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レイキューブ!  作者: 坂井千秋
霊球部、県大会に挑む
33/48

5-2-1

 センターライン前に整列し、相手チームと審判に一礼をする。礼に始まり礼に終わる、というのが霊球という競技のならわしとなっている。

 一回戦の相手は春堂(しゅんどう)高校。詳細は知らないが、あたしたちと同じ県立高校らしい。そして男子校。公立の男子校とは、珍しい。

 ざっと相手選手の顔ぶれに目をやる。椛上の言う「試合前に不用意に霊体を現出させない」が、やはり霊球界におけるスタンダードなのだろう、基本的に試合が始まるこの瞬間が、相手の霊体たちを初めて目にするタイミングとなる。

 整列時は人間プレーヤーと霊体、それぞれに分かれて並ぶ。当たり前だが人間のほうは全員男子。体力的な面ではどうしてもむこうが有利か。……しかし、それ以上に――

「み、みーちゃん……」

 隣に立つまなが震えたような声を出す。みなまで言わずともわかる。相手チームの霊体。蜘蛛、カマキリ、黒いカミキリムシみたいな甲虫に、毛の生えた茶色いクワガタと……よくもまあここまで揃えたものだとかえって壮観なまでの「虫」チーム。しかも全員でかい。分類的に蜘蛛は正確には昆虫ではないけれど、虫嫌いのまなにとっては取るに足らない違いだろう。あたしだってこの巨大な虫たちを前にして、多少なりとも眉根が寄ってしまうのを止められない。よりにもよって初戦がこんな感じの相手とは……ううむ。

「よろしくお願いします……クフッ」

 と、列の先頭に立つ眼鏡スポーツゴーグルの男子が手を差し出してくる。試合前の一礼はいつものことだけど、握手を求められるのは初めてのことだ。「あ、はい、こちらこそ……」とそれに応じる。

「クフッ、クフフ……」

 と笑い、メガネ男子は去っていく。……なんというか、不気味な印象だ。

 試合前の儀礼を終え、それぞれ位置につく。

 フォーメーションは二―四―二。練習でいろいろと試した結果、これがいちばん収まりのいい形ということになった。ディフェンダーはルキと辰樹。中盤は前後にヒューイと咲、左右にまなとメメ。フォワードは、あたしとシンタのツートップだ。

「うう……ううぅ……」

 左サイドハーフがさっきから試合どころじゃなさそうな様相を呈しているが、苦手なものはしかたない。身内にも虫嫌いがいるので気持ちはわかる。みんなでうまくカバーしていかないと。まな自身にも、なんとか頑張ってもらいたいところ。

 相手の布陣を見る。さきほどの不気味メガネは中盤、ディフェンス寄りのポジションのようだ。敵の正体がわからない以上、まずはおたがい、相手の出方を窺いながらの試合運びになるのだろう。だからこそ、そこに先制点のチャンスもある。

「やるよ、シンタ」

「ガォガォ!」

 前を向き、構える。

 ホイッスルが鳴り響く。


 メメから咲へボールが渡る。咲からヒューイへ、ヒューイからシンタへ。

 手を得たことで、ヒューイのパス精度はかなり向上した。さらには霊力で補助しつつ投げているからなのだろう、そのひょろりとした腕からは想像もつかないほどパワフルで、しっかりした軌道だ。

 砂煙を上げ、シンタが走る。颯爽とディフェンスをかわし、前足を器用に使ってこちらにパスを飛ばす。ゴールに向け、走る。「くっ、速ぇっ」と、あたしとシンタ、どちらに言ったものかはわからないが、声が聞こえた。

 公式試合では人数の増加に伴い、コートも少し広くなっている(サッカーコートの三分の二くらい)。どの位置から、どの程度スピードを出しても手からボールをこぼさずゴールまでいけるかは、散々練習して体に覚え込ませた。相手ディフェンスを背に、さらにスピードを上げる。そして一気にゴールへと到達した。

 皿の上で勾玉がぐらぐらと揺れる。ちょっと勢いをつけすぎた。でも、大丈夫だ。やがてボールは静止する。ホイッスルが鳴る。得点、成立だ。

「ナイスオフェンス」

 シンタの頭にポンと手を置く。お前もな、と言うように、シンタもガゥガゥと吠えた。

 再びホイッスルが鳴らされる。タイムアウトの合図だ。相手チームがとったらしい。こちらもコートわきに集まる。

「いいですよー! いい流れです! このまま一気に突き放しましょう!」

 と咲が士気を高める。たしかに、いい流れだ。いまの得点でスコアは七対二。数字の上でも、こちらがかなり優位に試合を運べている。

「ふんっ。あいつら、まるでたいしたことねえな。人間も霊体も動きに気合が入ってねえっつうか、こう、攻める気概ってもんが伝わってこねえ」

「ふふっ。辰樹くんとルキくんのディフェンスが上手だからだよ。それか、ふたりの迫力に怖がってるのかな」

「……ッス。あざすっ」

 辰樹がカクカクと頭を下げる。迫力云々は置いておくとして、相手の動きに気概が感じられないというのはあたしも同感だ。なんというか、惰性でやっているかのような。さっきの相手ディフェンスの動きだって、追うのを諦めるのがずいぶん早かった気がする。四月の大会のときの自分を思い出す。

「とにかく、流れはこちらにあります。主導権を渡さないよう、敵の動きに警戒しつつ、このままの勢いで攻めていきましょう!」

 オウッ! と声を出し合って、タイムアウトが終わる。

 それぞれ、位置につく。

「クフフ……」

 ふと、不気味メガネと目が合った。妙にねっとりとした視線が気になる。

 配置につく虫たち。まなもなんとか我慢しながら頑張ってくれているが、相手の霊体たちには悪いけれど、あたしとしてもやはりこの光景は、戦っていてあまり気分の良いものではない。試合を早く終わらせる意味でも、攻めの手は緩めずにいきたい。

 ホイッスルが鳴る。

 ボールを持った男子からクワガタにパスが渡る。クワガタからカミキリムシへ。この霊体たちも以前のヒューイのように、霊力を使ってボールを弾くようにしてパスを出しているようだ。

 だから精度はさほど高くない。カミキリムシが放ったパスを咲がインターセプトする。咲からヒューイにボールが渡ったのを見て、あたしは駆け出した。ヒューイからのパスを走りながら受ける。いいパス。そのままトップスピードへ。相手ディフェンスは間に合わない。

 ゴールへ――

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