第7話 過去編 無感情(apathy.pcs)
一条律の「鋭すぎる観察眼」は、最初から世界を拒絶するためのものではなかった。
それはただ、母親の顔色を窺い、彼女を笑顔にするための、幼く優しいアンテナだった。
「律、今日のご飯、おいしくできたわよ」
食卓で微笑む母親。
小さな眉の寄せ方。
声のわずかな震え。
十歳にも満たない律は、そんな些細な変化を、誰に教わるでもなく感じ取っていた。
(あ、今日はお母さん、お仕事で少し疲れているな)
そう気づけば、律は自分から食器を運んだ。
学校であった楽しい出来事を、身振り手振りを交えながら話した。
幼いなりに工夫を重ねるたび、母親の疲れた顔には、ぱっと花が咲くような笑顔が戻っていった。
「ありがとう、律。あなたがいてくれて本当に良かったわ」
頭を撫でてくれる手の温もり。
弾けるような笑顔。
律にとって、自らの高い感受性は、世界で一番大好きな母親の笑顔を守り、温かな日常を維持するための大切なものだった。
それから数年。
律が十五歳になる頃まで、その日常は形を変えながら続いていた。
しかし――。
その穏やかな時間は、唐突に現れた不治の病によって、あっけなく崩れ去った。
ベッドに伏せることが増えていく母親。
病は少しずつ、その身体から自由を奪っていった。
最初のうちは、律を安心させようと笑っていた。
けれど、病状が悪化するにつれ、その笑顔は次第に消えていった。
耐え難い激痛。
死への恐怖。
そして、どうすることもできない絶望。
過剰なまでに敏感な律の心には、病床の母親から溢れ出す苦痛が、強烈なノイズとなって直接流れ込んできた。
(お母さんが苦しんでいる)
(僕が……僕が何とかしなきゃ)
「お母さん、大丈夫だよ。僕がずっとそばにいるからね」
律は必死に母親の手を握った。
かつてそうしていたように。
自分が完璧に気遣い、支え続ければ、いつかまた、あの温かな笑顔を取り戻せる。
――そんな幼さゆえの万能感に、律はしがみついていた。
だが。
激痛に耐えかねた母親の瞳には、もう息子の健気な姿すら映っていなかった。
「来ないで……ッ!」
母親が叫び、律の手を振り払った。
激しい拒絶。
「あなたに何が分かるの!?
私のこの痛みが、恐怖が……あなたなんかに分かってたまるもんですか!」
刺さるような言葉。
差し出していた手が、宙で凍りついた。
「お母さん……っ」
それが、最後の言葉だった。
母親は、絶望と苦痛に塗れたまま息を引き取った。
最期の瞬間まで、彼女の心に安らぎが訪れることはなかった。
『僕がそばにいたから、お母さんは苦しんだんだ』
『僕という存在そのものが、お母さんを追い詰めるノイズだったんだ』
母親の死によって、律の「高すぎる感受性」は、その瞬間から姿を変えた。
他人を思いやるためのアンテナは、拒絶の記憶と罪悪感だけを拾い続ける、拷問器具になった。
胸を穿つ、圧倒的な喪失感。
絶望の激痛。
その痛みから逃れるように、律はひとつの結論へ辿り着いた。
――こんな感情なら、もう要らない。
――僕が心を閉じれば、誰も苦しまずに済む。
耐え難い精神的苦痛から自分を守るため、律の心は自ら感情への接続を切断した。
