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レイキューブ!  作者: 坂井千秋
霊球部、県大会決勝を戦う
41/48

6-2-1

「ジエン!」

「ヌゥォォォォ――!」

 リボンからでか入道にパスが渡る。でか入道は大気を震わすような雄叫びを上げると、その太い腕を振り上げ、前方にボールをブンと放り投げた。凄まじい勢いで飛ぶボール。あんなもん誰が取れるんだ、というパスに、横からさっと飛びつくやつがいた。ボールを受け、華麗に地面に降り立ったのはナナフシ忍者だ。

「カゲマル、こっちだ!」

 フォワードの相方、前髪重め男子にボールが渡る。辰樹がすぐに反応し、前髪を止めに行く。いいプレッシャー。堪らず前髪が忍者に戻そうとしたボールを、

「そこっス!」

 咲がカットした。そして、

「るっくん!」

 とルキへ。それを見て、あたしとシンタは駆け出した。

「ウォォォォォ――」

 ルキが腕を大きく振りかぶる。ブオン、と放たれたボールは空気を切り裂くように一直線に飛んでいく。ロングパスならルキだってお手のもの。走りながら、そのボールを受けた。手が痛い。さすがの怪力。

 このまま一気に、と見た前方に、砂埃を上げ、椛上が回り込む。反応が早い。シンタは、と見ると、それを塞ぐようにこちらには狐女。ふたりとも、ルキがボールを持った時点でカウンターを予期していた動き。

 どうする。このまま強引に行く手もあるが、ボールを奪われたら逆にカウンターを喰らう恐れがある。一度、後ろのヒューイに――と考えたところで、左から声がした。

「みーちゃん!」

 まなだ。マークは、と見ると小宮はまだ後方。パスを出す。椛上の注意が一瞬、そちらに向く。その隙を突き、横を走り抜ける。まなから戻されたボールをゴール前で受け取り、皿の上に載せた。

 ホイッスル。得点成立。まなとハイタッチを交わした。

 これでスコアは五対三。ゲーム開始から、おたがいの攻撃ターンで着実に一点ずつ取り合うような展開が続いていたところ、ここにきてこちらが連続して得点した形になった。

 咲がピースサインを送ってくる。いまのところ敵の攻撃で特徴的なのは、でか入道のロングパスからの、ナナフシ忍者と前髪男子による素早いコンビネーション。これまでの三点は実際、すべてその形から奪われた。けれどそう何度も見せられていれば、うちのディフェンス陣も黙っちゃいない。咲からのピースサインに親指を立てて応える。ナイスプレー。

「みんな、切り替えて。次の一点は確実にとるわよ」

 パンパンと、椛上が手を叩きながら言う。

 次の一点。これをうちがとれれば、流れを一気に引き寄せられる。相手からすれば、攻めのパターンを一つ見切られた直後の攻撃。普通に考えれば、なにか変化を加えてくるタイミングだ。

 駆け足で自陣に戻る。

「ナイスゴール、弥里」

 と辰樹。おう。まなみたいに「さん」付けで呼べ。

 相手に向き直る。

 五対三。ここまで対等以上に戦えている。それを、拍子抜け、とまでは言わないが、正直、思ったよりは、という印象。

 当然と言うべきか、チーム全体としてプレーのレベルはかなり高い。選手個々で見ても、攻守に動きまわれるリボン、スピードのある前髪、そしてやはり、直接対峙する機会の多い椛上のディフェンスは、視野が広く抜け目がないなと感じる。

 ただそれだけに、彼――小宮の存在はどうにも気にかかる。特別下手だとは思わない。けどこれといって秀でたものがあるようにも思えない。他の選手と比べると地味に映る。この試合でまながいつもより動けているように感じられるのは正直、彼のおかげもあると思う。

 それと……と、敵陣後方に目をやる。あの狐女と、それからタヌキ。うちも前に試合でメメをディフェンスに置いたことがあったけど、一般にスピードがなく細かい動きの苦手な浮遊型の霊体に、ディフェンスポジションはあまりマッチしない。それをわざわざふたりもあの位置に置く意味はなんなのか。

 ……きっと、まだ何かある。警戒は緩めない。

 ホイッスルが鳴る。

 ナナフシ忍者から前髪男子にパスが渡る。前髪からリボンへ。メメがリボンのもとへ行く。

 リボンの視線が横に向く。視線の先には入道。ここで入道にパスを出していたのがいままでの流れ。今度は、どうするか?

 リボンの手からボールが離れる。パスの相手はやはり入道だ。それを、メメは予期していた。ボールの軌道の先にワープで先回りする。

「ぴぃ、ぴぃーっ!」

 たぶん、「速攻ー!」と言っている。メメからのパスをシンタが受ける。あたしも、すでに走っていた。シンタからのパスがあたしに飛ぶ。

 敵の前線は上がっている。いける。このまま一気に――

「――⁉」

 目の前を一瞬、何かが通り過ぎた気がした。すると、ドッ、と音がし、見るとボールが地面に転がっていた。

 何が起こったのかを正確に把握するには時間が足りなかった。自分が走る速度を上げすぎて、浮かせたボールをこぼしてしまったのかと思った。

 ボールはすぐ後ろを転々としている。しまった、と思いながら慌てて手を伸ばす。そこに横から青い何かが勢いよく飛んできて、ボールにぶつかった。強く押されたボールはさらに後方へと転がっていく。

「な――」

 転がったボールをひょいと拾い上げたのは入道だった。振り返り、前方に向かってボールを投げる。

 ナナフシ忍者がアクロバティックにそれを受ける。カウンター。咲とルキが追うが、間に合わない。そのままゴールを決められた。

 呆然と立ち尽くしていたのは、あたしだけじゃなかった。みんな、似たように困惑の色を顔に浮かべている。やがてその顔は揃って前を向く。促されるように、あたしも同じ方向に首を向けた。

 そこにいたのは、狐女だった。地面から数十センチ宙に浮き、あたしたちが霊体を呼び出すときのように両手のひらを合わせている。そして――

 その周りに、火の玉が浮いていた。一、二、……全部で六つ。ちょうど、ボールと同じくらいの大きさの、青白く燃える火の玉。

 椛上を見る。表情は穏やかなまま。しかしその目には、試合前に見せていた例の鋭さが戻っていた。

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