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レイキューブ!  作者: 坂井千秋
霊球部、県大会決勝を戦う
42/48

6-2-2

 咲からヒューイにパスが飛ぶ。ヒューイがシンタを見る。と、

「ひゅ、ひゅいっ」

 ヒューイの目の前を青白い火の玉が通過する。通過したというより、すんでのところでヒューイがうまく避けたのだ。しかしもう椛上によって、シンタへのパスコースは塞がれている。

「ヒューイ!」

 声を出す。ヒューイがあたしに向かってボールを投げる。ドッ、と衝突音。ボールの軌道が大きく左に逸れる。手を伸ばすより先に、飛んできた別の火の玉がボールを押した。

 転がったボールは狐女の手に渡る。そして前方に向かって投げられたボールは入道のもとへ。そこから忍者、前髪へと繋がれ、得点を奪われる。

「ナイスプレー」

 パチパチと椛上が手を叩く。くっ、と奥歯を噛み、自陣へと走る。


「おそらくあれが、『狐火』ってやつですね」

 少し前にとったタイムアウトで、咲がそう言った。

「狐火?」

「はい。自分も噂で名前くらいしか聞いたことがありませんでしたが……、どうやらあれが、椛上さんの霊体の能力みたいです」


 狐火。コートを飛び交う六つの火の玉の登場で、戦局は一変した。それはまるでそれぞれに意思をもった生物のように縦横無尽に飛び回り、こちらのプレーを妨害してくる。手に浮かせたボールは落とされ、パスはカットされ、地面に落ちたボールは敵選手のほうへと転がされる。そしてそこから、敵のカウンターが始まる。

 あたしたちのように、直接ボールを浮かせて運んだりはできないらしい。だとしても、その存在は充分すぎるほど厄介だ。実質、相手チームの選手が急に六人増えたようなものなのだから。

「ぴ、ぴぴっ」

 ボールを持ったメメがワープで狐火から逃げる。が、現れたそこにもすぐ狐火が飛んできて、ボールを落とされてしまう。リボンから前髪へとパスが渡る。忍者との連係でまた一点を奪われた。

「ドンマイ、メメ。切り替えよう」

「ぴぃ!」

 とメメが拳を握る。まだ戦う気概を失っていないぞ、と言うように。もちろん、あたしだって。リストバンドで汗を拭う。

 とはいえ――

 スコアボード。いまの得点で、スコアは五対九。一方的な展開が続いている。どうにかしてこの流れをくい止める術を見つけなくては。でも、どうやって……

「ひゅい……」

 ヒューイを見る。どうしたものか、というように腕組みをしている。たぶんヒューイの頭には、あたしと同じある考えが浮かんでいる。ただ、そう。それは現状の打開策にはならない。

 自分の位置に戻り、相手陣地を見やる。とにかく、まずは一点を返したい。この圧倒的数的不利のなか、わずかでも攻め入る隙があるとすれば――

 まなを見る。うん、と頷きが返る。ホイッスルが鳴る。

 シンタへとパス。シンタからヒューイへ。ヒューイからあたしへとボールが返る。

 狐火にカットされる恐れがある。遠くにパスは出しづらい。かと言って、長く持っていたらそれはそれで標的になる。細かくパスを繋ぎながら少しずつ前線を上げていく。

 咲からヒューイ。ヒューイからあたしにパスが渡った。狐火の位置を確認しつつ、あたしは左前方にパスを出す。駆け込んできたまなに、ボールが渡った。

 マークは小宮。まなはうまくかわし、前に出た。作戦、とは呼べない。けれど敵の布陣を見れば、ここが最も突破できる可能性が高いルート。小宮が抜かれたのを見て、狐火がやってくる。これも読みどおり。狐火にぶつかられ、まなの手からボールが落ちる。そのボールに、別の狐火が来る前に飛びついた。