涙も出ない。
悲しみも湧かない。
喜びも、怒りも。
少年・一条律の心は、完全な無音へと沈んでいった。
――無感情の拒絶状態。
apathy.pcs。
*
母親の質素な葬儀が終わった後も、律は病院の廊下にあるベンチにぽつんと座り続けていた。
ひやりとした壁に背を預け、膝の上に重ねた両手をじっと見つめている。
周囲を行き交う医師や看護師の足音。
機材の金属音。
どこかから聞こえる、誰かの啜り泣く声。
それらすべてが、分厚い水底から聞いているように遠かった。
意味のないノイズとして、ただ耳を通り過ぎていく。
(僕が無力だったからだ)
感情を閉ざしたはずの胸の奥で、ひとつの思考だけが機械のように繰り返されていた。
(僕が近づくから、お母さんは苦しんだ)
(僕の手が、僕の言葉が、お母さんを追い詰めた)
(……僕という存在そのものが、欠陥品だったんだ)
世界との関わりを拒絶した少年は、やがて自分自身の存在まで消そうとしていた。
極度の肉体的な衰弱。
精神的な過負荷。
視界の端から、徐々に色が失われていく。
白く濁る世界。
身体から力が抜け、律はベンチから滑り落ちるように床へ倒れ込んだ。
そして、その意識は深い闇へ沈んでいった。
――カツ、カツ。
病院の静けさを無遠慮に切り裂く足音が近づいてくる。
白衣をだらしなく羽織った女性が、床に倒れた少年を見下ろしていた。
ぼさぼさの髪。
口には棒付き飴。
片方の頬だけが、不自然に膨らんでいる。
「……ハッ」
女性――神楽坂鏡花は、退屈そうに目を細めた。
「無感情エラーを装った、自己消去のループ……か」
しゃがみ込み、律の顔を覗き込む。
生気を失った、人形のような顔。
だが、その閉じられた瞼の奥で、精神が激しいエラーを起こしていることを、鏡花の目は見逃さなかった。
鏡花は白衣のポケットから、古びた小型端末を取り出した。
画面に冷たいシステムログが走る。
[SYSTEM LOG]
ERROR DETECTED
PROCESS : apathy.pcs
STATUS : 意識応答なし
PATIENT : 一条律
鏡花はしゃがみ込み、律の顔を覗き込んだ。
「……聞こえてるか、ガキ」
返事はない。
だが、端末の波形だけが微かに揺れた。
[SYSTEM LOG]
PROCESS : apathy.pcs
STATUS : 同期中
「図々しいんだよ、ガキ」
ガリッ。
口の中の飴を噛み砕く。
「自分だけ悲劇の主人公気取って、フリーズしてんじゃねえよ」
端末の表示が切り替わる。
[SYSTEM LOG]
PROCESS : apathy.pcs
STATUS : 接続確立
「……まあいい」
「せいぜい、自分のバグの深さに絶望しな」
鏡花は処置用のパイプ椅子を引き寄せ、乱暴に腰を下ろした。
右手を高々と掲げる。
――パチン。
甲高い指鳴らしの音が、病院の喧騒を切り裂いた。
その瞬間。
周囲の現実音が急速に遠のいていく。
白衣の女性――神楽坂鏡花の視界から、病院の廊下が剥がれ落ちる。
意識は、そのまま律の精神深層――PCS空間へと沈み込んでいった。
*
――ザァァァァァァ……!
