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終礼のチャイムが鳴る。
席を立つ級友たち。手にスクールバッグと、それぞれの部活動で使うのだろうさまざまな道具や荷物を携えて。バットケースにラケットケース、楽器用のギグバッグ……彼らの青春の始まりを告げるように鐘の音は鳴り響き、鳴りやむころには教室内はまばらになる。
窓の外に目をやる。梅雨はまだきていないのか、空はこれ以上ないほどの快晴だ。朧グラウンドの光景が頭に浮かぶ。あたしがあのコートに立ったのはもう一週間前、阿納辰樹が入部を決めた日が最後だ。
それ以来、行っていない。そして今日も行くつもりはない。机のわきにかけた鞄を手に取る。椅子を引き、立ち上がった。
「弥里先輩」
「――って、おわぁっ!」
教室を出ようと振り返ると、目の前に咲が立っていた。姿勢を整え、訊ねる。
「……なにしに来たの?」
「なにしに……?」
プチン、となにかが切れた音が聞こえた気がした。そばにあった机に咲がバンと手をつく。
「なにしにじゃないですよ‼ 弥里先輩と話をしに来たに決まってるじゃないですか‼ 先輩こそ、なにやってるんですか⁉ 一週間……もう一週間ですよ⁉ まな先輩からは体調不良だって聞いてましたけど、知り合いの先輩に聞いたら学校には来てるみたいだし、会ってみたらべつに元気そうじゃないですか! なんなんです⁉ どういうことなんですか⁉ どうして練習に来ないんですか⁉ 大会に向けて大事な時期だってのに‼」
教室内に残った生徒たちが、何事かという様子でこちらを見ている。咲は顔を真っ赤にして、噛みつかんばかりの勢いでまくしたてる。まさに赤鬼――などと、ふざけたことを考えている余裕も、資格も自分にはない。
「……ごめん」
「はあっ⁉ なんスか、『ごめん』って‼ 自分は先輩に謝ってほしいんじゃないんスよ‼ 自分は――」
「――咲ちゃん!」
教室の入り口にまなが立っていた。慌てた様子でこちらにやってくる。
「もう、こんなところでなにやってるの! 勝手に教室には行かないって約束したじゃない。さ、行こう。もう部活の時間だよ」
「離してください、まな先輩! 自分はまだ弥里先輩と話が済んでいないんです! 弥里先輩! どうして仮病なんか使うんです⁉ 元気なら、練習に――」
「いいから。咲ちゃん、よその教室でそんな大声出して、ほかの人に迷惑でしょう? ほら、もう行くよ。辰樹くんも待ってるから」
まなは咲のスクールシャツの襟を持つと、首根っこをつかむようにしてズルズルと引きずっていく。「ちょ、わかっ、から、離し……」と咲が苦しげに主張する。見た目から想像できない腕力の強さも、まなのもつ意外な特徴の一つだ。
「まな……」
と、その背中に声をかける。まなは足を止め、首だけをくるりとこちらに回す。
「大丈夫。部のことはこっちでやっておくから、みーちゃんはなにも心配しないで」
そう言って笑顔をつくると、まなは咲を連れて歩き出す。その姿が去っていくのを、あたしはなにも言えずに黙って見送った。