 すぐに立ち上がり、走る。後ろから、そして前からもまた別の狐火が近づいてくる。一人では行けない。なるべく引きつけてから、シンタにパスが出せれば……

 と、ふいに視界に現れた影にはっとする。小宮だ。狐火のほうに注意が向きすぎて、接近に気づけなかった。

「しまっ――」

 ――⁉ しかし、小宮の手は伸びてこない。視線はあたしの手もとのボールに注がれている。なのになにもせず、見ているだけだ。

「……?」

「みーちゃん、後ろ!」

 その一瞬の間で、反応が遅れた。背後から近づいてきていた狐火にボールを落とされる。椛上が素早く拾い上げ、

「展開!」

 前に向けてパスを放つ。チーム全員、急いで戻るが間に合わない。十点目の得点が相手に入った。

「惜しかったっス! 次、もう一回いまの流れでいきましょう!」

 うん、と返す声が生返事のようになる。相手陣地の左側に目をやる。

 さっきのは、なんだったのだろう。あの場面、手を出せば確実にあたしからボールを奪い取れた。なのに小宮はなにもしてこなかった。

 ――試合でミスをしたのは僕だし……。

 小宮の声が甦る。あれも、ただのミス? そうかもしれない。ただ、なんだろう。思い出すとどうにも違和感が残る。気のせいか、小宮は一度出しかけた手を引っこめたようにも……

「弥里先輩?」

 名を呼ばれ、はっとする。

「……あぁ、ごめん」

「大丈夫っスか? ぼうっとして」

 うん大丈夫、と親指を立てて答える。そうだ、いまはそんなことより、あの狐火どもをどうするかだ。

 と、自分の位置に戻ろうとしたところで、ふとあることを思い出した。急に引き返してきたあたしに、咲は不思議そうな顔をする。

「咲」

「はい。どうしたんスか?」

「あんた、あの狐火のこと、前から知ってたわけじゃないんだよね?」

「え? あ、はい。さっきも言ったとおり、噂で名前を聞いたことあるくらいで……」

 言いかけた咲の顔が、申し訳なさそうな表情に変わる。

「すみません、名前だけでも先に伝えとくべきでした。でもその噂が正しいかどうか……」

「責めてるんじゃないよ。ただの事実確認。忘れてるだけで、咲は前にも直接見たことあるんじゃないかと思ったから」

 そしてそのときのことを思い出したら、そこからなにか打開策が見つからないかと思ったのだが。

「前にも……? どういうことですか?」

「だってあんた、去年もこの大会、観に来てるんでしょ?」

 そう。あたし自身忘れていたが、そういう経緯があったから、今日は咲にこの会場までの道案内役を頼んだのだ。結局、迷ったけど。

 あぁ、あぁ、と咲はようやく合点がいったように首を振る。

「それがですね、去年は大会に出てなかったんですよ」

「明泉が?」

「いえ、椛上さんが、です」

「え?」

 そうなの? と意外に思ったが、よく考えたらそれほど驚くことでもないのかもしれない。去年、ということは、当時椛上はまだ一年生。試合に出ていなくてもさほど不思議はない。……か? いやでも、あんなに強力な霊体をもっているのに?

「明泉自体は、出てました。でもたしか、一回戦敗退とかだった気が……。とにかく、当時はまだそんなに強くなかったから、あまり注目して見てなかったんですよね。明泉が強くなったのはそのあと、秋ごろからだって聞いてます。それこそ、椛上さんが試合に出るようになってからですね」

 咲はそのころから受験勉強が忙しくなり、大会を観に行く機会はなくなったらしい。いずれにせよ、明泉が強くなったのは椛上が出るようになってから。その前はそれほど強くなかった。少なくとも、霊球バ……霊球大好き少女の咲が興味を抱かなかった程度には。

 じゃあ、なぜ明泉は椛上を試合に出さなかったのか。当時あの狐女には、まだ狐火の能力が発現していなかったとか? あるいは、出さなかったんじゃなく、出せなかったんだとしたら? 強い能力があるのに、出せない理由……強くても、使えない能力……

「ひゅい、ひゅい」

 見るとヒューイが、あたしのユニフォームの裾を引っぱっていた。お前、いつまでそこにいるんだ? さっさと位置につけ。そう言っているとわかったのは、あたしが主人だからというより、その後ろに立っている審判の存在があったからだ。しまった、つい時間を忘れて考えに耽ってしまっていた。

 時間を忘れて……。

 はっとし、ヒューイを見る。なに、顔になんかついてる? と言うように首を傾げるヒューイ。横から、

「みーちゃん」

 まながやってきた。そうだ、あたしたちはもっと早く気づくべきだった。審判に向き直る。

「審判、タイムアウト」

 えっ、いまから? という顔をする審判を、

「タイムッ! アウトッッ‼」

 二人で声を張り、押し切った。

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