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「いやー、おつかれさま、きみたち」
試合を終え、コートわきに集まったあたしたちの元に航士郎が拍手をしながらやってくる。
「あんた、まだいたの?」
「もちろん。最後までしっかり観戦させてもらったよ。惜しかったな、あと二点だったのに」
試合は十五対十七で、相手チームが勝利した。敵が十六点目をとったあと、そこから連続得点で一点差まで迫ったのだが、あと一歩、足りなかった。
「うん。わたしたち、いい試合できたよね。みんな頑張ったし、メメちゃんもよく頑張ったよ」
まなが一つ目小僧の撫でやすそうな頭を撫でる。たしかにこの試合、MVPをひとり決めるとしたら一つ目小僧だろう。試合前半の働きはもちろんだし、後半、ポジションを変わってから例のワープ能力は再び輝いた。咲と赤鬼のマークに多くの注意を割かねばならない分、敵の意識がそこから逸れがちだったのだろう、それに紛れるような形でワープは随所で機能した。試合終盤の得点も、一つ目小僧が絡んだものが多い。
「いいえ、負けは負けっス! 負けた試合に、いい試合もなにもないっス!」
咲が腕組みをしてそう宣言する。しかしその腕組みをすっと解くと、
「でも、『みんな頑張った』っていうのには賛成です。自分たち、全力で頑張りました。これがいまの自分たちの実力です。それを受け止め、さらに練習を重ねてもっともっと強くなっていきましょう!」
お、おぉ……なんかこいつ、顧問みたいだな。もっと強くなる、か……。斎藤さんのほうにちらと目をやる。と、
「弥里殿ぉっ‼」
「おわっ」
斎藤さんがぐいと顔を近づけてきた。
「私はっ、私は悔しいです! あと二点、たったあと二点だったというのにっ‼ ……しかし、たった二点、されど二点です。咲殿の言うとおり、これが現在の我々の実力なのでしょう。ですがっ、未来は明るい! 前回はあと五点、今回はあと二点。勝利までの距離は着実に近づいてきています。この調子で練習を積み強くなっていけば、いずれそこに到達する日もそう遠くないことでしょう!」
「おぉっ! よく言ってくれました、斎藤さんっ! 自分たちはどんどん強くなります! そしていつの日か、全国へっ‼」
肩を組み、「おーっ‼」と声を上げるふたり。なんだか知らんが、仲良さそうにしててくれてよかった。
「弥里殿」
斎藤さんがあたしを見る。
「次は、きっと勝ちましょうね」
斎藤さんが言う。なにを考えることもなく、自然にあたしは頷いていた。
「うん、そうだね」
「ほぉー?」
声がして、振り向くと今度は航士郎の顔が近くにあった。ニヤニヤとした笑みを口もとに浮かべている。
「……なによ?」
「いや? べつに」
意地の悪い笑みを浮かべたまま、航士郎はゆるく首を振る。
「それより、今日初めて生の霊球の試合を観させてもらったけど、霊体という存在は本当に興味深いな。彼らはどういう仕組みで生み出されてるんだ?」
「仕組みはあたしも知らないけど、呼び出すこと自体はなにも難しくはないよ。霊珠を手首につけて、決まった手順を踏むだけ」
「霊珠?」
「これっス」
咲が霊珠をつけた右手を掲げてみせる。
「そうだ。那岐先輩も、自分の霊体を呼び出してみたらどうですか?」
「え、僕にもできるのか?」
「霊体は誰の身にも宿ってるものなんだってさ」
あたしみたいな例外を除いて、とは黙っておく。
「どうぞ」と咲から渡された霊珠を航士郎が手首につける。そして、
「どうやるんだ?」
と、あたしを見る。なぜあたしに訊く。
しかしまあ、こいつからどんな霊体が出てくるかにはそれなりに興味が湧く。霊体の見た目や特性は、その本人がもつ精神力と関わりがあると咲も言っていた。性格も関係しているとするなら、こいつの中にはどんな底意地の悪そうな霊体が潜んでいるのか、露わにしてやりたい気もする。
「こう。まずは両手を合わせて……」
いつものルーティーンを実演してやることにする。無意味に念仏を唱えさせてやろうかとも思ったが、あたし自身が恥ずかしいのでやめた。――と、
「あれ、なんか……」
「どうした?」
「……いや、べつに」
気のせいか、体の内側がなんだかムズムズするような感覚を覚えた。小さく首を傾げつつ、合わせた両手を外に向かって開く。
すると――
手のひらから白い光が放たれた。光は航士郎のわきを抜け、背後を回り、あたしたちの輪の中心に戻ってくる。
そしてそこで、形を成した。
「これ、は……」
ぽかんと開いた口から声がこぼれる。目の前に現れた物体。これは……
「……れ、霊体です! 弥里先輩の、霊体ですよ!」
咲が言った。霊体……これが、あたしの……?
「おめでとう、みーちゃん」
まなが言う。お、おう。おめでとう……まあ、そう、なのかな。このボンクラにもようやく自分の霊体が発現したわけだし。
ただ……
「なんだ? このひとだまがお前の霊体なのか? じゃあ、そっちの骸骨は?」
航士郎の声。そう、現れたのは、ただのひとだまだった。ちょうど霊球のボールくらいの大きさの、青白く燃える火の玉。炎色反応の授業を思い出す。「ひとだま描いて」と言われたら十人中十人がこう描きそうな、ひとだまらしいひとだま。これぞ、ひとだま。イッツ・ジャスト・ザ・ひとだま。
「あの、えっと……」
恐るおそる、声をかけてみる。顔がないので、どちらを向いているのかわからない。そもそもこいつには意思があるのか。こちらの言葉が理解できるのだろうか。
「……ひとだまさん」
そう呼ぶほかない名を呼びかけてみる。ひとだまは(おそらく)あたしを見て、
「ひゅいー」
と鳴いた。




