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レイキューブ!  作者: 坂井千秋
霊球部、県大会決勝を戦う
47/48

6-3-4

 試合は進む。十一対十四、十二対十四、十二対十五、十三対十五、十四対十五……。

 そして――

「ナイスゴール、シンタ!」

「ガゥガゥ」

 十六点目が、先にうちのチームに入った。

「……けない」

 振り返る。椛上が、わなわなと肩を震わせている。

「負けない。わたしが純を……このチームを、全国に連れていく……」

「……」

 位置につく。ホイッスルが鳴る。忍者と前髪の連係で敵に点を奪われる。十六点目。霊球にデュースはない。おたがいにマッチポイント。

 次の一点で勝敗が決まる。

 ホイッスルが鳴った。

 あたしからシンタ、シンタから咲、咲からまなへとパスが渡る。

「あっ――!」

 まなが敵にボールを奪われる。途中出場のウサギ。でかい図体の割に俊敏だ。

 ウサギから忍者にパス。忍者から前髪へと。ゴールに向かわれる。

「うぅおぉぉぉぉぉっ‼」

 ペナルティエリア寸前。前髪の忍者へのパスを、辰樹が体を張ってくい止めた。すごい叫び声。ルキかと思った。

 辰樹がすぐさま起き上がり、腕を振り上げる。

「走れ、弥里ぉっ!」

「弥里先輩!」

「みーちゃん!」

 ロングパスが、あたしに向かって飛んでくる。両手でそれをしっかり受けた。相手ゴールに向かって、全力で地面を蹴る。

「行かせないッ‼」

 椛上が追ってくる。すごいスピード。あとすごい顔。もはやクールビューティーの面影もない。

 中三の県大会。前の走者がテイクオーバーゾーン前のコーナーを曲がった段階で、あたしたちのチームは敵にリードされていた。でもあたしは、どうでもいいと思った。関係ないと思った。あたしが最後に全員抜いてゴールすればいいんでしょと思っていた。あたしの前を走る彼女がいまどこにいるのかを、あたしはよく見ていなかった。

「はっ、はぁ、はぁっ」

 椛上が、呼吸を乱しながら追ってくる。いまならわかる。あんたを見てるとなぜイラつくのかを。あんたが、誰に似てるのかを。

 いまボールを運んでいるのはあたし一人。でもこのボールは、あたし一人だけのものじゃない。勝たせるんじゃない。勝つんだ、みんなで。

 ゴールが目前に迫る。

「――っ⁉」

 バチバチと、手もとから光が散った。ボールが後ろに吸い寄せられる。慌てて追おうとして、その場に膝から転んだ。

 顔を上げる。椛上の後ろに狐女が立っていた。

「はっ、ははっ、はぁ、はぁ、あはは」

 息を切らしながら椛上は笑う。

「かかったわね。作戦勝ちよ。この一点のために、リンネの霊力を残していたの」

 狐女が両手のひらを合わせる。現出した狐火がボールの周りを囲む。いま飛ばれたら、この位置からでは間に合わない。

 でも――

 ドッ、と音が鳴った。何かがボールにぶつかった音。浮き上がりかけていた狐火の輪の中から、ボールが地面に転がり落ちた。

「ッ⁉ リンネ、なにをやってるの⁉」

 椛上の考えはわかってた。あたしだったらそうすると思ったから。能力を最後の一点のために残す。だからあたしも、そうした。

 転がったボールを、椛上は慌てて拾おうとする。その横から一体の狐火が素早くやってきて、ボールを奪った。押したのではなく、ふわりと浮かせて。

「なっ――」

 蜘蛛の巣は、焼き払うこともできた。そうしなかったのは、試合を偵察に来ているかもしれない未来の敵に、この姿を見せないため。

 一試合の中で、ヒューイが変身できるものの種類は一種類のみ。でも一つだけ、例外がある。それはひとだまの姿。理由はわからない。それがヒューイの「元来の姿」だからかもしれない。いずれにせよ、この試合で初めて狐火を目にしたとき、「あ、似てるな」と思った。ちらと見ると、ふふ、これは何かに使えそうだぜ、とでもいうような、悪い顔をしている相棒の姿が見えた。たぶんあたしも同じ顔をしていた。

 ボンッ、と音がした。ヒューイが変身を解いた音だろう。直接見ていないのは、もうゴールに向けて走り出していたから。あたしたちの仕組んだこの悪だくみについて、椛上にじっくり語って聞かせてやりたいところではある。でも生憎、そんな時間はない。我に返った狐女にまたあの能力を使われる前に、ペナルティエリアまで到達していなければならない。

「ひゅい!」

 ヒューイの声。見なくてもわかる。あいつがどこに、どのくらいの強さで投げたか。まだひとだまのころから、パスはふたりで散々練習したから。

 ヒューイからのパスを後ろ手で受ける。しっかり握る。絶対、落とさない。ペナルティエリアのラインを越える。

「き、き、……」

 椛上の声がする。

「希原弥里ぉぉぉぉッ――――‼」

 悔しさに溢れた絶叫。説明しなくても気づいたか、さすが椛上。でもあたしのほうが一枚上手。なぜならあたしは、倒すと決めた相手は必ず倒す、殺人鬼のような女だから。

 ていうか名前、覚えてたんだ。あたしもきっと、あんたのことは忘れない。

 ボールが皿の上に載る。最後の笛の音が鳴り響いた。

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