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レイキューブ!  作者: 坂井千秋
霊球部、新入部員を求む
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4-1-2

「なるほど。それで僕を呼んだわけか」

 顎に手を当て、納得したように航士郎が頷く。

「だが申し訳ない。たしかに僕はどの部活動にも参加していないが、それは生徒会の仕事との兼務が難しいからだ。特例として学校に許可もとってある。学年的にも、これから受験勉強が本格的に始まり、そちらに割く時間が多くなるだろう。残念だが、入部はできないな」

「そうだよね。悪かったね、突然呼び立てたりして。もう戻っていいよ。ドア、開けておくね」

「おいおい待て、そう嬉々として帰らそうとするな。たしかに僕自身の入部は無理だが、協力してやれないことがないとは言っていない。一人、当てがあるんだ」

「当て?」と、まなが首を傾げる。

「ああ。現時点でまだどの部活にも入部していない一年生が一人いる。その彼を紹介するよ」

「彼?」ということは男か。

「うおぉ、マジっスか⁉ 一年生、しかも男子部員! ちょうどうちのチームに足りていなかったピースです! いやあ、さっすが生徒会長、頼りになるっスねえ」

 いやいや、と航士郎は首を振る。その歪んだ口の端をあたしは見逃さない。咲、油断するな。生徒会長である以前に、こいつは航士郎だ。この話にはなにか裏があるのかもしれない。そもそも一年生で、この時期にまだどの部活動にも所属していない生徒……はたして、そんなやつが――


「紹介しよう。一年D組の、阿納辰樹(あのうたつき)くんだ」

 航士郎の隣には金髪の男子生徒が立っていた。髪型はオールバック。ポケットに手を突っ込み、顎を突き出して、気だるそうに細めた目で見下ろすようにこちらを見ている。うちの高校の制服はブレザーのはずだが、着ているのはなぜか学ラン。黒い上着の下からのぞく赤いシャツが目に眩しい。

 ……ほらね、ロクなやつじゃなかった。

 ちらと、咲とまなのほうを横目で見る。咲は明らかにぽかんとした表情、まなは笑顔だが口許は引きつっている。まあ、そんな反応になるだろう。あたし自身、どんな顔をしているかわからない。

 男子生徒に視線を戻す。……まあでも、何事も見た目で決めつけてしまうのはよくない。話してみたら意外といいやつだったりするのかもしれない。仮にも部長として、ここはまずあたしがコミュニケーションを図ってみよう。

「よろしく、阿納くん。部長の希原弥里です」

「あン?」

 返ってきたのはドスの利いた声と鋭い眼光だった。はい、だめでした、ロクなやつじゃありませんでした。「阿納くん、良くないよそんな態度は。ちゃんと挨拶して」と軽く注意した航士郎にもぎろりと睨み付けるような目を向けている。どうやら、だいぶロクでもない。

「ええと、こちらの阿納くんは転校生でね。前の学校で問題――じゃなかった、その、ご家庭の事情でつい二週間ほど前にうちの高校にやってきたんだ。以来、入部する部活動を探しているんだが、まだ所属先が決まらない。そこで、さきほどのきみたちの話を聞いて、ちょうどいいんじゃないかと思ってね」

 貼り付けたような笑みとともに航士郎が説明する。なるほど、だいたいわかった。おそらくこの転校生の扱いに困った学校側が、生徒会に協力を仰いだのだろう。そしてあたしたちの話を聞き、いい厄介払いになると考えたわけだ。所属先が決まらない。そりゃそうだろう。あたしらだってこんな時代錯誤ヤンキー、事情がなけりゃ、即刻のしを付けて送り返しているところだ。

「転校生……。そういえばたしかに、少し前にD組にヤバいのが入ったって噂を聞いた気が……」

「ああン?」

 阿納辰樹に睨まれた咲が、慌ててまなの後ろに隠れる。さすがの咲でもヤンキーは怖いか。

 ううむ、どうしようかな。いくら部員が欲しいとはいっても、さすがにこの彼をとなると二の足を踏む。彼も彼であまりこちらに友好的な態度は示していないし、そもそも部活動に所属したそうなタイプとも思えない。ここは少ない友人のつてを頼って、大会の日だけでも他の部から応援を頼むか……。

「ケッ」

「ああ、阿納くん、待ちたまえ」

 などと考えていると、阿納辰樹は背中を向け、部室を出ていこうとする。むこうとしても願い下げ、ということのようだ。新入部員は惜しいけど、ま、しかたないな。

「あの、阿納くん」

 と、声を発したのはまなだった。阿納辰樹は足を止め、だるそうに振り返る。

「その、阿納くんは、スポーツって得意?」

 おお、友人よ。この猛獣のような男に対してなおも交信を試みるのですか。のんびりした性格はまなの美点ではあるけれど、直前のあたしや咲に対する反応を見ていなかったのか? 返ってくるのは、どうせ――

「……べつに」

 なんと。初めてまともな言葉を発した。「べつに」がまともな言葉かどうかは諸説あるとして。ていうか、「べつに」なんだ。見た目的に体動かすの得意そうだけど。殴り合いとか。