そこは、冷たい暴風雨と、どす黒いノイズが渦巻く、果てしない絶望の回廊だった。
灰色の空間。
砕け散ったガラス。
濡れたアスファルト。
そこかしこに、膝を抱えて石のように固まっている少年期の律の残像が無数に放置されている。
一人。
また一人。
何百人もの律。
全員が同じ場所で、同じ絶望に囚われたまま、永遠に静止している。
空間全体には、鼓膜を突き刺すような女性の悲痛な叫びが反響していた。
『来ないで……ッ!』
『あなたに何が分かるの!?』
『お願いだから……あっちへ行って、律!!』
鏡花は忌々しそうに息を吐いた。
「……ハッ。胸糞悪い空間だな」
これは母親の本当の声。
だが同時に、このPCS空間においては、十五歳の律がその一瞬を何度も再生し、自分自身の解釈によって歪め続けたバグデータでもあった。
「……ガキが」
鏡花は周囲を見渡す。
「一人で勝手にデータを歪めて、絶望に酔ってやがる」
回廊の奥。
砕け散ったガラスの破片が舞い散る中心地で、少年期の律は無数の黒いコードに全身をがんじがらめに縛られていた。
「誰だ、あんた……っ!?」
律が顔を上げる。
その瞳には激しい警戒と拒絶が宿っていた。
「僕の心に勝手に入ってくるな!」
「出ていけよ!」
「母さんは僕を嫌ってた……!」
「僕は要らない子だったんだ!」
「放っておいてくれよ!!」
<<WARNING: REJECTION PROTOCOL LEVEL MAX>>
律の強烈な拒絶反応に反応し、PCS空間が激しく暴走を始める。
周囲の景色がぐにゃりと歪む。
雨が逆巻き、黒いノイズが濁流となって押し寄せてくる。
そして――。
同じ惨劇が、再び再生された。
病室。
苦しむ母親。
差し出される少年の手。
振り払われる手。
「来ないで……ッ!」
「うあああああああっ!!」
律の悲鳴とともに、強烈なノイズの濁流が鏡花を襲う。
だが。
鏡花は倒れなかった。
泥とノイズにまみれながらも、一歩ずつ踏み出していく。
「……ったく」
もう一歩。
「うるせえんだよ」
さらに一歩。
「そんなに自分を傷つけて、何がしたいんだ、ガキ」
そして――。
鏡花は律の傍らへ辿り着くと、力任せにその小さな肩を強く抱きとめた。
「ッ……!?」
律の身体が跳ねる。
「離せ! 触るな……っ!!」
「……黙って聞いてろ、ガキ」
鏡花の低く、揺るぎない声が、暴走する精神を真正面から打ち据える。
「ああ、お前は傷ついた」
「母親はお前を拒絶した」
「差し伸べた手を振り払われた」
「その後、お前は母親を失った」
「お前が絶望したのも、怖かったのも、全部事実だ」
律の身体が、わずかに止まる。
「……辛かったな」
「……っ!?」
見知らぬ大人が、自分の負った傷を否定しなかった。
「だがな、ガキ」
鏡花は律の目を正面から見据える。
「その『手を振り払われた』っていう、たった一度の例外データだけで――」
「お前は十五年間のログ全体を、『僕は愛されていなかった』って書き換えたんじゃねえのか?」
「……書き換えた……?」
「そんなはず……っ!」
律は必死に首を振る。
「だって母さんは、あの時、僕を拒絶した……!」
「そうさ」
鏡花は即答した。
「拒絶された。それは事実だ」
「だからこそ、そこだけを切り取るな」
鏡花は律の胸元に刻まれた黒いコードを指差す。
「目の前の一点だけに囚われて、全体を潰すな」
「お前のログを巻き戻してみろ」
「そこにあるデータは、本当に『拒絶』だけだったのか?」
「……」
律の瞳が揺れる。
「思い出してみろ」
「お前の母親は、本当に――最初から最後まで、お前を嫌っていたのか?」
「……あ……」
鏡花の言葉が、律の頭の中に固着していたバグデータへ亀裂を入れる。
律は必死に、自分自身の記憶のログを検索した。
雨の日に手を振り払われる、その前の記憶。
熱を出した夜。
朝まで付きっきりで額を冷やしてくれた、温かな手。
泣きじゃくった自分を優しく抱きしめ、頭を撫でてくれた母親の匂い。
