6-3-4
試合は進む。十一対十四、十二対十四、十二対十五、十三対十五、十四対十五……。
そして――
「ナイスゴール、シンタ!」
「ガゥガゥ」
十六点目が、先にうちのチームに入った。
「……けない」
振り返る。椛上が、わなわなと肩を震わせている。
「負けない。わたしが純を……このチームを、全国に連れていく……」
「……」
位置につく。ホイッスルが鳴る。忍者と前髪の連係で敵に点を奪われる。十六点目。霊球にデュースはない。おたがいにマッチポイント。
次の一点で勝敗が決まる。
ホイッスルが鳴った。
あたしからシンタ、シンタから咲、咲からまなへとパスが渡る。
「あっ――!」
まなが敵にボールを奪われる。途中出場のウサギ。でかい図体の割に俊敏だ。
ウサギから忍者にパス。忍者から前髪へと。ゴールに向かわれる。
「うぅおぉぉぉぉぉっ‼」
ペナルティエリア寸前。前髪の忍者へのパスを、辰樹が体を張ってくい止めた。すごい叫び声。ルキかと思った。
辰樹がすぐさま起き上がり、腕を振り上げる。
「走れ、弥里ぉっ!」
「弥里先輩!」
「みーちゃん!」
ロングパスが、あたしに向かって飛んでくる。両手でそれをしっかり受けた。相手ゴールに向かって、全力で地面を蹴る。
「行かせないッ‼」
椛上が追ってくる。すごいスピード。あとすごい顔。もはやクールビューティーの面影もない。
中三の県大会。前の走者がテイクオーバーゾーン前のコーナーを曲がった段階で、あたしたちのチームは敵にリードされていた。でもあたしは、どうでもいいと思った。関係ないと思った。あたしが最後に全員抜いてゴールすればいいんでしょと思っていた。あたしの前を走る彼女がいまどこにいるのかを、あたしはよく見ていなかった。
「はっ、はぁ、はぁっ」
椛上が、呼吸を乱しながら追ってくる。いまならわかる。あんたを見てるとなぜイラつくのかを。あんたが、誰に似てるのかを。
いまボールを運んでいるのはあたし一人。でもこのボールは、あたし一人だけのものじゃない。勝たせるんじゃない。勝つんだ、みんなで。
ゴールが目前に迫る。
「――っ⁉」
バチバチと、手もとから光が散った。ボールが後ろに吸い寄せられる。慌てて追おうとして、その場に膝から転んだ。
顔を上げる。椛上の後ろに狐女が立っていた。
「はっ、ははっ、はぁ、はぁ、あはは」
息を切らしながら椛上は笑う。
「かかったわね。作戦勝ちよ。この一点のために、リンネの霊力を残していたの」
狐女が両手のひらを合わせる。現出した狐火がボールの周りを囲む。いま飛ばれたら、この位置からでは間に合わない。
でも――
ドッ、と音が鳴った。何かがボールにぶつかった音。浮き上がりかけていた狐火の輪の中から、ボールが地面に転がり落ちた。
「ッ⁉ リンネ、なにをやってるの⁉」
椛上の考えはわかってた。あたしだったらそうすると思ったから。能力を最後の一点のために残す。だからあたしも、そうした。
転がったボールを、椛上は慌てて拾おうとする。その横から一体の狐火が素早くやってきて、ボールを奪った。押したのではなく、ふわりと浮かせて。
「なっ――」
蜘蛛の巣は、焼き払うこともできた。そうしなかったのは、試合を偵察に来ているかもしれない未来の敵に、この姿を見せないため。
一試合の中で、ヒューイが変身できるものの種類は一種類のみ。でも一つだけ、例外がある。それはひとだまの姿。理由はわからない。それがヒューイの「元来の姿」だからかもしれない。いずれにせよ、この試合で初めて狐火を目にしたとき、「あ、似てるな」と思った。ちらと見ると、ふふ、これは何かに使えそうだぜ、とでもいうような、悪い顔をしている相棒の姿が見えた。たぶんあたしも同じ顔をしていた。
ボンッ、と音がした。ヒューイが変身を解いた音だろう。直接見ていないのは、もうゴールに向けて走り出していたから。あたしたちの仕組んだこの悪だくみについて、椛上にじっくり語って聞かせてやりたいところではある。でも生憎、そんな時間はない。我に返った狐女にまたあの能力を使われる前に、ペナルティエリアまで到達していなければならない。
「ひゅい!」
ヒューイの声。見なくてもわかる。あいつがどこに、どのくらいの強さで投げたか。まだひとだまのころから、パスはふたりで散々練習したから。
ヒューイからのパスを後ろ手で受ける。しっかり握る。絶対、落とさない。ペナルティエリアのラインを越える。
「き、き、……」
椛上の声がする。
「希原弥里ぉぉぉぉッ――――‼」
悔しさに溢れた絶叫。説明しなくても気づいたか、さすが椛上。でもあたしのほうが一枚上手。なぜならあたしは、倒すと決めた相手は必ず倒す、殺人鬼のような女だから。
ていうか名前、覚えてたんだ。あたしもきっと、あんたのことは忘れない。
ボールが皿の上に載る。最後の笛の音が鳴り響いた。




