6-1-2
センターライン前に整列。相手選手たちの顔ぶれに目をやる。
椛上を先頭に左から、大きなリボンで髪を結んだ女子、ひょろりと背の高い前髪が重めの男子、そして小宮。男女二人ずつの構成。
霊体の先頭は椛上の狐女。そして――
ひとりめ。逞しい太い腕をもつ、坊主頭の霊体。体の大きさはうちのルキと張り合えるほどだ。見るからにパワー型。たしかこんな感じの見た目で、なんとか入道とかいう妖怪がいた気がする。顔の中心にはぎょろりとした一つ目。親近感かライバル視か、さっきからメメが興味ありげな視線を送っている。
ふたりめの霊体はひとりめから一転、すらりとした体格の霊体。頭部や肩、手足などの全体に鋭角的なフォルムは昆虫のナナフシやカマキリを思わせる。昆虫といっても一回戦で対戦したような、ザ・昆虫、といったような感じではなく、二足で立つ人型だ。体色が黒いので忍者っぽさもある。そして目は赤い。なんとなく、中二病男子が好きそうな外見。
そして三体目。タヌキだ。ふよふよと宙に浮いている。浮遊型。前ふたりがそれぞれに迫力ある外見をしているのに対し、こいつは呑気……というか、なんだか気弱そうな顔つきをしている。タヌキというより、タヌキのぬいぐるみと表現したほうが近いかもしれない。表情や姿形から覇気というものがまるで感じられない。なんとなく、誰の霊体かわかるような気もする。
……しかし、タヌキか。タヌキ。といえば化けるイメージ。そういえば狐もか。もしかしたらこのふたり、ヒューイと似た能力の使い手だったりするかもしれない。外見に惑わされず、警戒を緩めないようにしないと。
「ワープに、形態変化」
ぼそりと呟くように、椛上が言った。
「あなたたちの手の内はわかっている」
「こっちの試合に偵察でも送ってたの? やっぱり、余裕ないんだね」
「なんとでも。情報戦を制するのも、勝利には必要なことよ」
「情報に翻弄されて、本質を見失わないようにね」
「……口の減らない女」
「そうね。おたがいに」
礼を終え、それぞれの位置につく。
敵のフォーメーションは三―三―二。こちらに比べれば、やや守備的な陣形か。
攻撃はこちらから。あたしからいちばん近い位置にいるのはナナフシ忍者。その横に前髪重め男子。このふたりがフォワードを務めるコンビらしい。中盤の左右には小宮とリボン女子、真ん中にでか入道。椛上、狐女、タヌキがディフェンスにいる。
椛上はディフェンスか。性格的に、といってもそれほどよくは知らないけど、なんとなくオフェンス寄りの位置にいそうなイメージをもっていた。まあ、人間性とポジションに必ずしも関連性があるとはかぎらないか。
相手ゴールを見据える。そこにたどり着くまでのルートをイメージする。
笛の音が鳴った。
まずはシンタへとパス。シンタからメメへとボールが渡る。すかさずリボン女子が駆けてくる。さすがにいい動き。だがメメも判断が早い。ワープでリボン女子をかわす。
「ヌゥォォォォ――」
しかしそこに、予期していたように入道が立ちふさがった。ワープを読んでいたのか。メメはぎょっとしたように丸い目をさらに丸くする。いたずらがパパに見つかった子どもみたいな構図。とか考えてる場合じゃない。
「メメ!」
呼びかけ、メメからパスを受ける。と、目の前に颯爽と黒い影。ナナフシ忍者。やはり見た目どおりスピードタイプ。ボールを持った状態で横を抜くのは困難。前を向いたまま、後ろにボールを投げる。
「ひゅいー」
そこにいると思っていたやつが、狙いどおりボールを受けた。ヒューイはふよふよと浮き上がり、あたしの頭より少し高い位置からグラウンドを見下ろすようにする。浮遊型の強み。パスコースを発見したヒューイは左前方にボールを投げる。受けたのはまなだ。
ボールを浮かせ、走るまな。そこへ小宮がやってくる。まなは一度足を止め、あたしに視線を向ける。そのパスコースを塞ぐように小宮が動く。と、同時にまなは前へ駆けた。うまい! フェイントをかけ、まなが小宮を抜き去る。
それを見て、素早く動いたのは椛上だった。まなのマークにつこうとする。慌てて後ろから追ってきている小宮。その二人の間を通すように、まながパスを飛ばす。両手でそれを受け、ディフェンスがふたりになった相手ゴールに向け、走る。
正面に狐女が立つ。と、いまあらためて近くで見て気づいたが、狐女の足が地面から離れている。こいつ、浮遊型か。まあたしかに、あの着物姿で走り回る姿のほうが想像できない。でも、そうか、浮遊型なら――。
シンタに視線で合図を送る。頷くシンタ。伝わった、はず。走る。狐女の左から抜きにかかる。と思わせて右。かと思いきや左から。そしてそこで、右側にパスを出す。走り込んできたシンタがそのボールを受ける。そしてそのまま、ゴールを決めた。
「うっしゃあ!」
後方から辰樹の声が聞こえる。ホイッスル。まずは一点、先制だ。
「ガゥガゥ」
シンタとタッチを交わす。あたしの意図を汲みとって、よく動いてくれた。さすが第二の相棒。
浮遊型の霊体。文字どおり宙に浮いている分、地面を走る選手にはできない、トリッキーな動きができる。しかしその反面、俊敏性には欠けるため、いまのような細かく左右に振られる動きへの対応は得てして苦手だ。そのあたりはヒューイとメメを通じて学習済み。人に近い姿の浮遊型は初めてだったが、その特性は共通だったようだ。ちょっとだけ得意な気になって、狐女を見る。
が、当の狐女はすました顔をしていた。長い白銀色の髪を、細い指でさらりと掻き上げる。まるでなにも起こっていないかのよう。
「問題ない。一点、返すわよ」
椛上の号令に、相手選手たちは返事を返す。まあ、さすがに先制点を奪われたくらいでは慌てないか。こちらも切り替えて、相手の攻撃に備えよう。
「いい動きね」
背中にかけられた声に振り返る。ゆったりとした笑顔の椛上がこちらを見ていた。
……なんだよ、調子狂うな。試合前に見せていた鋭い目つきはどこへ行ったのか。
返事を返さずに走り去る。隣に狐がいるからか、なんだか化かされているような気分だ。




