6-3-3
「――と、いうわけで、よろしく、みんな!」
そう言って、拳を突き出す。
「いや、よろしくって、お前……」
「いいから、黙って手ぇ出せ、このビビり」
咲が拳を出しながら言う。
「ああっ⁉ だからビビッてねえっつってんだろ! 俺はただ……」
「辰樹くん。みーちゃんを信じて」
言いながら、まなも拳をそっと出す。
「……まなさんが、そう言うなら」
渋々といった調子で辰樹が拳を出す。それに霊体たちも続いた。
「よし。それじゃあいくよ、みんな!」
「オゥッ‼」
みんなの声と拳が合わさる。
タイムアウトを終え、走って自分の位置に行く。審判からあらためてボールを渡される。さーせん、と頭を下げた。
相手と向かい合う。
もはや作戦会議とは呼べない作戦会議。成功するかはわからない。でも、恐れはない。これまでもずっとそんな感じだったし、それに――
「みんなを、信じてるからね」
ホイッスルが鳴る。あたしは駆け出した。
忍者の横を過ぎる。手もとからバチバチと光が散る。もう慣れたけど、やっぱり眩しい。片目を閉じる間に、ボールはあたしの手を離れ、狐女のもとへ行く。ケーーーーーン、と聞き慣れた高い声が響く。
ボールが狐火と共に浮き上がる。ふよふよとこちらに向かってくる。
相手選手たちの顔が目に入る。さっき見たときと同じ顔。ほっとしたような、でもどこかさみしそうな顔。
――まだやるの?
それが正解かはわからない。でもいまは、こう言えばよかったと思う。
うん。みんなももうちょっと、一緒にやってかない?
空を行くボールが頭上に迫る。あたしは言った。
「ヒューイ!」
「ひゅいっ!」
餅に似たあたしの相棒は、まるでフラダンスを踊るかのように体を左右にクネクネさせる。毎度のことながら、変化のときのこのダサい動きはどうにかならないものか。
ボンッ、と煙が上がる。変身完了。煙の中から現れたのは、体操競技用の大きなトランポリンだ。部室にあるトランポリンと瓜二つ。さすがはあの部屋で一年間、だらだらと一緒に過ごしてきただけある。
「なっ、まさか……」
椛上の声。そのまさかだよ。よっ、とあたしはヒューイトランポリンの上に跳び乗る。
「ひゅい、ひゅひゅい」
あたしが跳ねるのに合わせてヒューイが声を出す。なんか楽しそうだな、こいつ。まあ、どうせならあたしも楽しもう。ちょうど頭の上に来たボールに狙いを定める。
トランポリンを使ったからって、素人のあたしがどれだけ跳べるかはわからない。だけど、ヒューイトランポリンなら話は別だ。お前、霊力で弾くのは得意だもんな?
「ひゅいっ」
返事をするようにヒューイが言った。よし、行こう。頼むぞ、相棒。
両足と腹に、ぐっと力を入れる。
「いくよ、ヒューイッ!」
「ひゅいーっ!」
あたしの体が勢いよく上に跳ね上がる。ボールめがけて一直線に飛んでいく。
「ぬぅおおぉぉぉぉぉっ‼」
周りを囲む狐火の間から、手がボールに触れた。バチバチと光が散る。狐火の抵抗を感じる。
「よこせえぇぇぇぇぇっ‼」
ボールを持った手を力いっぱい自分の側に引く。胸にかき抱く。もう絶対やらん、と中心がからっぽになった狐火の輪を睨み付ける。ひっ、と狐火が声を発した気がした。
だが、実際そう声を出したのは自分のほうだったのかもしれない。ボールを奪うことだけを目的に、着地を考えずに跳んだあたしの体は、なにもない地面めがけて落下していく。
「う、うあぁぁぁぁぁ――!」
「ウォォォォォォォォ――!」
ドスッ、とあたしの体がルキの腕の中に収まる。よかった、ルキで。もしメメだったら、潰しちゃってたかもしれない。
さっき(無理やり)とったタイムアウト。作戦会議とは呼べない作戦会議で、あたしがみんなに伝えたのはこの二つ。すなわち、「あたしがヒューイトランポリンでジャンプしてボールを奪う」、「どこに落ちるかわからないからみんなうまくキャッチして」。
「無茶するぜ、ったく」
ほっとした半分、呆れ半分の顔で辰樹が言う。辰樹も近くで構えていてくれたようだ。
「みんなを信じてたからね」
「信じるっていうより、ほぼ脅迫だろ、これ……」
「弥里先輩っ!」
咲が敵陣の方向を指さす。さすが霊球バカ、先輩の無事より試合が優先。でも、それでいい。
ルキにボールを渡し、走り出しながらあたしは言った。
「速攻ぉーーーーーっ‼」
ルキからのロングパスが前に飛ぶ。それをシンタがキャッチしたところで、敵はようやくはっとしたように動き出した。まなとメメがすでに前に行っている。さすが状況を読むのに長けたふたり。シンタと連係し、まだどこかぼんやりしている敵の守備の間を抜けていく。
「リンネ、なにやってるの? 早く狐火を呼び戻しなさい!」
焦った様子で椛上が言う。お? もしかしてあの磁石みたいなやつは、狐火がいないとできないのか? なら好都合。
前を行く三人に後ろから追い付く。四人の連係で守備をかわし、最後はあたしが十点目のゴールを決めた。
椛上に向き直る。
「まだ諦めない! 絶対に勝つ!」
「……ッ!」
椛上が忌々しそうにあたしを睨む。
自陣に戻り、配置につく。ホイッスルが鳴る。
敵は攻めてこない。後方の狐女へとボールを繋ぐ。
「リンネ! もっとボールを高く上げなさい! 敵が絶対に届かないくらいに!」
「ケーーーーーン――!」
狐女はいっそう高い声で鳴く。それと呼応するように、ボールはこれまでよりさらに高く舞い上がる。これは想定外。
でも、諦めない。ゴールに近くなれば、さすがに高度を落とさざるを得ないはず。そこをヒューイトランポリンで――
と考えた、そのときだった。
空を飛ぶ狐火が突然、ふっと姿を消した。忽然と取り残されたボールが落下してくる。ちょうど真下にいたあたしの腕の中にすぽっと収まった。
「――へ?」
「リンネ? いったい――」
「ケ、ケー……ン……」
狐女は弱々しく首を振る。椛上が何かに気づいたように、バッとベンチのほうに首を向ける。
「……ごめん、霊力を全部は送っていない。僕は、ちーちゃんと同じくらい、フータのことも大事だから……」
「プ、プクプク……」
唖然とした顔で椛上は立ち尽くす。
「どうやら、ガス欠ってことみたいね」
はっとしたように椛上が振り向く。あたしは息を吸い、言った。
「蔟井西高校霊球部、突撃ィーーーっ!」
「オォゥッ‼」
仲間たちと共に、あたしは駆け出した。