「そうなんだ。あのね、わたしたち、霊球っていうスポーツをやってるの。……知ってる、かな?」

「いや」

 阿納辰樹が首を振る。二人の間を見えないボールが行き交うように、ほか三人の頭は右に左にと揺れる。猛獣VS小動物。謎の緊張感。

「霊体っていってね、自分の中から呼び出したパートナーと一緒にやるスポーツなの。サッカーとか、バスケットボールにも少し似ているかな」

「霊体?」

「うん。なんていうんだろう、自分の分身みたいな存在、って言ったらいいのかな。この、霊珠っていう道具を使って呼び出すの」

 これ、とまなは、自分の手首につけた霊珠を外し、阿納辰樹に差し出してみせる。阿納はやや首を傾げつつ、意外にも興味ありげにまじまじとそれを見つめていた。

「……これ、あんたの?」

「え。うん、そうだけど……」

「ふうん……」

 と阿納は霊珠に目をやったまま、生返事のような声を出す。

「阿納くん、もしよかったら、自分の霊体を呼び出してみない?」

 まなが言う。阿納は考えるように黙りこむ。そこへまなの後ろから、咲がずいと前に出てきた。

「ふっふっふ。そういうことなら、自分が呼び出し方の手本を見せましょう」

 長身の阿納を見上げ、咲は言う。手本もなにも、本人はまだ霊体を呼び出すとは言っていないが。気の早いやつめ、と見ると、咲の口許がにやりと捻じ曲がるのが見えた。……ん?

「いい、よく見てなさいよ? まず、手のひらを合わせ……」

 いつものルーティーンが始まる。開いた咲の手から白い光が放たれ、

「う、うおわぁっ!」

 阿納が野太い悲鳴を上げた。

「アハハ、どうしたの、そんなに驚いて。霊体のルキくんだよ。あれあれ、もしかして怖がってる? へぇ、意外とビビりなんだねぇ」

 現出した赤鬼の姿を見て大きくのけぞった阿納に、咲が高笑いの声をぶつける。いや、誰だってビビるだろう、初めてこんなん見たら。さてはこいつ、確信犯だな。さっき威嚇された仕返しのつもりなんだろうか。子どもか。

「クッ、こいつ……!」

 阿納が悔しそうに咲を睨む。意外と効いてそう。子どもか。

「悔しかったら自分も霊体を現出させてみれば? るっくんより強そうな子だといいね。ま、無理だと思うけどぉー」

 ここぞとばかりに挑発を続ける咲。赤鬼という盾の存在に気が大きくなっているようだ。

 眉間のしわを深める阿納。咲本人にそのつもりがあったかどうかはわからないが、それがきっかけになったようだ。阿納はまなのほうを振り向くと、「貸せ!」とその手から奪い取るように霊珠をつかみ、自分の左手につけた。

 阿納が両手のひらを合わせる。やがて「ん?」というような表情が阿納の顔に浮かんだ。いまならあたしにもわかる、たぶんあの、体の内側がムズムズするような感覚を覚えたのだろう。それを体から出そうとするように、阿納が合わせた両手を外側に向かって開く。手から放たれた白い光。それが彼の前で形を成す。

「ガゥ、ガォガォ!」

 登場と同時に、鳴き声が聞こえた。

「虎?」

 まなが言った。オレンジに近い黄色の体色、全身に刻まれた黒い縞模様、口を開けたときに見える鋭い犬歯。たしかに、目の前に現れたのは虎だった。しかしまなの言葉に「虎?」と疑問符が付けられていたのは、おそらく――

「……なんか、小さいな」

 航士郎が言った。そう、現れた虎はサイズが小さかった。虎というと全長二、三メートルくらいのイメージがあるのだが、いま目の前にいる虎はその半分……よりも小さいかもしれない。顔つきも全体的に幼さを感じる。虎というより子どもの虎。

「アッハハー、なになにその虎は。虎、いや、猫かなぁ?」

「ガゥガゥ、ガォガォガォ‼」

 吠えられた咲が、さっと赤鬼の後ろに隠れる。体は小さいが、吠え声はなかなかに迫力がある。「グルルルル……」と唸りながら、赤鬼の陰からひょこっと顔を出す咲を睨んでいる。

「こいつが俺の、……霊体、なのか?」

「うん、そうだよ」

 おーよしよし、いい子だねぇ、とまなが虎をなだめながら答える。まなに撫でられ、虎は気持ちよさそうに目を細めている。

「かっこよくて、かわいい霊体だね」

 笑顔を向けられ、阿納は反応に困ったように目を逸らす。

「ふ、ふーんだ。かっこよさもかわいさも、るっくんのほうが上ですよー、っだ」

 赤鬼の背後から声。特に後者については、親バカという言葉を教えてやる必要がある。というか、なぜにこいつはこうも阿納につっかかるのか。

「んだと、テメぇ……」

 そしてこいつも、なぜそう過敏に反応するのか。挑発に弱いタイプなのか? 本質的に反りが合わない同士なのかもしれない。

「……あのね、阿納くん。わたしたち今日、これからちょうど練習があるの。もしよかったら、阿納くんも一緒にどうかな? 見学っていうか、体験入部みたいな形で……」

「おうおう、そうだ、参加しろ! どっちの霊体のほうが上か、そこで白黒つけてやるよ!」

 もうどっちがヤンキーかわからない。阿納が咲を睨み返す。その目には燃えるような色が宿っている。

「……いいだろう」

 阿納が言った。

 二人(特に咲)、計算してのことかはわからないが、かくして阿納が今日の練習に参加することとなった。

 横目にちらと目をやる。航士郎がほっとしたような顔をしているのが見えた。

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