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レイキューブ!  作者: 坂井千秋
霊球部、県大会決勝を戦う
46/48

6-3-3

「――と、いうわけで、よろしく、みんな!」

 そう言って、拳を突き出す。

「いや、よろしくって、お前……」

「いいから、黙って手ぇ出せ、このビビり」

 咲が拳を出しながら言う。

「ああっ⁉ だからビビッてねえっつってんだろ! 俺はただ……」

「辰樹くん。みーちゃんを信じて」

 言いながら、まなも拳をそっと出す。

「……まなさんが、そう言うなら」

 渋々といった調子で辰樹が拳を出す。それに霊体たちも続いた。

「よし。それじゃあいくよ、みんな!」

「オゥッ‼」

 みんなの声と拳が合わさる。

 タイムアウトを終え、走って自分の位置に行く。審判からあらためてボールを渡される。さーせん、と頭を下げた。

 相手と向かい合う。

 もはや作戦会議とは呼べない作戦会議。成功するかはわからない。でも、恐れはない。これまでもずっとそんな感じだったし、それに――

「みんなを、信じてるからね」

 ホイッスルが鳴る。あたしは駆け出した。

 忍者の横を過ぎる。手もとからバチバチと光が散る。もう慣れたけど、やっぱり眩しい。片目を閉じる間に、ボールはあたしの手を離れ、狐女のもとへ行く。ケーーーーーン、と聞き慣れた高い声が響く。

 ボールが狐火と共に浮き上がる。ふよふよとこちらに向かってくる。

 相手選手たちの顔が目に入る。さっき見たときと同じ顔。ほっとしたような、でもどこかさみしそうな顔。

 ――まだやるの?

 それが正解かはわからない。でもいまは、こう言えばよかったと思う。

 うん。みんなももうちょっと、一緒にやってかない?

 空を行くボールが頭上に迫る。あたしは言った。

「ヒューイ!」

「ひゅいっ!」

 餅に似たあたしの相棒は、まるでフラダンスを踊るかのように体を左右にクネクネさせる。毎度のことながら、変化のときのこのダサい動きはどうにかならないものか。

 ボンッ、と煙が上がる。変身完了。煙の中から現れたのは、体操競技用の大きなトランポリンだ。部室にあるトランポリンと瓜二つ。さすがはあの部屋で一年間、だらだらと一緒に過ごしてきただけある。

「なっ、まさか……」

 椛上の声。そのまさかだよ。よっ、とあたしはヒューイトランポリンの上に跳び乗る。

「ひゅい、ひゅひゅい」

 あたしが跳ねるのに合わせてヒューイが声を出す。なんか楽しそうだな、こいつ。まあ、どうせならあたしも楽しもう。ちょうど頭の上に来たボールに狙いを定める。

 トランポリンを使ったからって、素人のあたしがどれだけ跳べるかはわからない。だけど、ヒューイトランポリンなら話は別だ。お前、霊力で弾くのは得意だもんな?

「ひゅいっ」

 返事をするようにヒューイが言った。よし、行こう。頼むぞ、相棒。

 両足と腹に、ぐっと力を入れる。

「いくよ、ヒューイッ!」

「ひゅいーっ!」

 あたしの体が勢いよく上に跳ね上がる。ボールめがけて一直線に飛んでいく。

「ぬぅおおぉぉぉぉぉっ‼」

 周りを囲む狐火の間から、手がボールに触れた。バチバチと光が散る。狐火の抵抗を感じる。

「よこせえぇぇぇぇぇっ‼」

 ボールを持った手を力いっぱい自分の側に引く。胸にかき抱く。もう絶対やらん、と中心がからっぽになった狐火の輪を睨み付ける。ひっ、と狐火が声を発した気がした。

 だが、実際そう声を出したのは自分のほうだったのかもしれない。ボールを奪うことだけを目的に、着地を考えずに跳んだあたしの体は、なにもない地面めがけて落下していく。

「う、うあぁぁぁぁぁ――!」

「ウォォォォォォォォ――!」

 ドスッ、とあたしの体がルキの腕の中に収まる。よかった、ルキで。もしメメだったら、潰しちゃってたかもしれない。

 さっき(無理やり)とったタイムアウト。作戦会議とは呼べない作戦会議で、あたしがみんなに伝えたのはこの二つ。すなわち、「あたしがヒューイトランポリンでジャンプしてボールを奪う」、「どこに落ちるかわからないからみんなうまくキャッチして」。

「無茶するぜ、ったく」

 ほっとした半分、呆れ半分の顔で辰樹が言う。辰樹も近くで構えていてくれたようだ。

「みんなを信じてたからね」

「信じるっていうより、ほぼ脅迫だろ、これ……」

「弥里先輩っ!」

 咲が敵陣の方向を指さす。さすが霊球バカ、先輩の無事より試合が優先。でも、それでいい。

 ルキにボールを渡し、走り出しながらあたしは言った。

「速攻ぉーーーーーっ‼」

 ルキからのロングパスが前に飛ぶ。それをシンタがキャッチしたところで、敵はようやくはっとしたように動き出した。まなとメメがすでに前に行っている。さすが状況を読むのに長けたふたり。シンタと連係し、まだどこかぼんやりしている敵の守備の間を抜けていく。

「リンネ、なにやってるの? 早く狐火を呼び戻しなさい!」

 焦った様子で椛上が言う。お? もしかしてあの磁石みたいなやつは、狐火がいないとできないのか? なら好都合。

 前を行く三人に後ろから追い付く。四人の連係で守備をかわし、最後はあたしが十点目のゴールを決めた。

 椛上に向き直る。

「まだ諦めない! 絶対に勝つ!」

「……ッ!」

 椛上が忌々しそうにあたしを睨む。

 自陣に戻り、配置につく。ホイッスルが鳴る。

 敵は攻めてこない。後方の狐女へとボールを繋ぐ。

「リンネ! もっとボールを高く上げなさい! 敵が絶対に届かないくらいに!」

「ケーーーーーン――!」

 狐女はいっそう高い声で鳴く。それと呼応するように、ボールはこれまでよりさらに高く舞い上がる。これは想定外。

 でも、諦めない。ゴールに近くなれば、さすがに高度を落とさざるを得ないはず。そこをヒューイトランポリンで――

 と考えた、そのときだった。

 空を飛ぶ狐火が突然、ふっと姿を消した。忽然と取り残されたボールが落下してくる。ちょうど真下にいたあたしの腕の中にすぽっと収まった。

「――へ?」

「リンネ? いったい――」

「ケ、ケー……ン……」

 狐女は弱々しく首を振る。椛上が何かに気づいたように、バッとベンチのほうに首を向ける。

「……ごめん、霊力を全部は送っていない。僕は、ちーちゃんと同じくらい、フータのことも大事だから……」

「プ、プクプク……」

 唖然とした顔で椛上は立ち尽くす。

「どうやら、ガス欠ってことみたいね」

 はっとしたように椛上が振り向く。あたしは息を吸い、言った。

「蔟井西高校霊球部、突撃ィーーーっ!」

「オォゥッ‼」

 仲間たちと共に、あたしは駆け出した。

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