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レイキューブ!  作者: 坂井千秋
霊球部、県大会決勝を戦う
43/48

6-2-3

 位置につく。

 前髪男子が、おや? という顔をする。あたしとシンタの位置が入れ替わっているからだ。タイムアウトを経ての、ポジションの変更。

 相手陣地後方を見やる。椛上の姿は確認できるが、細かい表情までは見えない。はたして、うまくいくかどうか。

 ホイッスルが鳴る。

 シンタ、あたし、ヒューイ。三人を中心に、短いパスを繋ぎながら少しずつ前へ行く。

 前と同じ攻め方だ、と思っているだろうか。思っていてほしい。シンタにボールが渡る。まなのほうを見る。小宮は反応できていない。ように見える。

 シンタはまなに、ではなく、あたしにパスを出す。狐火を引きつけつつ、右前方にボールを放った。ワープでリボンをかわしたメメがそれを受ける。

 そのまま、前へ。狐火が来る。「メメ!」と声をかけ、パスをもらう。ゴールから右に逸れながら走る。

「リンネ!」

 椛上の声がした。狐女がこちらに来る。やっぱり、あんたが来るか。メメにパスを出す。メメからヒューイにパスが渡る。そしてあたしへ。速いパスワークで狐女をかわす。そして右へ行く。そこには――

「プ、プクプク」

 宙に浮くタヌキがいる。お前、そんな声で鳴くのか。困ったような顔はもとからなので、感情はわからない。

 自分なりに考えた。


「クールタイムだよ」

 タイムアウトをとり、円陣を組んだあとのあたしの第一声。あの狐女はヒューイやメメのように、能力を使う霊体。ならば能力の使用後は、霊力を回復させるためのクールタイムが必要なはず。なのに狐女にはそれがない。ただでさえあれだけ強力な能力。次に発動するまでにはそれなりの時間を置く必要があってしかるべきなのに。

 咲から聞いた話。去年の県大会で、椛上は試合に出ていなかった。しかしその後、秋ごろから出はじめた。その短い間に何があったのか。それを考えたとき、試合前に聞いたある言葉を思い出した。

 ――途中から入った僕は、部内では後輩みたいなものだから……。

 小宮の加入。それがもし、椛上が試合に出るようになったことと符合する出来事だったならば。それにより、椛上と狐女にとって、なにかしらの条件が揃ったと仮定したら……。

 そこから、仮説を立てた。


「プ、プクゥ、プクゥ」

 目の前に立つあたしに、タヌキはなにもしようとしてこない。代わりに狐火がやってくる。奪われる前に、ボールをメメに投げる。メメからヒューイに。できるかぎり、狐火を分散させる。

 仮説その一。狐女の能力は強力だ。しかしその強力さゆえ、連続しての使用はできない。ただあるとき、それを可能にする方法が見つかった。それがこのタヌキ。実はこいつにはある能力がある。ほかの霊体に自分の霊力を分け与える。そういう、エネルギータンクのような役割を担える能力が。

 ヒューイからボールを受ける。再び、タヌキと対峙。狐火の位置を見つつ、タヌキの前にボールを浮かせた手を差し出してみせる。

「ほら、どうしたの? 取らないの? ほれほれ」

「プ……プクゥ……」

 そこまでされては、といった具合に、タヌキがついに手を動かした。あたしからボールを奪いにかかる。

 仮説その二。この試合中、ここまでこのタヌキはほとんどプレーに絡んでこなかった。ほぼずっと、この位置で固定されたまま。なぜか。それはこのタヌキがその能力を発動する際に、その場から動けなくなるというデメリットを有しているからだ。

 思い返せば、試合開始からこのタヌキがまともに動いている姿を見たことがない。明らかに不自然だ。でもあたしたちはそれをはっきりそう認識していなかった。相手チームに誘導されていたからだ。試合序盤の入道と忍者による妙にワンパターンな攻め方。そして、「そこに穴がありますよ」と言わんばかりの小宮の存在。注目すべき選手を限定させることで、あたしたちの視線をタヌキから逸らしていた。いわばチーム全員、化かされていたのだ。

「おっと」

「プ、プクッ」

 タヌキの丸い手がボールに触れる寸前で、ひょいと手を引く。前のめりになるタヌキ。ちょっとかわいい。

 狐火が来る。すぐ後ろにパスを出す。メメからヒューイへと短くパスを回す。

 ちらと小宮のほうに目をやる。心なしか、表情のおろおろした感じがさっきまでよりさらに濃くなった気がする。ひょっとしたら彼は、自分をわざと下手に見せようとしていたのではないか。相手チームの攻撃ルートを自分の側に誘導するために。トイレからの帰りに見た光景。椛上に叱責されていた「ミス」とは、下手なプレーをしたミスではなく、相手に下手だと思わせるプレーをうまくできなかったこと。さっきのあたしに対するディフェンスを思い出す。

「ひゅい」

 ボールを持ったヒューイが、今度は自らタヌキの前に行く。おばけ対タヌキ。なんだかシュールな絵面。あたしをまねてか、ヒューイがひょいひょいとボールを出し入れしてはタヌキを翻弄する。はたから見ていると、なにやってんだこいつら、という光景。

 これら仮説が、実際にどれだけ当たっていたかはわからない。しかし少なくとも、部分的には正解だったようだ。おばけとタヌキによるひょいひょい合戦の開始に伴い、

「狐火が――」

 後ろから咲の声。見ると縦横無尽に宙を飛び交っていた狐火たちが、きれいさっぱり視界から消えていた。

「くっ……」

 そう聞こえた気がした。実際には言っていなかったとしても、そんなセリフが似合いそうな表情を椛上はしていた。この試合、初めて見せた焦った表情。

「ヒューイ!」

 相棒からボールを受ける。狐火はいない。快適になったグラウンドを思いきり走り抜け、あたしはひさしぶりの得点を決めた。

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