6-3-2
ホイッスルが鳴る。
あたしは前に駆け出す。相手選手たちはなにもしてこない。忍者の横を抜け、入道の横を過ぎる。――と、
「……くっ」
バチバチと火花のようなものが散り、ボールが手もとから離れた。そのまま吸い寄せられるようにして、ボールは狐女のほうへ向かう。シンタとふたり、手を伸ばし追うが、間に合わない。
「ケーーーーーン――」
狐女が鳴く。ボールが狐火と共に浮かび上がる。あたしとシンタの頭を越え、センターラインを越え、選手みんなの頭を越えていく。
「ウ、ウォ、ウゥゥ……」
「チッ、くそっ……」
ルキと辰樹が悔しげに、空から下りてくるそれらを睨む。ボールはすでにペナルティエリア内。「シュート態勢」にあるプレーヤーを妨害することは許されない。カラン、と乾いた音を立て、ボールが皿の上に載るのをただ見ていることしかできない。
グラウンドに笛の音が鳴り渡る。
空を見上げる。「仕事」を終えた狐火たちが狐女のもとへ戻っていく。ヒューイやメメが手を伸ばしても、その位置には到底届かない。
どういう原理かはわからない。ただ、さっきのタヌキの行動によって、狐女の能力がパワーアップしたことは確かだ。狐火でボールを運ぶだけじゃない。手に浮かせたボールを磁石のように自分のもとに吸い寄せる。そしてまた狐火が、あたしたちの手の届かない上空へと舞い上がる。
椛上を見る。その口許が僅かに歪む。反則、とは呼べない。こちらの選手に危害を加えているわけでもない。あたしは椛上に背を向け、自陣に戻る。
グラウンドは静かだった。ただ淡々と同じ工程が繰り返されている。なにか手は……と考えるのも疲れた。ここ数分たいして動いてもいないのに顔から汗がこぼれた。
いまの得点でスコアは九対十三……いや、十四か? わからない。スコアボードを見るのも億劫だ。
負ける。はっきりと頭でそう意識したつもりはないのに、体がそれを理解しているかのようにずっしりと重かった。中三の県大会。取り落としたバトン。それが地面に転がる音が脳内で響く。
審判からボールを渡される。どうせ奪われるボール。汗を拭い、顔を上げた。
「あ……」
思わず、声が出た。目の前に広がる相手陣地の光景。そこに立つ選手たちの顔。
――まだやるの? もう暗くなってきたけど。
ごくりと、ぬるい唾を飲み込む。この顔を、あたしは知っている。
――いいよ、先上がって。
……ああ、そうか。帰りたかったんじゃない。彼女たちは――
「ひゅい、ひゅい」
背中を叩かれ、振り返る。みんなの顔が目に入った。ひゅいひゅいと、ヒューイが必死にあたしに何かを伝えようとしている。ああ、もういいよ、わかってる。だってあんたは、あたしの分身なんだから。
すっと息を吸い込んだ。
「タイムアーーーウトッ‼」
えっ、と審判があたしを見る。いやいや、でももうボール持ってるじゃないですか、と言いたげな審判を、
「タイムアウトタイムアウトタイムアウトタイムアウトタイムアウトタイムアウトタイムアウトタイムアウトタイムアウトタイムアウトタイムアウトタイムアーーーーウトッッッ‼」
ひたすらに連呼して、押し切った。




