31-6.大人気の理由
「蜻蛉です、当たるとしたら決勝かな、よろしくお願いします。ところで芸能活動にご興味ないですか?」
「セリスさんですよね、後衛出場のBro_です、ブロって呼んでください。明日の第一試合、楽しみにしてます。ニンカさんも、明日のチャレンジ楽しみにしてますね~。名刺渡しても大丈夫ですか?」
「ウォーハンマー登録の、AZ_jpっす、こっちの一回戦は徹さんですね。そうなんですよ、ウォーハンマー自分だけです。ちょっと予選仕様的にはきびしかったので仕方ないんですけどね。普段は仙台Regaってチームで活動してます、もしプロゲーム活動に興味があったら是非」
「あああああああの!バッカーズのdiputsっていいます!大ファンです!あの、動画全部見てます!握手してください!!!」
・・・
・・
「いや~、セリス大人気だね~」
「まあ、選手同士顔を合わせてなにも挨拶もしないというのも……」
移動の道すがら、それはもうあちらこちらから声をかけられまくって全く前に進まなくて笑っちゃいそうになりました。
これでもニンカさんと一緒だから多少減っているのだろうと思うと、本当に一人で出歩かなくて良かった。
「やっぱねー、うんうん、セリスに声かけたいよね。わかるわかる」
「うーん、まあ、リーダーさんもロイドさんも忙しそうですし、ニンカさんの進路を塞ぐわけにもいかないですもんねえ」
「うん?」
「はい?」
え、だってそうですよね。新しく配信事務所が動くってことは、この場の多くの方たちにとって同業が増えるということですし。プロの人たちも基本的に配信で収益を得ているらしいので。
話題になりそうな新しい事務所メンバーで、会話できそうな相手は私だけってなったら、まあ。
問題は私が致命的に会話を広げるということが苦手ってところですよね。もう少し会話も自然に出来るようになりたいんですけどねえ。
「んー……………あのさ」
「はい」
「セリスの家ってもしかして、鏡なかったりする?」
「はい?」
かがみ……鏡?いや普通にありますけど。何ですかそれ。
「じゃあなんでそんななん?」
「え?私何か格好変ですか?」
「これだよ」
どれですか……。
え、ママに選んでもらった服ではありますけれど、それほど変なものは着ていないつもりなんですが。
「セリスさー、めっちゃ可愛いよ?」
「そうですか?ありがとうございます」
「もー、ホントだってば。みんなセリスが可愛いから声かけてきてんの」
「大会でそれはないでしょう……」
「あるんだって」
「それは周囲の方に失礼ですよ」
何うちのパパみたいなことを言ってるんですか。
なんだか納得していないようなニンカさんに、そう言えばと話題を変えた。
「そう言えばなんですが、ニンカさんはお母様とご一緒だと聞いてましたけど……」
「ああ、お母さんは基本的にのんびりしてもらってるー」
「そうなんですか?」
「手伝ってほしいのはお風呂と朝の介助だけなもんで、他は好きにしててって言ってる。お高級ホテルを堪能してもらってるよ」
「へー」
「うちのお母さんVRほんと興味なくてさー。ゲームやらん、映画はグラスディスプレイで十分、趣味は編み物と料理って感じだから」
「ああ、なるほど……」
「日中はほら、協賛企業様が気を効かせてスタッフを派遣してくださいましたので?」
ちょいと後ろを見れば、ニンカさんの車椅子を押すグライドさんがにこりと笑った。
お仕事中なので会話には入らないと決めているようだけれど、時々目があって優しく微笑み合っている姿が本当に眼福です。
「なるほどです。じゃあ3泊4日高級ホテルの旅ですね」
「そうそう。お庭も綺麗だったし、少し車出せばちょっとくらい買い物もできるっぽいし、出かけてきてもいいよーって。出かけないよって怒られたけど」
「それはそうですよ」
一応介助役として来ているのに緊急対応できないところに移動は、まあ、しにくいと思います。ホテル内も広いし色々設備も充実しているので、そのあたりでのびのび過ごしていただけたらいいですね。
さて、到着。
「絶景かな絶景かな」
「これだけ並んでいると壮観ですね」
いくつかの部屋に分かれているけれど、どの部屋にもずらりと並ぶVRマシン。一つ一つスペックや機能の紹介パネルが置かれている。その隣にメーカーパンフレットなども積まれていて、これは自由に持っていっていいらしい。
……なんでハイエンドモデルってどれもこれも多色に光るんでしょうか?個人的に買うならあまり光らないものがほしいのですが……。そういうもの。伝統。光らないとハイエンドモデルだと思ってもらえない。……なんでです?
スリープモード中でもきらきら光っちゃったら自室に置くと寝にくくないですか?……そういうもの。はい。えーと、はい。あ、とりあえずこれに乗ります。
いくつか説明を受けて、その一つに乗り込んだ。
ニンカさんも近くのマシンを指定して。
わあ、お姫様だっこだ。いいなぁ。写真撮りたかった……。次はカメラを構えておこう。――――流石にだめでしょうかね。
えーと起動シークエンス。ああ、初回起動扱いだからシグナル同期が少し長いですね。
いつもよりもゆっくりと、足元が逆さになるように、意識が沈んだ。