学校から帰れば、「おかえり」と笑ってくれた声。
食卓で向けられた、心からの笑顔。
そして――。
『ありがとう、律。あなたがいてくれて本当に良かったわ』
その言葉が、記憶の奥底から蘇った。
ずっとそこにあった。
十五年間の「愛された記録」。
――シィン……。
その瞬間。
空間全体で猛烈に鳴り響いていた『来ないで!!』という拒絶のノイズが、まるで世界の時が止まったかのように、一瞬で途絶えた。
何百人もの律の残像も、動きを止める。
「……あ…………ぁ……っ」
律の瞳から、大粒の涙が溢れ出した。
新しい証拠が見つかったわけではない。
最初から、そこにあった。
自分はずっと母に愛されていた。
それなのに。
あの日の「拒絶」という一つのデータだけを切り取り、それまでの十五年間すべてを否定するように、自分自身の手で記憶を書き換えていた。
「母さんは……」
律の声が震える。
「僕を嫌ってなんか……無かった……っ」
涙が頬を伝う。
「あの時の母さんは……ただ……」
言葉が詰まる。
「怖くて……苦しくて……もう、何も見えなくなっていただけなんだ……」
鏡花は何も言わない。
ただ、律を見ている。
「僕は……」
律は自分の胸を掴んだ。
「僕はずっと……愛されていたんだ……」
「それなのに……」
嗚咽が漏れる。
「僕は自分で、自分を『要らない子』にしてたんだ……!!」
その瞬間。
律を縛っていた黒いコードの一本が、音を立てて砕けた。
そして。
もう一本。
さらに一本。
「……違う」
律が顔を上げる。
「僕が母さんを苦しめたんじゃない」
「僕は……母さんを救えなかったことが、怖かったんだ」
「だから……母さんに拒絶された理由を、全部自分のせいにした」
「その方が……まだ、自分に何かできたって思えたから……」
鏡花の口元が、ほんのわずかに緩む。
「……そこまで分かれば、十分だ」
律は涙を拭う。
「母さんも……ただの人間だったんだ」
「弱くて、怖くて、苦しくて……それでも僕を愛してくれていた」
律は涙を拭った。
「……もう、あの日の言葉だけで、母さんの全部を決めない」
その言葉を、律自身が選んだ瞬間。
[PCS SYSTEM]
Exit Do
[SYSTEM LOG]
UNLOOP_SUCCESS: apathy.pcs
世界が震えた。
回廊を覆っていた何百人もの「絶望した律の残像」が、一斉に柔らかな光の粒子となって空へ舞い上がっていく。
荒れ狂っていた暴風雨が止む。
黒いノイズが消えていく。
暗闇の空間へ、澄み渡る温かな陽光が降り注ぐ。
律の身体を縛っていた黒いコードも、跡形もなく消え去った。
長い間、少年を閉じ込めていた世界が、静かに崩壊していく。
律は、ただ呆然とその光を見つめていた。
「これが……」
震える声。
「これが……デバッグ……?」
鏡花は懐から端末を取り出し、消えかけたエラーログを眺める。
「そうだ」
そして律を見る。
「他人の言葉を鵜呑みにすることでもねえ」
「都合のいい答えを押し付けることでもねえ」
「自分自身のログを見直して、歪んだデータを見つけ出す」
「その上で――自分の頭で、本当の答えを掴み取る」
鏡花は立ち上がる。
「それがデバッグだ」
律は、静かにその言葉を噛み締めた。
「……自分で……」
「そうだ」
「自分で……僕自身のバグを見つけた……」
「なら上出来だ」
鏡花は背を向ける。
光の満ちる出口へ向かって歩き出した。
「帰るぞ、ガキ」
少し歩いたところで、鏡花が振り返らずに言う。
「……ま、そのへんのノイズまみれの奴らよりは、お前の方が少しは筋が良い」
「勝手についてくるなら、拒みはしねぇよ」
その背中は、ぶっきらぼうだった。
けれど。
不思議と温かかった。
まるで、自分の姿をそのまま映し出す――鏡のようだった。
*
精神世界の光が薄れ、病院の足音が少しずつ戻ってきた。
白濁していた律の視界に、病院の無機質な天井が戻ってくる。
