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レイキューブ!  作者: 坂井千秋
霊球部、県大会に挑む
36/48

5-2-4

 ヒューイからまなにパスが飛ぶ。まなからのパスがあたしへ。ゴールに向け、走る。

 敵のマークは緩い。抜いてもあまり追いすがってこないのは、さきほどとは違い、たぶんもうほとんど諦めているからだ。十六対十。こちらのマッチポイント。敵陣を一気に駆け抜け、そのまま十七点目のゴールを決めた。

「やっ……たーーーっ‼」

 ひときわ大きい咲の声が響く。それを中心とするようにできたハイタッチの輪に、あたしも加わる。

 試合はその後、終始こちら優位のまま進んだ。蜘蛛はその後もグラウンドに、最初まながかけられたような蜘蛛の巣トラップをせっせと作っていたが、それもヒューイスプレーによって無効化できた。そして一度スプレーを散布されてしまえば、蜘蛛はもうそこに巣を張れない。次第に蜘蛛は(ついでにメガネも)おとなしくなっていった。

 残る厄介事として、アリジゴクの蟻地獄には最後まで悩まされた。しかし一方で、試合が進むなかであたしたちは、その能力についてあることに気が付いた。というのも、アリジゴクは彼の蟻地獄形成能力を連続しては使えないようなのだ。これはアリジゴクの能力特有の特徴というより、そういった特殊な能力をもつ霊体すべてにおそらく共通する特徴なのだと思う。たとえばうちのメメもワープを連続しては使えないように、霊体は一度能力を使ってしまうと、次にまたその能力を発動するまでに、それぞれに決まった「クールタイム」が必要なものらしい。アリジゴクにもそれが当てはまることに気づいてからは、それまでよりいくらか冷静に蟻地獄の罠に対応することができた。いや、最後まで迷惑にはちがいなかったが。

「いやーっ、やりましたねぇ! 初勝利、初勝利ですよっ!」

 試合後の一礼が終わり、ベンチに戻る。咲が声を弾ませる。初勝利。たしかに、言われてみればそうだ。その相手があんなド外道変態集団なのは、ちょっと複雑だけど。

「見ていましたぞ、弥里殿、みなさん! 実にお見事な試合でした!」

「斎藤さん」

 斎藤さんがカシャカシャと拍手をしてくれる。斎藤さんに勝ちを見せられたのは、素直にうれしい。

「しかし、驚きましたな。ヒューイにあんな能力があったとは。さきほどひさしぶりに会ったとき、こんな餅みたいな姿になっていたのにも驚きましたが……」

「ひゅ、ひゅいっ!」

 餅じゃないやい、と言うように、ヒューイが目を三角にする。

「うん。あたしも最初、この姿になったのを見たときは驚いた。そのあと、謎の変身能力が発覚したときも」

「そう、その能力! あの変身能力があれば、このあとの試合も優位に運べそうですな」

「ひゅい」

 ヒューイが丸い腹を手でぽんとたたく。おそらく、まかせろ、と言っている。調子に乗りやすいやつだ。誰に似たのか。

「うん。ただ、ヒューイのこの能力にも弱点……っていうか、いくつか気を付けなきゃいけないこともあるんだけどね」

「そうなのですか?」

「うん、たとえば……」

 と、あたしは斎藤さんに説明をする。変化できる対象についての「制約」と、それからもう一つ。能力の「クールタイム」についてだ。

 メメや、いま対戦したアリジゴクがそうであったように、かく言うあたしの霊体、ヒューイも、実はその変身能力の使用に一定のクールタイムを必要とする場合がある。たとえば……

「ヒューイがいま、餅に化けたとするでしょ?」

「もう化けてるんではないですか?」

「ひゅい……」

 お前らたいがいにせえよ、という目でヒューイはあたしたちを見る。

「その餅の状態から元の姿に戻って、で、また餅に変身するのはすぐにできるの。でもそこから……たとえば風船に変化するのにはクールタイムが必要で」

「ふむ……つまり、すでに一種類なにかに変化できる状態で、さらに変化する対象を増やそうと思ったら、間に時間を置かなければならないと」

「そういうこと」

 ひゅい、とヒューイも頷いてみせる。

「なるほど。まあ、霊体は能力の発動に霊力を使いますからな。能力によって、それを回復させるための時間がそれぞれに必要なのでしょう。ちなみにヒューイの場合、そのクールタイムというのは具体的にどのくらいなのです?」

「だいたい、一時間くらいだね」

「一時間。けっこう長いですな」

 そう。そして霊球の試合は相当長引く展開にならないかぎり、ほとんどの場合、一時間以内に終わる。つまり一試合のなかでヒューイが変身できる物の種類は、一種類のみ。

「そういう事情もあって、いまの試合でヒューイにスプレーになってもらうかどうかは、実はけっこう迷ったんだ。あのあともっと重要な局面で、別の物に化けてもらう必要が生じないともかぎらなかったから。他にもいろいろ考えなきゃいけないこともあったし……」

「いろいろ?」

「うん。ゴールの開放も重要だけど、それよりもまず、あのアリジゴクの能力を無効化するための何かに化けてもらったほうがいいかな、とかね。もし試合に勝てても、誰かが怪我しちゃったらいやだからさ。……まあ、結局それは思い付かなかったから、ヒューイにはスプレーに化けてもらったんだけど。結果的に勝てたし、誰も怪我せずに終われたから、まあ、その選択でよかったのかな」

 ほお、と斎藤さんは瞳のない目でまじまじとあたしの顔を見る。

「な、なに?」

「いやはや。変化したのはヒューイだけではなかったのだなと思いましてな」

「……?」

「いえ、なんでもありません。忘れてください。年寄りのひとりごとです」

 そう言って斎藤さんはワシャワシャ笑う。あたしもヒューイも、揃って首を傾げる。

 一回戦、対春堂高校。十七対十で勝利。少しの休憩ののち、第二回戦が始まる。

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