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レイキューブ!  作者: 坂井千秋
霊球部、練習試合に赴く
18/48

3-2-2

 ユニフォームが二人。そうでないティーシャツが一人。ユニフォームの二人はどちらも女子。顔がよく似ているので双子かもしれない。ティーシャツの一人は男子。一年生だろうか。

 本人たちだけでなく、女の子二人の霊体も外見がよく似ている。背が高く人型、しかし顔は狼やジャッカルを思わせるシャープなイヌ科のそれ。獣人、ってやつかな。白と灰色で体色は違う。主人たちと同じユニフォームを着ている。顔の造形や体つきを見るに、どちらも女の子のようだ。なんというか、ケモナー歓喜、みたいな見た目をしている。

 ティーシャツ男子の霊体は河童。彼の膝くらいの背丈でちょこんと立ち、つぶらな瞳をどこかあさっての方向に向けている。獣人ふたりは見た目から動きが俊敏そうな印象を抱くけど、こちらはぱっと見、どこに強みがあるのかわからない。グラウンドより水辺とかのほうが得意そうに見えるけど。

 各選手、位置につく。先攻はこちら。ボールを持つのは咲。

 審判のホイッスルの音が鳴り響いた。

 咲から、まずは赤鬼にボールが渡る。赤鬼から咲へ。前回大会同様、攻撃の中心はこのふたり。

 前回大会と違うのは、フォワードのふたりの後ろにいるのがまなと一つ目小僧ではなく、あたしと斎藤さんだということ。試合で斎藤さんを目立たせるなら、ディフェンスより攻撃に参加できる位置のほうがいい。そう思い、まなに頼んで代わってもらった。

 相手のディフェンスをなるべく自分たちに集めるようにしながら、咲と赤鬼がたがいにパスでボールを繋いでいく。さすがに息の合った連係。でも連係に関しては、いまのあたしと斎藤さんだって負けていない。この三週間、毎日のように一緒に練習してきたのだ。

「咲」

 近くにいる双子の片割れを警戒しつつ、後ろから咲に声をかける。と、咲からパスが飛んでくる。敵の注意がこちらに向く。狙うは右斜め前方。眼球はないが、視線を交わす。よし走れ、斎藤!

 あたしの放ったロングパスは、敵陣の奥深くに向かって弧を描く。誰もいない空間。そこに、斎藤さんが猛然と駆け込んでくる。いい走り。そこから一気にゴールに突っ込め。

 ――しかし、そのパスを受けたのは斎藤さんではなかった。遠くを目がけてやや山なりになったパスを空中でカットする者がいた。

 河童だ。宙に浮いた河童がその小さな手でボールをしっかりとキャッチしている。

「速攻!」

 ステレオで双子の声がした。河童から双子の片割れへ。そしてその霊体のケモ子へと素早くパスが繋がれていく。最終的にボールを持ったのは白いほうのケモ子。見かけどおり俊敏な動きで、まなのディフェンスを振り切り、一気にこちらのゴールまで駆けていく。

 そしてホイッスル。

「ナイスゴール、ヒカリ!」

 白ケモ子が、駆け寄ってきた双子の片割れとハイタッチをする。あらためて見ると、こちらの子のほうがもう一人と比べて頭髪の色素が薄い気がする。ほんのり茶髪。こちらが白ケモ子の主人らしい。

「すみません、弥里殿。せっかくのパスを活かせず……」

 斎藤さんが駆け寄ってくる。

「……あの河童、飛べるの?」

「え、ああ……どうやらメメと同じで、浮遊型のようですな」

 浮遊型? 河童が? どういう理屈だよ、と言ったら、うちの一つ目小僧もまるでひとのことを言えていないのだけど。霊体って、見た目と能力にあまり関連性はないのだろうか。霊体道、いまだ奥深し。詳しくなりたいとはべつに思わないが。

「ドンマイっス、切り替えていきましょう!」

 咲から声がかかる。頷き、自分の位置に向かう。おのれ浮遊河童。だが特性は知った。次はもうやらせない。

 ホイッスル。あらためて、こちらの攻撃から。

 咲、赤鬼とパスを繋ぐ。仕切り直しだ。次は河童の動きに注意しながら攻め手を考えていかねばならない。

 咲からボールを受けた赤鬼が、あたしにパスを出す。前のふたりも河童を警戒しているのだろう、サイドに展開しつつ揺さぶりをかけていくつもりらしい。

 受けたボールを手の上で浮かす。斎藤さんは――と見ると、近くに河童の姿が見えた。よりにもよってお前が斎藤さんのマークか……。どうする、と悩んでいると、咲から声が飛んでくる。

「弥里先輩、はやく、パス出して!」

 はっとして顔を上げると、目の前に茶髪女子の姿があった。しまった、と思うが早いか、さっとボールを奪われてしまう。

 茶髪女子から白ケモ子にパスが渡る。申し合わせたように逆側から灰ケモ子がやってくる。息の合ったパスワーク。ディフェンスふたりは成す術もなく抜かれ、ボールを持った灰ケモがゴール目前に迫る。

 万事休す――

 と思ったそのとき、「ギャッ!」と悲鳴のような声が前方から聞こえた。声の出どころは灰ケモだ。そして――

 彼女のすぐ前に、一つ目小僧がいた。――ん? 妙だな。あいつはいまさっき、ケモ子たちに抜かれたはずでは……

 呆気にとられたように立ち尽くす灰ケモ子から一つ目小僧がさっとボールを奪う。そして即座にまなにパスを出す。ボールは、まなから赤鬼へ。

「ウォォォォォ――」

 その雄叫びに、相手選手たちは一斉に我に返ったような顔になる。

「ディ、ディフェンスッ!」

 双子の黒髪のほうが言う。が、言ったときにはもう遅かった。ボールを持った赤鬼は、相手ディフェンスの空いた空間に飛び込み、そのままドスンとボールを皿の上に置いた。

 ピピーッ、とホイッスルの音。しかし両チームの選手とも、それに対する歓喜や悔しさよりも困惑に彩られた表情をしている。

「よく頑張ったね、メメちゃん」

 そんななか一人にっこりとした笑みを湛え、まなは一つ目小僧のつるりとした頭を撫でている。駆け寄って訊く。

「ま、まな、どういうこと? いまのは……」

「みーちゃん。あのね、実はメメちゃん、ワープが使えるようになったみたいなの」

「わ、ワープ?」

「うん。昨日の夕方ね、家の外で少しふたりで練習してたときに、突然できるようになって。ワープって言っても移動できるのはせいぜい数メートルだし、連続しては使えないみたいなんだけど」

「もぉー。そういうことなら、先に言っといてくださいよー」

 気づけば咲も隣にやってきていた。困り顔でそう言う。いや、ほんとだよ。

 しかし、ワープとは。驚いた。霊体ってなんでもありなのか? ていうか、そうやって後天的に能力を体得することもあるのか……。霊体道、いまだ奥深し。詳しくなりたいとは以下略。

「いやー、すごいですな、メメ。おかげで助かりましたよ」

 斎藤さんが言う。一つ目小僧はうれしそうに「ぴぃ」とその一つ目をにっこりさせる。

「斎藤さん、うちらも頑張るよ」

「は、はい、弥里殿」

 自分のポジションに向かう。背中にまなの視線を感じた気がした。

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