蛍光灯の光。
硬い床の感触。
鼻を刺す消毒液の匂い。
「……う、あ……っ」
律の目から、温かな涙がこぼれ落ちた。
頬を伝い、床へ落ちていく。
切断されていたはずの感情回路が、再び脈打っている。
胸を締め付ける喪失感。
それでも――。
ちゃんと息をしているという実感。
無感情の拒絶状態――apathy.pcsの無限ループから、律は確かに抜け出していた。
「……ふう」
頭上から、軽薄な声が降ってくる。
「まあ、手遅れになる前に目覚めたようで何よりだ」
律は涙で滲む視界を拭い、顔を上げた。
そこには、白衣をだらしなく羽織った女性がいた。
神楽坂鏡花。
口には、新しい棒付き飴。
彼女はパイプ椅子に深々と腰掛け、だるそうに律を見下ろしている。
「あ……あんた、は……」
「通りすがりの親切なデバッガーだよ」
鏡花は肩をすくめる。
「……と言いたいところだが、お前を助けた覚えはねえ」
立ち上がる。
端末をポケットへ乱暴に放り込む。
そして、律に背を向けた。
「エラーを解読して、ループを抜ける選択をしたのは――お前自身だ」
足音が響く。
「過去のトラウマに囚われて自爆するか」
「それとも、未熟な自分を受け入れて前を向くか」
鏡花は振り返らない。
「これからどう生きるかも――お前自身が決めろ」
その背中は、冷たく突き放しているように見えた。
けれど律には、その姿が不思議と温かく見えた。
まるで、自分の姿をそのまま映し出す――鏡のようだった。
律は震える手で、病院の冷たい壁を支えた。
そして、ゆっくりと立ち上がる。
母親を救えなかった無力な自分。
自分だけが母親を傷つけたと思い込み、逃げ続けていた未熟な自分。
そのすべてを受け入れた胸の奥に、ひとつの意志が芽生えていた。
(……僕は、逃げない)
(もう二度と、自分の解釈から目を背けたりしない)
遠ざかる背中を見つめる。
「……待ってくれ!」
鏡花の足が止まった。
振り返りはしない。
ただ、呆れたように片眉を上げる気配だけが伝わってくる。
「名前を……教えてくれ」
律は涙を拭った。
「あんたは……僕のバグを直したんだろ?」
「ハッ」
鏡花が小さく笑う。
「バカ言え」
肩をすくめる。
そして――。
去り際に、右手を高々と掲げた。
「言っただろ」
「お前のバグを直したのは、お前自身だ」
一瞬の沈黙。
「……人に名前を尋ねる前に」
鏡花は背を向けたまま言った。
「まず、自分自身の足で歩き出してみせな」
「一条律」
律の名を呼んで。
鏡花は――。
「――パチン」
指を鳴らした。
病院の廊下に、静かな指鳴らしの音が響いた。
その音は、少年の新しい人生の始まりを告げる合図のように、律の胸の奥深くへ刻み込まれた。
やがて鏡花の姿が、廊下の角の向こうへ消えていく。
律は、その場から動かなかった。
流れる涙を袖で力強く拭う。
そして――。
去り際の鏡花と同じように、右手をゆっくりと掲げた。
まだ小さく、拙い指先。
それを静かに合わせる。
――パチン。
小さく、不器用な音が、静まり返った廊下に微かに爆ぜた。
律は、その音を聞きながら思う。
もし。
自分と同じように、精神の迷路の中で、自らのバグに苦しんでいる誰かがいるのなら。
もし、その人が――。
自分自身を傷つけるための「嘘の絶望」に閉じこもっているのなら。
今度は、自分がその人の前に立とう。
その人が見失ったものを、映し出せる存在になろう。
――鏡になる。
母親を救えなかった自分。
自分自身の心さえ救えなかった自分。
そんな未熟な少年だったからこそ、分かったことがある。
人は、自分の心の中にある「解釈」というフィルターひとつで、過去の意味すら変えてしまう。
だからこそ。
その人が見失ったものを、もう一度映し出せる存在になりたい。
冷徹で。
誰よりも本質を見抜き。
人の心に潜む「バグ」を解き明かすデバッガー。
一条律。
その原点は、この日――。
誰にも知られない病院の廊下で、静かに産声を上げた。




