31-5.対戦相手と
「セリスさんですよね?」
「あ、はい」
抽選も無事に終わり、懇親の時間になった。
ひょこっと顔を出してくださったおるさんとねころさんにご挨拶をして。ジンさんに先程のお礼を述べて。トラキチさんにご挨拶しようと思ったのだけど、抽選が終わったらさくっと居なくなってしまって。そんなこんなでニンカさんとおしゃべりをしていたら、話しかけてきたのは元気な笑顔の男性だった。
えーと、水無瀬ジュンさんですね。
「水無瀬さんですよね、明日は第一試合よろしくお願いします」
「Travanの水無瀬ジュンでーす、よろしくね!よければなんだけど、SNS用に写真撮らせてもらってもいい?」
「あ、えっと、はい。大丈夫です?えーと、すみませんこういった場に慣れていなくて、どうすれば……」
「大会パネルで撮ろっか!マネちゃーん、撮って撮って!」
パネルを挟んで並び一緒に写真を撮る。――SNS投稿はOKです、はい。えーと。あ、はい名刺……すみません私名刺は持っていなくて。
「セリスさんはアイドルとか興味ありませんか?」
「えっと?」
写真を撮ってくださった水無瀬さんのマネージャーさんが、名刺を渡しながら言った。
え、アイドル?テレビで見ますけど、興味を持って追いかけたりは全く……。
「オーディションとか。うち定期オーディションあるんですけど出てみませんか?」
「ああ、所属のお話ですね。興味ないです、申し訳ありません」
「単発モデルとかは、どうでしょう?よかったら今度うちの撮影に同行しませんか?」
「あ、えっと、すみません出演に関するお話は、すべてサザンクロスを通していただくことになっております」
「個人では一切受けてない?」
「現状は。私、本業学生なので管理限界がありまして」
マネージャーさんは一瞬だけ難しい顔をして、それからはいと頷いた。
「依頼はサザンクロス経由ですね、承知しました。ウチ、兼業アイドルも多いので、興味があったら是非!是非!私にご連絡ください」
あ、はい、興味ないですけど、まあ……。
「投稿した~。セリスさんも見といてね~!」
隣でスマホをいじっていた水無瀬さんは、どうやらつぶやいたーに写真を投稿し終えたらしい。
投稿した画面を見せてくださる。ふんふん、こういうのって私もリポストしたほうが多分いいんですよね。やっておかないと。
そうして水無瀬さんはマネージャーさんを引きずって慌ただしく次の挨拶に移動して行った。
「セリス終わったー?」
「ニンカさん、終わりました」
「これからVRマシン乗りに行くんだけど一緒に行かん?」
「ああ、行きたいです、是非」
さて、私も第一試合に向けて、練習しなくちゃですね。
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「どーだった?」
「だめですね、名刺だけです」
「あっそー」
「興味ないですか?」
隣を見れば、ジュンはさして興味もなさそうにスマホをいじっている。
「あそこまで行くとグループ系アイドルには向いてないかな~。ピンでやるならウチじゃないっしょ。モデル部門の方が喜びそーだけど、最近高身長のが流行りだしびみょくない?」
「やるなら完全に彼女を中心にグループを立てる必要がありますね」
「それやるには18はちょーっと遅いって」
「惜しいですね……」
頭はいいと聞いているから、学業系やクイズ系方向で……そうするとやはりソロ運用になるから、ウチだと微妙だな。あの様子なら他所にアイドルとして所属というのはなさそうだし、モデルとしてうちに登録しないかというのを問い合わせで送っておく程度が今はベターか。
あと3年早く出会っていればとつい思ってしまう。そうしたらもっといくらでも道があったのに。
「本当に、惜しい……」
「アイドルってさー」
「ええ」
「アイドルやりたいって気持ちがないとムリじゃん?熱量が命みたいなとこあるし。そこ合ってない子はどんなにかわいくってもムリっしょ」
「それはそうなんですけどねえ」
ジュンの言っていることはもちろんその通りなのだけれど。
熱のないアイドルに、ファンは着いてこない。そんなことは分かっている。分かっているけれど惜しいんですよそこも分かってほしい。
「ねーそれよりもさー、セリスさんのPvP動画全然出てこないんだけどどこにあんの?チャンネル名何?」
「ああ、ないですよ」
「ない……はあ?ないこたないでしょ!?」
「今見ているそのサザンクロスの非公式大会が最新です。それより前だと昨年のペア大会と、その直後のリーダーロイド戦と、オルタナティブコラボ連戦のみです。他のPvP動画はありません」
「うっそでしょ!?ここ半年くらいのは!?大会練習配信とかしてないの!?」
「そもそも彼女個人チャンネル持ってないんで……サザンクロスサブチャンネルの方に、モンスター戦闘動画なら結構ありますよ」
「PvE動画出されてもどーしょーもないんだけどー?」
「だから"初見殺しのセリス"なんですよ。がんばってくださいね」
「うっわー、初手ドハズレじゃん……やーねぇあーんな可愛い顔して物騒な二つ名〜」
ぶつくさと口を尖らせながら、それでもジュンは動画を見始めた。
ゲーム自体の強さは私にはわからないけれど、この姿勢は好ましいと思っている。ファンウケも、スポンサーウケもいい。
「VRマシンの試乗はどうしますか?」
「あーそれはいいや。家で乗ってんのと同じの入ってたから、それ使う。後で練習はするけど」
「新しいのには乗りませんか」
「使い慣れたやつがそこにあんのに、大会でわざわざ新しいの触んのはただの馬鹿っしょ。新しいの試すのは大会終わってからでいーのよ」
「……部屋の方に、グラスディスプレイは用意してありますよ」
「あーそーね、そっちで見るかぁ……この子ほんとに強いんかぁ……?」
ハテと首を傾げたジュンから、とりあえず部屋に行くなら歩きスマホはダメですよとスマホを取り上げた。




