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レイキューブ!  作者: 坂井千秋
霊球部、練習試合に赴く
21/48

3-3-2

「ちょっと、なに勝手にタイムアウトとろうとしてんの? 言っとくけど、何度言われてもポジション変更には賛成できないよ」

「弥里殿」

 斎藤さんがあたしに向きなおる。

「弥里殿はこの試合、何のために戦っておられるのですか?」

「は? そりゃ……」

「私は、勝つためです」

「え」

 斎藤さんは、指で頬を掻く仕草をする。

「初めてお会いしたときにも言いましたが、私生前、試合で勝ったことがないんですよ。ご存知のとおり、へたっぴですから」

 そう言うと斎藤さんは、グラウンドにいる咲やまなたちのほうに目をやる。

「このチームは、よいチームです」

「……え?」

「今日の試合、相手の選手は明らかに、少なくとも一年以上の経験者です。それを相手にここまで戦えている。この間の大会だってそうです。このチームは、みなさんがご自分で思っている以上に強い。そしてきっと、これからもっと強くなるでしょう。私の存在は、いずれ邪魔になる」

「なっ、そんなことは――」

「弥里殿」

 と、斎藤さんは再びあたしに向きなおる。

「弥里殿が私のために動いてくれていることはわかっています。その優しさ、深く身に沁みます。ですが私は、やっぱり勝ちたい。実力不足の私でも、そのために少しでも役に立てる場所があるならば、力になりたいのです。みなさんなら、このチームなら、勝てる可能性はまだあります。それが見えていながら、みすみすそのチャンスを逃すようなまねを、私はしたくありません」

「……」

 斎藤さんはまっすぐにあたしを見据える。

 勝ちたい。考えてみれば、当たり前のことだ。相手のいるスポーツで試合に臨む以上、まず頭に浮かぶのはそのこと。自分だってかつてはそうだったはずなのに、そんなことすら忘れていた。

「……あのー。結局、タイムアウトはとるんですか? とらないんですか?」

 審判が斎藤さんに声をかける。

「ああ、すみません。ええと……」

「とります」

「……弥里殿?」

 審判が腕で「T」のシグナルをつくり、ホイッスルを鳴らす。


 センターラインを挟み、両チームの選手が向かい合う。自軍の先頭は咲と赤鬼。あたしからの距離は遠くなった。中盤にいるのはまなと一つ目小僧。あたしと斎藤さんは、その後ろ。

 笛が鳴り、攻撃が始まる。前の四人でボールを運んでいく。が、まなの咲へのパスが通らない。カットしたティーシャツ男子が前にボールを投げる。

 受けたのは茶髪。茶髪から白ケモへ。追い付き、回り込む。白ケモがパスを出した。灰ケモが受ける。フリーだ。しかし――

「ふおおぉぉぉぉぉ」

 後ろから猛然と駆けてきた斎藤さんが、灰ケモの前に回り込む。フェイントをかけつつ、抜き去ろうとする灰ケモ。しかし抜けない。斎藤さんがよく対応している。敵からボールをカットするための守備練習。これもふたりで散々練習した。

 その間に他の選手たちも追い付いてくる。一度ボールを戻そうと、灰ケモは後方の黒髪にパスを出す。

「ぴぃ!」

 それを一つ目小僧がカットした。ワープだ。灰ケモが、しまった、というような顔をする。焦って河童のほうを見る余裕がなかったのだろう。

 一つ目小僧からまなへ、まなから赤鬼へとボールが渡る。反対にこちらのカウンターだ。ゴール前のティーシャツ男子をかわし、赤鬼は力強く相手ゴールにシュートを決めた。

「ナイスゴール、るっくん!」

「ウォォ、ウォォォ――」

 咲と赤鬼が声をかけ合う。あたしも彼らとタッチを交わし、それから自分の位置に向かう。

「ナイスディフェンスでした、弥里殿」

 横を走る斎藤さんが言った。

「うん。斎藤さんも」

 斎藤さんはニコッと笑って頷く。

 各選手、位置につく。一点返した。でもまだ、十対十四。逆転するためには、ここから連続で得点していかなければならない。

 ホイッスル。敵の攻撃が始まる。灰ケモから白ケモにボールが渡る。白ケモから茶髪、そしてまた灰ケモを介し、逆サイドの黒髪へ。

 相変わらず、息の合った動きだ。咲やまなたちも懸命に喰らいついているけれど、敵の前線はじりじりと上がってくる。そしてまた逆サイドへの展開から、ディフェンスの空間が開けたところへ白ケモ子が抜け出した。抜かれたのは、あたしだ。

 白ケモ子の背中が映る。瞬間、映像が頭の中に流れた。

 このあいだの大会、三試合目の最後、あたしの横を駆け抜けていく相手チームの女子選手。あたしは追わない。追わないことを自ら選んだ。――でも、いまは、

「行かせるか、コルァァァァァッ――‼」

 白ケモの背中を追う。差が詰まる。振り返った白ケモがあたしを見て、ヒェッ、というような顔をする。勢いになのかあたしの形相に対してなのか、気にしてなどいられない。

 もう少しで追い付く。――と、思ったそのとき、堪りかねたように白ケモが灰ケモにパスを出した。ボールが灰ケモの手へと吸い込まれる直前、ニュッと横から別の白い腕が伸びた。白く細い手はがっちりとボールをつかみ、そのまま大きく振りかぶる。

「速攻ですぞっ!」

 斎藤さんの声が響いた。

 ボールは斎藤さんからまなへ、まなから赤鬼へ渡る。ティーシャツのディフェンスは一つ目小僧のワープでかわし、最終的にボールを受け取った咲が相手ゴールを陥れた。

「ぴぃ、ぴぃ」

 咲と一つ目小僧がハイタッチを交わす。赤鬼とまなも駆け寄っていった。

「弥里殿」

 振り向く。向けられた握り拳に、あたしも同じ形をつくって応じた。

「痛い」

 ハハ、と斎藤さんが笑う。

 走り、自分の位置につく。十一対十四。あと三点。いや、あと六点。

 額の汗を拭う。爽やかな初夏の風を感じた。土の匂いがする。

 ホイッスルの音が高らかに鳴り響いた。

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