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レイキューブ!  作者: 坂井千秋
霊球部、県大会に挑む
38/48

5-3-2

 二回戦。

 対吾梁高校戦の結果は、辛勝だった。

 吾梁高校。以前、練習試合で対戦した高校だ。スタメンに河童の姿はなかったが、ケモ子たちはいた。たしか、ヒカリとカザリ。

 ふたりのフォワードを中心とした攻撃は以前にも増してスピードがあり、さらに他の霊体、人間プレーヤーたちの能力や技術を絡めた戦術にはかなり苦しめられた。

 最終的なスコアは十七対十五。奇しくも、前回対戦時とは真逆のスコアとなった。なにより、勝てたことがまずうれしい。しかしそれと同じくらい、一回戦と違って、最初から最後までちゃんと「霊球の試合」ができたことがよかった。試合後は一礼のあと、選手全員と握手をして別れた。

「いやあ、やりましたな、みなさん! 素晴らしい試合でした!」

 斎藤さんに拍手で出迎えられる。斎藤さんを交え、もう一度みんなとハイタッチを交わした。

「次はいよいよ、決勝ですなっ!」

 両拳を握り締める斎藤さんに、うんと頷きを返す。そう、次はついに決勝戦。トーナメントの逆側の試合はすでに終わっているらしい。相手は聞かずともなんとなくわかる気がしたが、明泉高校だと斎藤さんから告げられた。

「みーちゃん、どこ行くの?」

「ちょっと散歩。大丈夫、今度はすぐ戻るから」

 グラウンドを出て、沿道を歩く。自動販売機の位置は、一回戦のあとトイレに行ったときに確認済みだ。

 歩いていると、ふと既視感の強い景色が目の前に広がる。さっき椛上が小柄男子を叱責していた場所。同時に、モヤモヤとしたものが頭の中に広がる。あいつのあの感じ……うぅむ。

 そうして歩いているうちに、自動販売機が見えてきた。台の前に立つ。

「う……」

 思わず、声が洩れる。並んでいる飲み物がどれも、なんとも言えない、微妙なメーカーのものばかりだった。どうせ同じ水やスポーツドリンクを買うなら、名を聞いてすぐに「あぁ、ハイハイ」となるような有名メーカーのものを買いたい。こういうことを言うと、そういったマイナーメーカーで働いている人には大変心苦しい気持ちにはなるのだが、こればっかりは性分なのでご勘弁願いたい。

 どうしようか悩んで、結局買わずに戻ることにした。グラウンドのフェンスの前で、

「飲み物なら、僕が持ってきたやつがあるだろう」

 振り返ると、航士郎が立っていた。手に持ったスポーツドリンクをあたしに差し出す。

「……」

「はっ。僕が用意したものには手をつけないってか? ほんと徹底してるな、お前は」

「そうじゃないよ。あんたが差し入れてくれたやつは、もうあんまり残ってなかったからさ。みんなの分がなくなったらいやだから、貰わずにおいただけ」

 航士郎はなにやら意外そうに片眉をぴくりと上げる。そして、フン、と鼻から息を吐いた。

「霊体も水分補給するんだってな。斎藤さんから聞いた。いまの試合中に、足りなかった分は買い足しておいた。安心して受け取れ」

 と、あらためてあたしに手に持ったドリンクを差し出す。

「お前も飲むだろうから、ちゃんとマイナーメーカーのものは避けておいたぞ」

 そう言って航士郎はニヤリと笑う。

「……」

「なんだ?」

「いや。やっぱり、あんまり似てないかも」

「?」

 受け取ったペットボトルのキャップを開け、液体を体内に注ぐ。身体の渇きが潤っていく。

「……お前、少し変わったな」

 勢いよく飲みすぎ、ケホッ、と小さく咳をしながらキャップを閉める。誰かみたく、皮肉っぽい笑みを浮かべてみせる。

「おかげさまで、また殺人鬼に戻れたみたいよ。礼は言わないけど」

 いや、と航士郎も小さく笑みを浮かべる。あまり見ない、ちょっと困ったような笑い方。

「そうじゃなくて、いまのお前は、昔のお前とも少し違う。ちょっと、やわらかくなったというか……」

「つまり、太ったと言いたい?」

「僕の言うことを、なんでもかんでも皮肉と受け取るな」

 航士郎は呆れたような顔をする。

「なんていうか……昔のお前は、もっと、一人で走ってるような感じだったんだ」

「なにそれ? 陸上なんて、一人で走るもんでしょ」

「そういう、直接的な意味じゃないさ」

 フッ、と航士郎は含むように笑う。こいつのこういう、人のことをわかったような態度が昔から癪に障る。なぜならたいてい当たってるから。やっぱり、この笑顔もこの笑顔できらいだ。

「いまのお前は、あまりそうは見えない」

「あっそ。じゃあ、どう見えるの?」

 そうだな、と航士郎はグラウンドのほうに目をやる。あたしもつられて見る。まな、咲、辰樹、メメ、ルキ、シンタ、斎藤さん、そしてヒューイ。ベンチの周りに集まった、みんなの姿が見える。

「その答えは、彼らに訊いたほうがいいんじゃないか?」

「……」

 少しの間、あたしはその方向を見つめる。そして航士郎に向き直った。

「あんた、初めから知ってたんでしょ?」

「何をだ?」

「この世に霊球というスポーツがあるってことを」

「……」

 航士郎は答えない。しばらく黙ったあと、例のにくたらしい笑みを浮かべて、言った。

「さあ、どうかな」

 しばし、その顔を睨む。やがて、フンッ、と首を振り、あたしは歩き出した。みんなのもとへ。

「仮に、そうだったとして」

 背中越しに、航士郎の声が聞こえた。

「迷惑だったか?」

 あたしは振り向かずに答えた。

「さんきゅう」

「……そこは素直に、『ありがとう』でいいだろ……」

 ベンチへと走る。

「あ、みーちゃん」

「弥里先輩。次の試合、隣のグラウンドらしいっス。移動しましょう」

「みんな、斎藤さん。その前にアレやろ、アレ!」

「なんだよ、いやに元気だな」

「して、弥里殿。アレとはなんですかな?」

「斎藤さんはよく知ってるアレだよ。はい、みんな手ぇ出して」

「おお、アレですか! わ、私も参加してよろしいのですか?」

「もちろん! いくよ、せー、のっ」


 レイキューーーーーブッ、ファイッ、オーーーーーーーッ‼

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