
ログインしたいつものギルドで待っていたいつものメンバーが、慰めのように肩を叩いた。
「いやー、唯一をぶち抜きましたね~」
「よっ、主人公!」
「主人公だったらここで勝つんだけどなぁ……」
この2ヶ月半、色々なプレイヤーの動画を見漁った。対策も考えた。装備も作った。
相手はPvPの上位陣や、プロばかり。全員に勝つなんてのは妄言もいいところで、だけど食らいつこうと準備にあがいた。
それでも、どれだけ考えても、どうしても。
どうしても、彼には勝てない。当たったら負ける。
最強の一次職の名は伊達じゃない。
「トラキチだけはさあ、無理なんだよぉ……」
俺がトラキチに勝てない理由はまあいくつもあるんだけどさ、一番の理由はリーダーなんだよ……。
トラキチはリーダーメタ、つまりソードマンメタが強すぎるんよ。ソードマンの俺じゃ正面勝負はひっくり返っても勝てないの。そもそも俺自身は走り屋なだけでPvPはそこまで強くないんだよ。
それでもトラキチ以外だったらなんとかいい勝負をできると思ったんだよ。
とにかく迷路で相手を迷わせる方法も考えたり、左右どちらから来たのか分からなくなりそうな場所を探したりさ。
考えたどの方法もあの人には通用しないの。まじで通用しないの。聴覚過剰適応ってなんだよずるだろそんなの。
ここから入れる保険ってないですかね?ないですかそうですか。
「諦めちゃうのー?」
「…………いやべつに、やるけど」
「やるんだ」
「勝てない程度でやめてたら、RTA勢じゃないだろ」
どこまでだって足掻くよ。だけど弱音は吐くよ。それは両立すんの。
「ひゅ〜〜〜〜」
「ヨルさんかっこいい!すてき!引きがニンカちゃん!」
「うるせえばーかばーか」
囃し立てるギルメンをべしっと叩いて椅子から立ち上がる。
やはりカスタムが馴染んでいないマシンはいつもよりほんの少し遅い。肩を慣らさんと。
「とりあえず一回迷路RUNやるから、誰かタイムキープして」
「あいよータイマー持ちまーす」
「録画こっちで回すねー」
「配信どうするー?」
「流石に今日はいれねえって」
まー弱音吐いても仕方ない。とりあえず走るか。RTA友の会は、足を止めたらおしまいだからな。
――――いやまあ、弱音は後でもう一回吐くけどね。




